おれと教室。

巣居けけ

小説

4,473文字

悲観的なナイトプール……。さらに天井から落下することを望んでいる孤独で不採用な冷たくとろける魅惑の弾丸……。

おれは目の前の教室の扉を引いて開けた。途中、ヨーグルトのような柔らかくて妙に臭う存在と触れ合う妄想をしたが、おれの脳のしわはいくつになってもブランコのように行ったり来たりを繰り返している。

第一号車のアラブルドは、自分の席の前で両手をペンギンのように左右に広げると、高速で回転させた。するとその動きに合わせて白い霧のようなものが発生し、それはやがて胸の位置に流れ、中心で一つの塊となって机に降臨した。
「なにこれ、精子?」

おれは教室に入りながらアラブルドに訊ねた。足からはいくつもの種類の百足が這い出て、床の灰色を濡らしていた。
「私の気力、そのものです」

ならいくつかの螺旋の階段のように頭を丸めて猫になれ……。「オオカミ少年だと思ったらオオカミ本体が来ちゃった、みたいな?」皮膚と肉の間に発生する蠢く奇妙な感覚……。

おれは教室の中で一番腐っている席を見つけると、ポケットから懐中電灯を取り出してその机を照らした。すると周りの他人行儀な生徒たちが一斉にこっちを向き、さらにその中の一人でおれに近づいてくる……。

彼は粘着性のある涎を垂らしていた。顎から落ちるそれは床の灰色を濡らしていたが、次の瞬間には百足たちと一緒になってとろけて、床に新しい色をもたらした。
「ホルムアルデヒド溶液」と、その男は話して立ち上がる。男はどうやら空気椅子を好んでいたらしく、一斉にため息を吐くとどこかへと消えていった。
「なんだったんだ?」おれは溶けていなくなる男の腐った背中に問いかけてから椅子に座った。

その瞬間に人形が落下し、おれたちの頭に次々と振りかかる。黒板ではいくつかの色とりどりのチョークが勝ってに暴れまわり、ひっかいたり、ここで一番の美貌の持ち主の女生徒の顔を模写したりしている。「あまり似てないな……」

おれは机の中からいくつかの教科書を取り出して並べた。そして口に人差し指を入れ、唾液を掬うと教科書たちの上で指を動かした。唾液を飛び散り、教科書に付着した。おれはその中で最も汚れた教科書を選んで取り上げた。二十三ページを開き、女の恰好をした男が黒板に向かって激しく口を開き嘔吐をしているイラストにキッスをして付属する説明文を読んだ。

なあ、トコンシロップを作れ……。さらに巻き込んで伸縮していく泥の連なりと音の鳴る微風……。
「もういいや……」

おれは多少の苛立ちを感じながら教科書を閉じた……。

道徳と魅惑の予定表が絡まり、ジム・トレーニングに新しい校舎が振りかかる。おれは教室から視ることができる西の空に別れを告げてから、隅の水道の場所に向かって、窓から太陽に向かって吠えた。
「おい! おい! どうして道楽的なんだ?」
「やめたまえ!」

おれは声に反応して後ろを向いた。開かれている扉の先には白衣の女が立っていた。
「ペンウィー先生!」
「どうして君のような若人が叫んでいるんだ? 君はクラブ・ハウスに向かったことはあるかい?」

ペンウィー先生は眉毛を高速で上下させながら教室に入り、おれの方に向かってくる。
「い、いいえ……」おれは娼婦の若い女のような声を出してしまった。

最低限の用意とポケット・カウンターや道路と黄色の目……。屹立した先天的な蜥蜴と飼い犬の音……。歌詞を忘れたオペラ……。一人だけの班長……。

おれは教壇に向かったペンウィー先生を無視して『カーニバル』を演出する。そして飛行機の物真似を続ける。さらに尻尾を掴んだアルファベットに道徳的な百足の処理を任せる。先生、おれは私立の高校ではない……。
「それで? 今日の日直は?」
「スイテラス君です……」
「そうか。なら道徳は?」

おれは答えたくないよだ、と口で演出する……。
「ならいいか……」

ペンウィー先生は黒板に振り返ってチョークを握り、校長の睾丸を描いてさっさとこの腐った教室から出ていった。(この学校の校長の睾丸の姿は、この学校の生徒や教師なら誰でも知っている)

財団の注意を轢き殺すための満員の屋台……。さらに連なる適正テストの日数……。おれは会議室の中のコンピュータに唾液を垂らす。病気の男たちが粘液を漏らしながら風船を膨らませて廊下に立っている。
「静まる会議だって? そりゃあ不確かだよ……」と、アンドルはとろける声で確定した予測を吹いている。おれは自分の頭の中でいくつか繰り広げられている浅いオフィスの中に立っている茶色の胴体に質問の用紙を投げてから立候補の中に飛び込む。

瞬間と、歯ぎしりの連続……。気体と固形のあちこちに飛びまわる列車……。トロッコによるところの見解……。

おれはやはり倒れてしまった蛇の軍団に別れを告げてから他の待合の人間に挙手をして哺乳瓶を投げる。「実体が無いだって? そりゃあ不確かだね!」と脳裡の中に貼り付いている八百屋がひたすらに笑っている……。
「うう……」
「どうしたの? 頭痛?」

おれは頷く。そして立ち上がり、とにかくはやる気持ちで便器に向かう。

おれは自分のカートの中になだれ込んでくるいくつかの波の中から、自分に最も適切な会議の音を調べる……。そして残ったカスのような脳の破裂の余興にキッスを落として頬を殴る。おれは女たちの陰茎と拳の大きさを測る……。おれは自分の身体が定規になったつもりでしゃもじを取り込む。おれは光を除去する隊長ではない。

我々の赤飯を介入によって阻害するべきなのか。それとも方角を知らない赤子に数式での連絡を優先するべきなのか。おれは列車が過ぎ去っていく中で水滴を見出し、次の絵本による波を予測してカメラを起動する……。機械のすみやかな音が響いておれの遺骨を振動させている。
「何かほかのものを当てる必要があるな……」

おれはトイレの中で自分に問いかける。すると脳裡が人型に変形し、おれの問に答えてくれる。
「そうすればいいじゃないか! 君は自由だ……」

いくつかの『おれ』と教室……。おれは這い上がってくる大便をそのまま下ろして血を吐く。するとトイレの全体が塗られたように真っ赤になる。おれはトイレットペーパーが無いことに気が付く……。
「買いにいかなくちゃ……」

おれはトイレの中央にこびり付いている大便に群がる百足に問いかける。
「ねえ、本当に君が僕を産んだの?」
「どうだろな……。はは、いけないかも」
「それなら僕を殺してよ!」
「まあまて……。おれたちは購入者だ……」

悲観的なナイトプール……。さらに天井から落下することを望んでいる孤独で不採用な冷たくとろける魅惑の弾丸……。

そしておれは審査を通り抜けたスーパーマーケットに出向く。そして最新式のトイレットペーパーを手に取り、すぐにレジに向かう。
「こんにちは! 今日は金曜日なので、二倍の金額を払う必要があります」
「チクショウ! どうして逆流がくるんだ?」
「はい? 私は三日月の元に生まれましたけれど?」

そしておれはポケットの中の回転式拳銃をドカンとやる……。店員が吹き飛び、血飛沫がパンに振りかかる。

おれは赤に染まったパンを口に運ぶ。「美味しい」そしてトイレットペーパーを持って学校に帰る。
「キョウスケくん、どこに行っていたんだ?」
「台風」

おれはすぐさま例のトイレに向かい、トイレットペーパーを補充する。「完了……」

教室に戻ると、すでに人力野球が発生していた。三角のベースに跨る山田が、でぶの佐藤と一緒に野球ボールに徹していた。
「なあ、おれには体力がないんだ……」そして流水を泥に落としてから、おれは教室の扉を閉じて階段を下る。求職専門の生徒たちが、ゴキブリを咀嚼して水滴を落としている。
「これじゃあ腹のタシにならない……」
「なら盗みをすればいい」

おれは向かってくるゴキブリの足を捨てて一階に下りる……。

黄色い音……。さらに追跡してくる車の横……。おれは弾丸を止める指たちに別れを告げてから、文字通りの原稿用紙に虹の言葉を書く……。五十分の流れを掴んでから洞窟に引きこもる……。音がやんで臓器がざわめく……。家庭科室がおれを呼んでいる……。おれは毛布に包丁を当てる。「深い雪……」

おれたちのテレビ……。総括的なレシピ……。おれは調理済みの料亭にナイフを入れてから湧き出てくる液体に名前を付ける。最低限の包みと音のする鼻孔……。蟻の巣や迫り来る岩の軋轢……。コンビニエンスストアの煙草……。
「鋼の音か? それともここら辺で一番凍えている男か?」
「サウナ……」

家庭科室室長が叫んでいる……。扉が開く音がする……。ペンウィー先生が立っている……。おれは彼女と共に二度目の階段を下る。さらに廊下の最中の自動販売機の中でくすぶっている赤子を飲み込む。おれは両目を開いて自分の右手が百足になってしまったことを自覚する。「箸は動かない……」
「本当に? 力学的に?」
「ええ」とおれはいかにも大学生らしい声色を彼女の耳に突きつける。「ほんとうに溶けてしまったんです」

とろけるだけの螺旋と鉄の顔の無数に広がる音たちと削岩機の群れ……。小枝のステンレスで料亭を始める。老婆たちが歯列をむき出しにして木材を舐めている。おれはその後ろを行って土管に入って弾丸を見つける。
「それで? どうするんだ? もう化粧だけじゃあ誤魔化せないぞ?」
「それでいい……」おれはマントをばさばさとやってから鏡を口に入れて割る。「それで、いい……」
「そうかい」

ペンウィー先生が理科室に帰って行く。さらに過ぎ去っていく鉄と医療の風上の銀行カード。生徒たちの唾液を集めた点数と地球儀の清算。脳天から血が迸り、最後に吹き飛ぶ手斧が女の首に刺さる……。

おれたちは精神科医の男を殺して周る……。さらに尿道にピンセットを突き刺して女児の鳴き声を学ぶ。最後に鉄の玉を転がして夜間に発生するマンホールの落下予測地点に暖炉を渡す……。

そして、『見返りの無い医療』だ……。最後までメスを握っていることができた暗闇の執刀医だけが次の手術のステージに渡ることができる。おれは階段の中に臓器の破片が転がっていないかを確かめながら突き進む。洞窟が肉の壁に変化していることを調べていく中で知っていく……。

教室の天秤やサイケデリック的装飾の階段……。掃除用具のロッカーに隠された吹き矢と鉄の塊たちの会話文。おれは全ての発言をまとめて記すだけの秘書を殴る。お前はどうする?

神話を始める手前の亀裂の鋭さが、坂道の電源を挿入してからインクを垂らしている。おれは酒場の中央であの教壇のことを話しているが、病院の中の野菜の収穫時期にはほど遠いことを理解させている。
「君はどこに向かっているの?」
「教科書の中……」

おれはこの教室から見える校庭の位置に落下している赤い絵本を踏みつけてから錠剤を飲み下す……。

あらかじめ採取しておいたミミズの中身をぶちまけろ……。そして金髪に変身した男たちが胸の体毛をライターで割っている。おれは割りこみの数式にチョークを入れてから退室して、明後日のテストの先取りを行う。

丁寧な印……。直線的なサーチ・ライト……。おれはヘリコプターの中で尿を放出し、自分で購入したばかりのバイクのスクラップを装飾する……。

2023年2月9日公開

© 2023 巣居けけ

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