『 水 の 大 陸 』 … ヤツリーダムの物語 …

合評会2023年03月応募作品

霧樹 里守 ( Risu-KIRIGI )

小説

18,900文字

     ◇

上古にありし神界《センサリティヤ》。
若き神々により創されし四界の始まりと崩壊。その後。

とりのこされた《泥球界》の底を、

這いまわるものたちの、叙事詩。

     ◇

 

 

 

1-0. 《名すら無き者》

 

長い長い時が経った。

 

《水霊母》が《太陽神》から、
むりやりに産まされた二度目の卵群は
誰からも省みられることなく、

ただ地の熱に蒸されて孵り、

 

幼いうちからたがいを憎み、
競い争い、食らいあって育ち、

強者が弱者を喰らい、

また犯して産ませ、
産み捨てられ、
いたぶられ、逃げのびて育った。

 

彼らを呼ぶ者とて他になく、
彼ら自身も

みずから名乗ることがなかった。

 

 

 

1-1. 《 袋を持つもの 》

 

そうして無知にして無慈悲のままに、何億代かが過ぎた。

 

生き延びおおせ、
勝ち残るために、
より強くあるために、

 

彼らは
平たく這いつくばる四ツ足と鱗の姿から、
長く伸びた四肢と

首とくちばしと、

軽く暖かく空気をはらむ、
みごとな羽毛もつ姿に
変化した。

 

より速く逃げ、より確実にわが仔を護るため、
雌たちは、腹に卵や袋を持った。

 

 

 

1-2. 《コ》族

 

生きのこるために彼らは学習し、
やがて記憶と知識を持った。

 

始まりの言葉が生まれ、
語り継がれる物語が生まれた。

 

仲間と敵の見分けかた、
群れることと護りあうこと、

 

時に応じて切り捨て裏切り
見捨てて生きのびることを

学んだ。

 

その中で最強の者らはやがて

自らの仲間を《コ》族と名付けた。

産み増えて地に満ちたが、

心は常に孤独であった。

 

 

 

1-3. 《 神 》

 

まえの長老の

また前の長老の、

そのまた前の前の

大昔の長老が、
この世の始まりには《 神 》というものがあったと

語り伝えた。

 

そのような伝え語りすら記憶の闇に隠れるころ、
《コ》族の〈ヘ〉という者がおとぎ話を笑い飛ばした。

「カミなぞおらぬ。この世の最強は、ただ《コ》族のみ。」

 

 

 

1-4. 《 天 雷 》

 

その時、天が轟き揺らめき、地が裂け割れて、崩れた。
人々は怖じ恐れて、

〈ヘ〉の不敬を罵倒した。

 

やがて天地が冷え、冷たい雨が〈冷たく白い沙〉に変わった。

草木は枯れ、虫は死に、
人々は飢え、獣も餓えた。

 

 

 

1-5. 《 魔 竜 》

 

〈冷たき白き沙〉に埋もれた山中より、
火のように熱く焦げた息を吐く、

餓えた巨大な魔竜が現われた。

 

次々に《コ》族を襲い、

弱った仔どもや孕んだ雌らを喰らった。

人々は噂した。

 

「あの恐ろしき魔のモノこそが、《 神 》というものに違いない!」

 

 

 

1-6. 《 神 殺 し 》

 

〈ヘ〉は嗤い飛ばした。

槍を研ぎ、仕掛け弓を張り巡らし、
怯える同族らを叱り飛ばして、
ただひと群れで《 神 》を襲った。

死闘の末、《 神 》は斃された。

斃した神の肉を喰らって、《コ》族は冬を乗り越えた。

 

 

 

1-7. 《 神殺しの智王 》

 

あまたの同族を率い、策略の限りを用いて
《神》と呼ばれた巨大な魔竜をみごと斃した〈ヘ〉は、

その勲しを讃えられ、

 

《神殺しのコ族の王》
〈コ・ヘウ・ケ・レンテン〉と呼ばれた。

 

それまでは強き者らが無秩序に
争いあっていた《コ》族の
全てを束ねる者となり、

 

やがて手足となる眷属がうまれ、
王族と貴族と呼ばれ、

 

下つ奴婢民どもと
上つ上長族との、

 

区別がうまれた。

 

2023年3月13日公開 (初出 ( パブー @ デザイン破壊エッグ )他。 

© 2023 霧樹 里守 ( Risu-KIRIGI )

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