『 水 の 大 陸 』 … ヤツリーダムの物語 …

合評会2023年03月応募作品

霧樹 里守 ( Risu-KIRIGI )

小説

18,900文字

     ◇

上古にありし神界《センサリティヤ》。
若き神々により創されし四界の始まりと崩壊。その後。

とりのこされた《泥球界》の底を、

這いまわるものたちの、叙事詩。

     ◇

 

1-4-1. 《時の横穴》

 

ふたたび地は動き、山は育ち、陸は広がり、
草木は萌えて増え広がった。

 

《碧葉国》と《神殺しの帝国》は、
主に気候の温暖な大陸の北西海湾に栄え、

 

冷涼で急峻な南の内陸山地には、
《谷》からのわずかな移住者と、

 

ひとまとめに《異族》と呼ばれる
少数部族の者らのみが、
まばらに棲んでいた。

 

ある時、塞がれていたはずの《谷の横穴》に、
ひとりの女が墜ちて戻らぬ事変があった。

 

これを憂えた《月女神レ・リナル》が、
天より降り来たりて《穴》をふさいだ。

「地が動き、蓋がずれた。」と。

 

 

 

1-4-2.《月女神殿》

 

《時の横穴》をふさぎ見張りの幽兵を配し、
その地にそのまま堅牢なる銀の城砦を築き、
《銀月女神》はそのまま、しばし留まった。

 

《神殺し》たるを誇る《帝家》は
これを苦々しく思ったが、
版図より遠き寒き山塊のことゆえ、
あえて構いつけはせず、
そのまま黙殺として捨て置いた。

 

 

 

1-4-3.《月女神》信仰。

 

《谷》の人々はこの都邑を《月女神殿》と呼び、
畏れ敬い、次々に訪れた。

 

それまで心の拠りどころたる《神》というものを
持たずにきた《涙滴大陸》の余の者らも、
これを奇に思い、畏れ敬った。

 

やがて《月女神》はまた
『すべての雌と女たちの守護者』であるとされ、
子宝や良縁や、また離縁を望む者らが
続々と遠方より訪れた。

 

 

 

1-4-4. 女剣士(ルワ・ヘルマ)と女騎士(ルワ・ブラダ)。

 

《月神殿》を詣でる女と雌たちを護るために
《女剣士》と《女騎士》がうまれた。

 

それまで《帝国》においては
雌と女は泣きながら男と雄に犯され、
哭きながら使役され、
嘆きの子守唄を低く呟きながら

 

子や仔を産み育てる為だけの奴婢であって、
決してそれ以上ではなかったが、

 

《女剣士》と《女騎士》が力と智慧を得て、
男や雄たちと互角に闘い得ることを見て、
人々の心が変わった。

 

月女神の守護を得た女は、
すべての男が定めた掟から、

 

解き放たれて自由となる、
という不文律が創られた。

 

初代の《女騎士》の名を

リ・リィン=カ・タナンという。

奇しくも、《時の横穴》に墜ちて死んだ女が
遺した娘で、

 

《谷》と《碧葉》の血を併せ持ち、
金の長い髪に金の瞳の、
白真珠の肌の細身の姿であった。

 

 

 

1-4-5. 巫女戦士

 

《谷》と《帝国》の契約に基づいて《献納戦士》とされた女が、
その戒律を反故にするため

 

月女神に誓いを立て、
初の《巫女戦士》となった。

 

その名は《ハユンのアマラーサ》。

黒髪黒瞳、褐色の肌、男勝りの大柄な女であったと伝える。

 

《大旱魃》に際しては
飢饉に襲われた《谷》の戦士と共に、
奪われた《水神娘》を救い出し、
涙滴大陸を餓えから護った。

 

 

 

1-4-6. 月女神、去る。

 

大地鳴動し、大山脈が再びみたび激しく隆起し、街道は崩落した。

 

「足で歩む者は二度と再び《時の横穴》には近づけぬ。」と宣し、

《銀月女神》は《泥地界》を去った。

 

女神が残した《 三親の法 》(ミトラの教え)だけが残り、

幾度となき禁令にも耐え、
長く広く帝国内外に流布された。

 

 

 

2023年3月13日公開 (初出 ( パブー @ デザイン破壊エッグ )他。 

© 2023 霧樹 里守 ( Risu-KIRIGI )

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