恐鳴館・狂鳴館・叫鳴館 クライ・ホール三館二十八人連続密室殺人事件

踊ってばかりの国(第9話)

諏訪靖彦

小説

1,582文字

 

――読者への挑戦状――

この仰々しいタイトルの探偵小説が、いきなり読者への挑戦状から始まったことに諸兄姉らはさぞ驚かれたことであろう。しかし、これには理由がある。諸兄姉らが本作の解決編に触れる前、事件を推理するうえで出題編を読み返さなくてもいいように最初に読者への挑戦状を入れ、あらかじめ重要なポイントを示すことにした。時間は無限ではない。学業にいそしむものは、試験前にいかに効率的にカンニングできるかを考える時間が必要だろうし、就職しているものは嫌な上司を殺すことを夢想する時間もまた必要であろう。主婦、または主夫は、パートナーの寝首を掻いて完全犯罪を成し遂げるためのトリックを考える時間が必要だ。そんな諸兄姉らの大切な時間を奪うのは私の本意ではない。したがって読者への挑戦状を先に提示することにより、出題編を血眼になって読み返さずとも推理できるようにした。

「恐鳴館」は北海道紋別市、「狂鳴館」は東京都八丈島、「叫鳴館」は沖縄県与那国島にある洋館である。戦前、稀代の無国籍多言語天才建築家、中村赤司が設計した四八ある洋館の内、現存している洋館は十三、その中で「クライ・ホール三館」と呼ばれる館で次々と殺人事件が起こる。死者の数はなんと二八人、しかも、そのすべてが密室殺人だ。各館の距離はGoogleMapで調べてほしい。いや、あまりにも離れているのでGoogleEarthで調べる方がいいかもしれない。GoogleEarthで表示される画像はリアルタイムではないので、中国漁船や巡視船の位置が分かると言うと失笑を買ってしまうので、その辺は勘違いしないでいただきたい。とにかく日本列島の北のはずれと、東京湾から南に何百海里も離れた場所にある島、沖縄本島より台湾島に近いところに位置する島に建つクライ・ホール三館で忌々しい連続密室殺人事件が起こるのだ。

今回、諸兄姉らに推理してもらいたいのは以下の事柄である。少々長くなるが、前述で述べたように五〇〇〇枚を超える探偵小説をチャッチャと読み解くうえで、必要になるのでしっかりと確認してほしい。

・館に集まった大学のミステリ研究会合宿参加メンバーが名乗っていたミステリ作家から取ったあだ名、「エラリイ」「アガサ」「ポウ」「カー」「ヴァン」「ルルウ」「オルツィ」と、ミステリ研究会メンバーと本名の対応。
・最初の密室殺人が起こったあと、突然現れた未来人を自称する中国人、「フー・マンチュー」を探偵役の人物が犯人ではないと看破した理由。
・鋭利な刃物で首を切断された被害者が他人の首を持って館内を移動、入った部屋で自ら鍵を掛けた後に息絶えたことへの理論的説明。
・新館と旧館で時間の流れが異なっていることに気が付いた根拠。また、館の主人はなぜ新館と旧館で時計の進み方を変えていたのかの説明。
・三人称単一視点の視点となる人物が物語終盤までモブだと思って忘れ去られていた人間であった。実は女だったとか、男だったとか、老人とかだったなどといった使い古された一人称を使った叙述トリックではなく、いわゆる人物の隠匿を三人称単一視点の構造的あいまいさを効果的に使い、叙述トリックの新境地を切り開いたミステリ作家は誰か。
・刑事が靴底をすり減らし、聞き込みに聞き込みをかさねて、辿り着いた犯人が被害者の愛人だった、などというエレガントさの欠片もない解決はミステリとは認めないとする、社会派ミステリをデビュー作でディスりまくった作家は誰か。

すでに賢明な諸兄姉らは気が付いていると思うが、これらの推理を行う上で出題編を読む必要はない。全くもってない。ミステリ者であれば出題編を読まなくとも提示した謎を全て解けるはずだ。何度も言うが、筆者は諸兄姉らの貴重な時間を奪ったりしない。すっごく気配りの出来た人間なのである。

では健闘を祈る。

――出題編――

2020年10月29日公開

作品集『踊ってばかりの国』第9話 (全10話)

© 2020 諏訪靖彦

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