危ないことは分かってる

ハギワラシンジ

小説

1,130文字

ある夜の、夜かも分からない夜。危険を感じるけど、風が寒い。

 風が強くて、温度も低い。

 昨日までは暖かかったのに。今日は危険だ。

 これから人と会う。そして彼は危険。

「久しぶり」

「久しぶり」

 彼は笑顔で言った。

「あそこで飲もうか」

 そうしよう。

 地下の居酒屋は人があんまりいなかった。僕たちと、店員がいくらかと、まばらな他人。束の間。

 僕は黒いビールを頼む。彼は青いカクテル。

「お前の方から会おうっていうなんてな」

「ああ」

 乾杯、とグラスを傾ける。これ、何に乾杯したんだろう。

「最近どうだ。俺と連絡を断ってから」

 僕は過去を思い出す。どのくらい過去を思い出せばいいだろうか。

「特に変わってないよ」

「お前の顔を見れば分かるよ」

 彼は笑う。自分の顔をぺたりと触れる。そうか?

 それから色々話した。僕のこと。彼のこと。なぜ連絡を断ったのか。景色や風景、忘れられない思い出など。

「それで石はやったのか?」

「まだやってない」

 タバコを十本吸っていた。普段はそんなに吸わない。誰かが悲鳴をあげていた。女だ。いつの間にかたくさん人がいた。酒を飲んでいた。他にも悲鳴をあげていた。だけど、楽しそうだ。

「いい加減にやれよ」

「でも、彼女と別れてさ」

 彼はそこで席を立った。用を足して、酒を補充するために。僕はよくフリーズするスマホを開いて、pinコードを叩く。chromeブラウザを立ち上げて、ブックマークを開き、そこで何をしようとしていたのか思い出そうとする。思い出せない。十秒前を思い出せない。本棚から本を取り出すのに二十秒かかる。

 ばたん。

 誰かが倒れた。

 酒を頼むカウンターで彼が倒れていた。周りには男がいて、女がいた。彼を囲んで何か話している。

 僕はぶるぶる震えてトイレにいった。

 黒くない小便がたくさん出る。トイレは汚い。ばたん、とドアを閉める音がする。女が入ってきた。ここは男子トイレなのに。

「あっ、ごめんなさい」

 彼女は間違えていた。酔っぱらっていたのだろう。小柄で声も小さい。

「いいんですよ」

 僕は手を洗い、石を殺す。幸い彼のお陰で外が騒がしかった。

 僕は地下の居酒屋から出る。

 外は寒く、風が強い。危険だ。横断歩道を遮る。本屋に寄ろう。酒が少し僕に勇気をくれた。普段は本なんて読めない。風と同じで。関わるには勇気がいる。

 彼女と別れたのもこんな凍ての風が吹く日だった。実のところ、その時は石を追っていた。だから、というのもある。そして彼女は僕遠ざけた理由を教えてくれなかった。彼女という生き物はいつも理由を教えてくれない。

 さっきまでいた居酒屋には人だかりができていた。何かあったのだ。僕は何かを思い出そうとするが、思い出せない。

 電車に乗ろうとして駅に行く。ふと思い立った。今度海外に行こう。そして水牛を食べよう。今日は寒い。風が強くて、危険だった。分かりきったことだ。

2019年3月25日公開

© 2019 ハギワラシンジ

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