百円ショップで買った小さな地球儀を鷲掴みにし「地球は俺のものだあ!」と絶叫。あまりの不毛さに自分で呆れた。
具体的に、世界的に認められるためには……ギネスブック。手元のギネスブックを捲ってみると、円周率を数万桁暗唱できる人間が載っていた。
……これだ! 私の場合、趣向を変え……。
一割る三は〇、三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三……。
これなら何億桁でも唱えられる。あまりの不毛さに自分で呆れた。
世界的に認められようと肩肘を張るより、個人の幸せを求めようと思い直した。例えば男の理想。
「後ろに柱、前に酒、左右におなご、懐に銭」。……これさえ無理。銀行からの帰途、懐は軽く足取りは重い。
地獄の沙汰もカネ次第
とんとんちきとん とんちきとん
仏の慈悲もカネ次第
こちらはオケラだ スッテンテン
てんつくてんてん てんつくてん
斯様な歌は己の心を沈めるばかり。もっと開きなろうと思い。
タバコノメノメ ソラマデケブセ
ドウセコノヨハ シャクノタネ
駄目だ! 煙草銭にも事欠いている自分の心をさらにささくれさせる。
もはや、心だけでも陽気にさせねばと思い「アモーレ! カンターレ! マンジャーレ!」とイタリー言葉を叫んでみた。四、五回は繰り返した。
「マンジャーレ! マンジャーレ!」と絶叫しながら、カップラーメンを食した。ひとりでラーメンを食べる事を「ヒトラー」と言う。嘘だけど。マンジャーレ!
突如。
「ジョロンチョ!」と声を振り立ててしまった。
……なんだ? 神からの託宣?
私は「ジョロンチョ」なる言葉を、毎日唱える使命を与えられたのだろうか。
「ジョロンチョ!」。どういった意味なのだろうか。
そういえば、スリランカ民主社会主義共和国に於いては、「アーイーボワン」なる言葉があって、「こんにちは」も「さようなら」も「ありがとう」も、この一語で済ませるそうな。
もしかしたら、「ジョロンチョ」も、そのような霊験あらかたな言葉なのかもしれない。私はシャーマンとして、聖なる言葉を入れたのやもしれぬ。
私は、この「ジョロンチョ」の言葉の威力を試そうとした。
「ジョロンチョ! ジョロンチョ!」と何度も唱えた。特に何も起こらなかったが、屈託していた気分が晴れてきた。
「ジョロジョロ、ジョロンチョ! ジョロ~ン、ジョロジョロ、ジョロンチョ! ジョロンチョ! ジョロ」。
気分は上々、ジョロンチョ。
試しに、あの「夢を書き留めておくと精神に異常をきたす」とメールを送ってきたKに対し、「ジョロンチョ!」の一語をメール送信した。フフ、さぞや驚倒するであろう。
すぐに返信が来た。
ただ一言「オメコップ」と。
……卑猥だなあ。
私はもう一度、「ジョロンチョ!」と送信。今度は「吾輩はメコである」と来た。
私は意地になり「ジョロンチョ!」を送信し続けた。だが、ことごとくKからの返信は。
「キュウリのメコ漬け」
「オメコの大冒険」
「いろはにオメコ」
……さすがは、職場の工場にて外国人労働者から「スケベサマ」と崇められている男である。聖なる言葉「ジョロンチョ」が、まるで通用せぬ。相手が悪かった。
その後、私は会う人それぞれに挨拶代わりに「ジョロンチョ!」と叫びまくった。結論から言えば、相手は私のことを天下の奇観のごとく眺めて「え?」とだけ聞き返すのみであった。また愚にもつかないこと始めやがった、という態度であった。
しかし、私は「ジョロンチョ」という言葉が気に入った。
とにかく、誰かと話している時でも一人でいる時でも連呼している。
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