◇
0. 『 上古神代 』
始原世界〈 センサリテヤ 〉。
時間・空間・重力と、生死と奇蹟と運命すらも、超越したところ。
また《 究極の青 》とも呼ばれる。
淡く青く、濃く蒼く、また黄金と鬱金の、煌めく輝きに満ちた、夢幻美宮の界。
治めるは主宰母神〈 マンマ・ワァガ 〉。
『もはや姿を持たぬ神』。
また、《遍自在神》とも呼ばれる。
◇
1. 『 四界神話 』
〈マンマ・ワァガ〉は、おりおりに界卵を産み落とす。
ある時、その数は一度に四界であった。
この世話は一手に余ると副主宰神〈 レ・リナル 〉はしばし思案し、
界卵を託すため、若き神々らを呼集した。
神々の数もまた卵に合わせて四つ柱であった。
若き神々らはまた、《 いまだ姿ある神 》とも呼ばれた。
◇
1-1. 〈 リースヒェン 〉
「謹んで承ります」
若き姉神〈 リースヒェン 〉は、膝を折って界卵を拝領した。
女神の姿は細く白く丈高く、薄い金の長い髪、瞳は水のごとく淡い白蒼であった。
1-2. 〈 グアヒィギル 〉
「慶んで引き受けよう!」
若き兄神〈 グアヒィギル 〉は界卵を掌中におさめた。
男神は丈高く筋隆々たる美丈夫で、その肌は黒曜石の輝き、黒い巻き毛に黒い瞳であった。
1-3. 〈 マラィアヌ 〉
「まぁ、嬉しいわ!」
妹神〈 マラィアヌ 〉は歓喜にふるえながら界卵を抱きしめた。
少女神は豊かな緑の巻き毛に碧の瞳。四つ柱の中て最も幼き神であった。
1-4. 〈 ティアスラァル 〉
「無理です。」
弟神〈 ティアスラァル 〉は畏れて辞退した。
薄茶色の長い髪に薄茶色の大きな瞳の、少年神であったと言われる。
◇
2-1. 《 エルース・ア・マーリア 》
姉なる神〈 リースヒェン 〉は界の名を
|学究聖都《 エルース・ア・マーリア 》と定めた。
智と探求を求める神々と、仙人と仙獣と聖なる精霊らが集い、
《 光なす内球の界 》とも称した。
2-2. 《 ボル・ド・ガスドム 》
兄なる神〈 グアヒィギル 〉は界の名を|戦勝の都《 ボル・ド・ガスドム 》と定めた。
勝利と闘いと贖いの血とを求める荒々しき神々と、獣神と妖霊らが集い、
《 焔洞界》とも号した。
2-3. 《 ダィ・レム・アールス 》
妹なる神〈 マラィアヌ 〉は界の名を
ひらけき|大地世界《 ダィ・レム・アールス 》と名付けた。
技芸と舞楽を好む若き神々と神獣と仙獣と小さき精霊らが集い、
《永遠無窮の大地》世界と呼んだ。
2-4. 《 ティ・カーセル・ラース 》
弟なる神〈 ティアスラァル 〉は再び固辞した。
ゆえにその界は|大いなる空白《 ティ・カーセル・ラース 》と呼ばれた。
界卵は孤独に育ち、魔神と半神と獣神ら妖霊らが放縦闊歩して、これを《泥球界》とあだ名した。
◇
3-1. 諍い
姉神リースヒェンは潔癖にして癇性。
血と騒乱を好むグアヒィギルらを忌避し、
ボル・ド・ガスドムの民を遠ざけた。
ボルドムの民らは
壮麗なる都エルース・ア・マーリアへの訪問を望むも、
これを「野蛮」とさげすみ、姉神は拒絶した。
3-2. 騒乱
グアヒィギル怒りて天界の守護使を退け、
血刀ひっさげ乱入し、天の聖なる奥宮で、
むりやりに女神を穢した。
女神は怒りて自らの首を斬り落とし、
男神に首を投げつけて、
上神界へと姿を消した。
狂乱する男神の怒号のままに、
ボルドムの民はすべて天界に押し入り、
エルシャムの民を屠り、また穢した。
3-3. 侵害
妹神マライアヌは大地界に逃げ来たる者らよりこれを聞き驚き恐れ、
急ぎ天界へ赴き兄神を諫めるも、
兄神は妹神をも打擲し罵り辱め、
ボルドムの民は勢いのままに
ダレマスの民をも襲い穢した。
3-4. 終焉
これを聞き上神〈 レ・リナル 〉は驚き呆れ、
急ぎ大地界へ赴き暴れる神グアヒィギルを捕縛した。
マライアヌは消沈し、界を見捨てて〈 センサリテヤ 〉へと還った。
◇
4-0. 諦観
末弟神ティアスラァルは、ただその騒ぎを観ていた。
何もせず、ただ、静かに観ていた。
◇
"『 水 の 大 陸 』 … ヤツリーダムの物語 …"へのコメント 0件