『 水 の 大 陸 』 … ヤツリーダムの物語 …

合評会2023年03月応募作品

霧樹 里守 ( Risu-KIRIGI )

小説

18,900文字

     ◇

上古にありし神界《センサリティヤ》。
若き神々により創されし四界の始まりと崩壊。その後。

とりのこされた《泥球界》の底を、

這いまわるものたちの、叙事詩。

     ◇

 

 

 

神は無慈悲で浅慮であった。
[重さ]という名の罠をはり、
すべてのものを閉じこめた。

雑にまるめた泥団子の上に。

 

ひとつの大きな氷精が
[重さ]の罠に捉えられ、
泥団子に墜ちた衝撃で
砕け四散し滴となった。

罠の虜囚の全てのものが
水精たちを犯し喰らった。
さまざまな者に犯されて、
さまざまな子を水は産む。

無力な小さい水の子が、
[空の王]から犯された。
これがわれらの母である。
われらを産んだ母である。

《空の王》から犯されて
《水の娘》が生んだ子は
水気を吸うこと能わずに
ははのなかでは溺れ死ぬ。

母は困って必死になって
泥をこねあげ押し上げて
小さな小さな突起を作り
子たちを水より外に出す。

すると無慈悲な風が来て
子らは今にも乾涸らびる。
母は困って雲靄となって、
ひよわな子らに被さった。

それを見かけた《空の王》
あまりに惨めで見苦しい、
わが子と呼べぬと罵った。
嘲りムチ打ち踏み敷いた。

 

子らを庇って打擲されて、
泣き叫ぶ母をひきはがし、
マシな子種を仕込もうと、
父は無理矢理連れ去った。

母たる庇護をうしなって、
たちまち干上がる水の島。
母の残したなみだの沼に、
むらがり怯える水の子ら。

熱になぶられ風に曝され、
無力な命は外から消える。
飢えて乾いて塵に帰って、
狂って暴れて泣いても死。

きづいた時にはただ一人。
とり残されたるただ一人。
それが我らの始祖である。
我らの哀しい始祖である。

 

いちばん弱くて
いちばん小さい
いちばん守られ
いちばん真ん中

いちばん最後に
とりのこされて
いちばん寂しい
いちばん悲しい

うえておびえて
とりのこされて
ないてさけんで
あにあねをよぶ

するとこたえて
いちばん大きい
みはりにでた兄
まだ生きていた!!

 

あえて嬉しいと、
弟は心底思った。
「その水を寄こせ!」
と、兄は叫んだ。

 

《いちばん弱い》が守られていた、
《ははのなみだ》のさいごの沼の、
ちいさなからだのちいさなかげの、
さいごにのこったどろみずだまり。

 

「それを寄こせ!!」と兄は叫んだ。
狂った顔して、突進してきた。
奪られたら死ぬと弟は思った。
怖くてその後、覚えていない。

 

よろめくからだにつめのないうででくみついて、
さけぶあいてのはなをまだみじかいおでうって、
ひびわれたはだにきばのないくちでかみついて、
くちのなかにしみでたちのあじに歓喜し叫んだ。

 

「 お い し い 」 ……………… !!!!

そしてきづいたときにはただひとり。
そらは蒼くてくらくてがらんどうで。
すべてのものがにくくて悔しかった。
たべられたほうがましだったはずと。

 

はやくしにたい。
はやくしにたい。
はやくしにたい。
はやくしにたい。

 

いちばんよわいはよろぼいあるいた。
ははのなみだにあたいもせぬおのれ。
あにのちのしみからさまよいはなれ。
てんなるちちよはやくきてころせと。

 

するととおくでひくくうめく声がする。
あにあねのむくろにうもれすすり泣く、
いちばんよわくていちばんあいされて、
かばわれむくろのかげにまもられた牝。

 

いのなかみをすべてはきもどしてたべさせた。
いのちがけでおしてひいてさいごの母の涙へ。
おおいかぶさり天のにくい光の矢から守ろう。
このめすだけはじぶんよりはやくは死ぬなと。

めすはいのちをふきかえし、
ひびわれたこえで細く言う。
このかゆは姉者の味がする。
このみずは兄者の味がする。

やがてようよう母が戻った。
なぶるに飽いた父の元から、
はらんだ腹で逃げて戻った。
そしてみつけるわが子の姿。

 

月みちて水の初子の弟らも生まれ、
月みちて水の初子の子らも生まれた。
水の初子の雄はみずからを恥じて死に、
水の初子の雌も子らを遺して後を追う。

 

水の初子の弟妹は、
やはり水気は吸えねども、
父に良く似た傲慢で、
二足で歩いて広がった。

 

増えて広がりこれでは狭いと、
埋めよ増やせよ《水の島》。
ならねば母をも呪おうぞ。
憎むと脅して使役する。

水の初子の子どもらは、
いついつまでも悲しんで、
哀しみの泥をはい回り、
やがて母なる海へと還る。

母なる水はもう二度と、
天の子生まぬと決意する。
かなしみひしがれ重さのあまり、
死ぬることさえ奪われた。
これがわれらのはじまりである。

われらの呪いのはじまりである。

 

 

2023年3月13日公開 (初出 ( パブー @ デザイン破壊エッグ )他。 

© 2023 霧樹 里守 ( Risu-KIRIGI )

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