ファットマンとゼロ戦

詩集(第2話)

松尾模糊

391文字

どこぞの議員が戦争で領土を取り戻すと息巻いておりますが、長崎の地で戦時を生きた、今は亡き祖父母との思い出を現代詩にしておきます。

幼き父を背負った祖母があの日見た空は

 

煌々と金色に輝いていた

 

眩しくて目を閉じた後に

 

もくもくと見たことのない奇妙な形の雲が

 

薄暗くなった真夏の空に昇っていた

 

焼け野原になった街に出た祖母が

 

闇市でどんなことをしていたのか

 

語られることは最後までなかった

 

幼き母と愛する祖母の為に祖父は

 

メリケンの空母に突っ込む零戦を作り続けた

 

右手の二本の指を無くしたその理由を

 

寡黙な祖父が語るとはなかった

 

テレビやラジオが語ることは

 

彼らに何を思い出させたのだろう

 

ぼくが夏になると思い出すのは

 

祖父が苦手なりに孫をあやそうと

 

追いかけてくすぐる仕草

 

いつも笑顔を絶やさなかった祖母が

 

沸かすお風呂の立ち昇る湯気

2019年5月17日公開

作品集『詩集』第2話 (全6話)

© 2019 松尾模糊

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