きょうどう!

応募作品

工藤 はじめ

小説

2,939文字

合評会用。

お金よりも、ほかの作品と触れ合いたい、異なる新しい価値観に出会いたい、と思って参加しました。

去年まで女子高だった加賀美高校になぜ僕が男ひとりだけ入学することになったかというと、お金がなかったからだ。僕はもっと進学校に行く予定だったが、願書を出す去年の10月に父の会社が倒産、会社の債務の連帯保証で父には多額の借金が降ってきた。返済するために父はどこかへ肉体労働へ出かけてしまい、母は離婚して出て行った。嘘みたいなことが本当に起こってしまったのだ。お母さんも愛を抱いて結婚したんだから、出て行くことはないだろうと僕は思ったが、でも愛情を失った母の気持ちも分からないでもない気がした。結局人間は平穏を求めるということだろうな。

男女共同参画社会基本法により、公立高校の加賀美高校も共学になることが義務付けられた(厳密には「努力義務」であり、法学では「努力義務」とは守らなくてもよいという意味になるのだが、素人の大部分の人間はそんなことを知らない)。でもいきなり男子を受け入れたところで男女の比率が1対1になる可能性は低いし、それどころか男子がほとんど受験しない可能性もある。そこで定員の1割を限度に男子に給付型の奨学金制度を設け、一定枠は男子が占めるように取り組んだ。僕は自分の家の残された貯金と相談し、僕が行けるのはこの高校しかないと思った。他にも貧しい家の男子が入学してくるだろうと思っていた。ところが、入学したのは僕しかいなかった。その理由はすぐに分かった。世の中の一部の女性は、男子が少数、女性の空間に入った場合、痴漢扱いをしてくるからだ。そんな扱い、誰だって受けたくない。

それにしても皆がセーラー服なのに自分だけ学ラン姿というのは肩身が狭いものだ。単に衣類が違うというそれだけなのに、何か自分が存在してはいけないみたいに思ってしまう。女子になんとなく、

「あの映画観た? 『君の名は』だっけ」

と話しかけても、

「うん、観たよ。良かったよね」

とだけ答え、そそくさと僕の近くを離れ、女子の集団の所へ行ってしまう。僕もそういう態度をとられると、しばらく独りでいなくてはならない。だってその直後に他の女子に話しかけたら、自分が女子と仲良くするのに必死でみっともないし、なんかストーカーや犯罪者みたいだし、そんな自分が嫌だからだ。そして何ともいえない空気が漂うのだ。僕もさっき話しかけられた女子も罪悪感も背負っている空気。

英語でふたりでペアになって教科書の会話文を読め、なんて先生の要求は鬼畜だ。僕と積極的にペアになりたいなんて人がいるはずがない。皆、最初は女子を選ぼうとする、最後にあまったひとりが僕とペアになる、もしくは、僕がひとりだけ余った場合は適当な女子のペアに自分も入れてと3人のペアを作らないといけない。そうしないと先生が怒るからだ。

ある日、英語のペアになって教科書を読む時間に、小澤さんが「杉田くん、今日からあたしとペアになって」と僕に言った。小澤さんは、ブラウンがかった黒髪のショートボブで、サイドの太い角のような髪の束からは、丸いほっぺがぷくっと出ていた。眼は宝石みたいに光っていて、唇はクラスの女子で誰よりもピンクだった。リップを塗っているのもあるが、もともとピンク色なのだろう。小澤さんはどうして僕となんかペアになろうとしたんだろう、と授業中ずっと考えていた。

放課後、小澤さんは僕の手を引っ張って、空き教室まで連行した。僕は周りの目が気になった。なんか恥ずかしかった。手から小澤さんの体温を感じていた。

「あたしたち、今日から部活をするわよ」

笑顔だけど、慎み深く小澤さんは言った。確かに、僕も小澤さんも帰宅部で、でも加賀美高校は部活は強制参加じゃないから、わざわざやる必要もない。小澤さんは何を考えているのだろう。

「それで、何の部活をするの?」

「女子と男子の共同の社会を浸透させ、平和を実現し、杉田くんを応援するための部活ね」

「なんで僕が活動目的になってるの」

僕はやれやれと思い、眉間を指で抑えた。何事も起こらずに、普通に高校生活を送りたいという僕の願いは消え去っていく。そもそも活動目的がよくわかならい。何をする部活なのだろう。

「ところで、小澤さん、この部活は具体的に何をするの?」

小澤さんは目を閉じて考えながら、

「アニメ観たり、カルピスを飲んだり、ビスコを食べたり、男女差別を改善したり、漫才をしたり、かき氷を食べたり、学校の事件を解決する部活かな」

「いや、わけわかりませんから」

そのとき、ありえないことが起こった。唇に硬い感触と、神経が窮屈な感覚─小澤さんが僕と唇と唇を重ねて、すぐ離したのだ。僕は何が起こったのかよくわからなかった。ふたりは無言になった。小澤さんが顔を赤らめながら言った。

「杉田くんのこと、好きなの」

「どうしたの急に?」

頼むから冗談だと言ってくれ。でもさっきキスしたくらいだから……僕は脳が混乱して、何がなんだかわからなくなった。

小澤さんも混乱して震えながら答えた。

「あたしね、昔から、よく変わってるって言われてて、板チョコと固形のカレールーを一緒に食べたり、学校の登山のお弁当にバナナを5本持っていったり、街角の募金で1万円を入れたり、ワニを気ぐるみでコンビニに行ったり、学校の期末試験では平均点をわざと狙うのに模試では本気出して暴走し学年1位とるし、塾では窓をあげて教室の電気につられた虫たちを教室に入れて虫たちと一緒に勉強したり、まあ塾の先生にはあきれられてたけどね。でも、自分ではおかしなことしてるって全然おもわなかったし、そんな自分を恥じたことは一度もなくて、別に人と違うところがあったってそれでいいと思ってた。女子高にひとり入学した杉田くんを見ていると、なんか自分と同じっていうか、応援したいっていうか、ほうっておけないっていうか、自分がなんとかしないといけないというか……うまく言葉にできないけど、端的に言うと好き……といってもこれは恋愛としての好きがどうかはわからないし、その前段階のなにかかもしれないし、あたしはどうすればいいんだろね。こんな気持ちだけ一方的に君に言っちゃってさ、迷惑だよね」

「め、迷惑じゃないけど……」

小澤さんと一緒に部活なんかをしたら僕はとても大変なことに巻き込まれそうな気がしたけど、でも、それくらいだったらいいんじゃないかという気もしてきた。部活を一緒にやると別に死ぬわけじゃないし、小澤さんも別に人柄が悪いわけでもないし、僕なんかと仲良くしてもらってるし……顔もかわいいし……。僕は体が熱くなってきた。

「じゃあ、これから部活よろしくね」

恥ずかしさを打ち消すように小澤さんが大声で言った。僕はうんと答えた。

空き教室の隙間から、丸いめがねをかけた女の学級委員長がスマホを持ってこちらを覗いていた。

「まさか!」

僕らは声をそろえて言った。

「あななたちがキスしている様子、撮影しちゃった。みんなにバラそうかな」

学級委員長のからだはふるえていて、息をはぁはぁさせながらそう言い、走ってどこかへいってしまった。

小澤さんは頭をくらくらさせている。相当ショックだったのだろう。

僕たちはこれからどうなるんだぁ。

 

 

2016年10月20日公開

© 2016 工藤 はじめ

これはの応募作品です。
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"きょうどう!"へのコメント 5

  • 投稿者 | 2016-10-23 06:32

    掌編として完結しているというよりは、長編の一部であるかのような広がりを持った作品だと思います。物語の語り手が周囲の目を過度に気にしていることもあってか、高校の女子たちが主人公二人の恋に対して今後どんな反応を見せるのか知りたくなりました。ただ周囲の状況や出来事に対して主人公が終始受け身な態度を取っている印象を受けるので、何か目的をもって能動的に行動を起こす場面があるともっとストーリーに入り込みやすくなるかなと思います。

  • 投稿者 | 2016-10-23 08:38

     読みやすくてつっかえるところがなくて良かったです。
     ただ「涼宮ハルヒの憂鬱」の影響を受けすぎているように思いました。それと話に落ちがついていなく、長編の序章のように見えました。

  • 投稿者 | 2016-10-23 15:14

    ラノベ的とも言え(ただ俺はラノベを良く読んだことがない)、もっと古い押掛けパートナーの流れも汲んでいるだろうか。今合評の中では一番コメディな雰囲気の作品ではないか。

  • 編集長 | 2016-10-27 17:13

    既視感のある設定で作品として完結していないため、拍子抜けした。

  • 編集者 | 2016-10-27 17:52

    作者らしいドライブ感の高い文体で非常に読みやすい。しかし若干速度オーバーではないか。映画の予告編を見ているかのようなめまぐるしさは、あるいは一種の批評的態度の表れなのかもしれないが、その意図まで読み取ることはできなかった。
    設定を序盤でバラしてから本題に入るという構成にはもう少し工夫がほしかったが、男子が一人であることの必然性・整合性が明示されている点は、今回のようなお題ありきの合評会用の作品としては評価できる。

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