白い割烹着

モロゾフ入門(第8話)

第28回文学フリマ原稿募集応募作品

工藤 はじめ

小説

5,567文字

これから始まる小説は、いろいろと世間を騒がせたタレント松居一代の個人事務所のパソコンに眠っていたエメーリャエンコ・モロゾフの私小説です。サーバーとして運用しているパソコンのフォルダの奥底の階層に隠されており、ブルガリア語で記されていました。松居一代はそれをコンピュータウイルスだと誤解したようですが、松居一代の個人事務所で働く工藤はじめがその文字列のコピーを自宅のパソコンに送信し、辞書を片手に翻訳を試みました。

私の絶対に知られたくない秘密を今明かしたいと思います。もし知られたら世間から顰蹙を買う類のものだから公開しないほうが絶対いいに決まっています。でも私はもう自分の裡で我慢しておくことが限界なのです。それはリビドーみたいで、発現するな、するなと言われるほど発現したくなります。禁忌にされた状態があり、それに抗い曝け出すことで興奮できます。まさに性欲です。

だから私は公開するのです。この松居一代の個人事務所のサーバーというほとんど誰も見ていないであろう場所で公開し、私はエクスタシーに達するのです。しかも言語は日本語ではなくブルガリア語という日本では誰も読めないようなものにして、自分の小説が読まれる可能性を下げます。でも、実際には完璧に公開されているのです。露出狂がちらっとコートから下半身を出すような快感が私を襲っています。

よし、秘密を公開するぞ。

実は──元「モーニング娘。」矢■真里の二十四番目の不倫相手が私であり、新潟を拠点に活動するアイドルグループNGT48にSEXをする目的で近づくアイドルハンター軍団の一人が私であり、小保方晴子研究員のSTAP細胞捏造に関与したのが私です。

──はぁ、はぁ、やっと言えました。今私は絶頂しました。それはさておき、皆さん、こんなこと自分の家族や親戚になんて絶対に知られたくないでしょ。私はそれを今公開したんです。

現在、私は松居一代の個人事務所のサーバー管理の仕事をしています。松居一代は、当時夫だった船越英一郎の悪口動画やおちんちんシールを暴露する動画をユーチューブにあげました。しかし利用規約違反で削除されそうになり、最終手段として自分の事務所のサーバーにあげようとしていましたが、それを提案したのが私です。私も表現者ですから、表現規制が許せなかったのです。松居一代は、演技がうまくユーモアがあってねじが抜けていて私は大好きです。鼻が尖っていて、表情豊かな魔女みたいな顔に私は恋愛感情を抱いています。

風俗通いをし、お金がなくなった私を松居一代が雇ってくれました。ホームレスだった私は面白いおばさんがいるということで松居一代の個人事務所を訪れ、「一緒に笑って仕事がしたい」と懇願し、松居一代事務所の一員になりました。最初は事務所内の清掃と車の運転手の仕事でしたが、今ではサーバー管理の仕事も任せてもらえるようになりました。

とろこで、松居一代みたいに良い意味で頑固な人と言えば、理研の小保方晴子っているでしょ。STAP細胞の人ね。

STAP細胞の捏造疑惑が浮上したとき、「STAP細胞はあります!」「二百回以上、作製に成功しました!」と平然と言い張っていましたね。

どうして小保方晴子があんなに自信満々で、「STAP細胞はあります!」と言えたかを、皆さんはご存知?

専門家から「論文に不自然な点がある」「論文の画像データに加工された形跡がある」「他の実験の画像データを流用している」と指摘されて、それでも堂々としらばっくれることなんかできるとお思い?

私にはできません。

皆さんにもできないと思います。

──なぜ小保方晴子にはできたか?

それは皆さんの想像をはるかに超えた理由が存在するのです。

 

 

 

2019年5月6日公開

作品集『モロゾフ入門』第8話 (全13話)

モロゾフ入門

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© 2019 工藤 はじめ

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