A4用紙に書かれていたこと

応募作品

ハギワラシンジ

小説

2,086文字

 カレイニナがまた頭蓋を撃った。何回も同じこと説明したのに、外してる。なんで分かってくれないんだ。
 カレイニナは穿って歌って、銃口を俺に押し付ける。トリガーが脚の間に滑り込んで、熱を持ってる。俺はそれを、冬の燭台みたいに冷やさなきゃいけないって。教授と一緒に話してる。

合評会2019年11月初参加作品。

 彼女の身体は銃身で、放った後は良く歌う。
“よく熱せられた銃が好き。あなたの次に好き”
 それ言うの待ってって。ちょっと言うのまだ早いって。まだだって。
“アギトをぐっと、奥歯をぐっと、食いしばって”
 俺と教授は彼女が穿つ様子をモニター越しに眺める。
“そのまま千まで数えて引き金。銃痕・イン・ザ・頭蓋”
『また頭蓋かい?』
 教授が俺に言う。
「そうなんだよ」
『カレイニナはよくはずしてしまうね』
「彼女は熱を持ちすぎている。少しだけ。あとちょっとだけ、冷やさなきゃいけないかもしれないな」
 俺は冷静さを装いつつ、がっかりする。
 なあ、頭蓋じゃ意味がないんだ。銃が頭蓋を狙ってどうするんだよ。自分のやっていることがわかってるのか。今まで何をやって来たんだ。どんなに言い聞かしても、カレイニナは分からないみたいだった。彼女の理解力は洗濯物を取り込むときに窓から落っことしたようだった。それを責めちゃいないさ。
 でも俺はため息を吐いてしまう。
 そうだよ、かもしれないって時はいつでも必然なんだ。
 俺たちの明滅した間が小さくなって、やがてコーヒーを飲む。
 俺が仕事中にコーヒーを飲むとき、この仕事がせめてフレックスであってほしいと思ってる。そうすりゃ朝忙しい時間にきちんとトイレ行ったり、カリカリに焼いたトーストを用意したり、レコードをかけたり、もっと楽しく過ごせるかもしれないのに。またコーヒーを飲んだりしながらさ。
「またカレイニナを抱いてくるよ」
 教授はこつこつ額を叩いてる。
『僕が思うに君は』
「なんだい?」
『弾まで抱いてないんじゃないか?』
「弾なんて」
 弾なんて、無くても構わないだろ? 大事なのは引き金を引くことさ。撃ったかもしれない、っていう意味が大切なんだ。
 モニター越しでカレイニナが歌う。
 じゅ、じゅ。
 じゅうぶんに、ねっ、ねっ? せらせら。
 カレイニナが機能不全的に穿ち出す。残念なことに意味は今も無さそうだ。照準をつけられず、一人では狙いも定められない。どうしようもない。それを、悪いとは思っていないさ。俺はレバーを倒して冷却ガスを噴霧する。
 ガスが噴霧されるかたわら、俺はA4用紙に書かれたリストを見てため息を着く。
【撃ち抜くことリスト】
【れんか】(チェック済み)
【ふうせん】
【キャンディ】
【目の黒いアザラシ】
 上司に電話をかけようとするが、彼はまだnoonから続く会議に参加しているから無理。段取りが悪かった。もっと早く聞いておけばよかった。このリストの意味はなんですか? って。
『時々僕らが何の仕事しているか分からなくなるときないかい?』
 教授がため息を吐いた。
「分かるよ。もし、この仕事辞めて、また面接するとき何て言えばいいか分からないんだ」
『僕は誰と話していたかとか、そういうcontextとかがもうだめだね』
「意味のあることにめぐりあいたいもんだ」
 俺は席を立って、部屋を出る。上着は置いていく。
『あるんだろうけど、君に会う頃には大概が無意味なことにくっついて、意味を失ってるよ』
 トーストの焼き加減みたいに、と教授は笑って僕を見送った。
 俺は仕事に向かう前に、とつぜん、異世界にいるであろう精霊について考えたくなった。
 服を脱ぎながら考える。
 もし仮に嫌なやつと合うときに、精霊がそいつの頭をぽかぽか殴っていたら、とても和むんじゃないかって。別に嫌なやつじゃなくてもいいんだ。書類でもいいし、虹でもいい。俺の代わりにとにかくぽかぽかやってくれたら、いいなって思った。
 たとえば、都内のコスパの悪い家賃のアパートに帰って、疲れて横になって布団に入って靴下脱ぐときに「布団の中で靴下脱いでもいいかい、陛下?」って聞くと、何も言わずに微笑んで電気を消してくれる精霊がいたらどんなにいいだろうって。
 カレイニナの部屋の前に付いた。汗ばんだ手を太ももに擦り付ける。
 まったく、俺は何を考えているんだ。
 俺はこんなに、痙攣した思考をしていたか? 分からない。誰かが近くで観測してたら、俺の変化が分かったかもしれない。朝顔の観察日記をつけるみたいに。
 カレイニナの部屋をノックする。
 コンコンコン、の三回目で彼女が発砲した。
“愛を込めて7mm込めて”
 カレイニナは両腕を広げて俺を抱き締める。銃口が俺に押し当てられ、脚の間にトリガーが滑り込んだ。
“私の銃床が重傷なの”
 カレイニナは耳元でそっと撃鉄を鳴らす。
 その間、俺は今朝のトーストについて考えてる。雨が降っていて、ちん、の音が聴こえなかった。そうだった。そんなどうでもいいことを思い出した。
“引き金利用して?”
 硝煙の匂いが妖艶で、熱を帯びて膨張してる。
「今度レコードを買って?」って、雨が強い日に誰かが言っていたことを思い出した。でも家にレコードプレイヤーは無い。それは、なんでだっけ。
 俺はカレイニナを抱く。
 なんだ、墓場みたくすっかり凍えているじゃないか。これじゃ、逆だな。
 俺はカレイニナの肩に顎を乗せ微笑む。
 大概のことは反対方向に収斂していくんだ。
 すっかり冬の燭台みたいに冷えてしまった銃身を暖めて、また撃てるようにする。
“次は?”
 震える声で囁く。
「ふうせんだよ。もう一度やってみよう」

2019年11月12日公開

© 2019 ハギワラシンジ

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実験的 純文学

"A4用紙に書かれていたこと"へのコメント 21

  • 投稿者 | 2019-11-13 23:55

    カレイニナっていうのはなんなんだろう。人間なのか、銃そのものなのか。カレイニナには肩があるし両腕もある。一方でカレイニナには銃口があるし発砲もする。それに教授と俺の「仕事」って一体なんなんだろうとも思いました。節々に「謎」が散りばめられたストーリーだなと思いました。

  • 投稿者 | 2019-11-14 01:05

    人間にも銃口があって発砲するし、銃にも肩や腕があります。そんなことないって、人間も銃も思い込んでるんだと思います。
    彼らも自分の仕事について、うまく説明できません。でも、ちゃんと目の前に起きていることから幾らかのことを推測できるし、影響も受けて、ポジティブにもネガティブにもなります。
    この作品に感想くれたのは松下さんが初めてです。嬉しいです。ありがとうございます。

    著者
  • 投稿者 | 2019-11-14 21:15

    こんな不思議な状況でもフレックスで働けない主人公が不憫に思えました。

    あと、銃暖めるのって結構時間かかりそうですね。めっちゃこすって暖めたんでしょうか。こっちが先に冷えそう。

  • 投稿者 | 2019-11-14 23:31

    コメントありがとうございます。励みになります。
    不憫ですよねえ。おっしゃる通りです。
    銃は摩擦熱で暖まっていることもあるので、むしろ火傷するかもしれません。でも、カレイニナは冷えきっていたので冷たい弾丸でも撃っていてのかもしれません。

    著者
  • 投稿者 | 2019-11-15 12:14

    ソースコードを日本語に組み直し、機能性が損なわれない程度に「物語」に変換していったような小説。ぎりぎりのところで「小説」としての体を保っていますが、やはりどうにも判りづらい……。丁寧な仕事だとは感じるのですが、俺にはちょっと高尚過ぎました。

    • 投稿者 | 2019-11-15 19:51

      コメントありがとうございます。読みづらかったにも関わらず、素晴らしい比喩で感想を仰ってくださり、嬉しいです。多角的に作品をみることができました。
      高尚なものを書いている、という思いはないです。ただ、こうしなきゃ書けなかった小説を書いているつもりです。この文体、この文脈、この比喩でしか表現できないものに句読点を打ちたかったんです。

      著者
    • 投稿者 | 2019-11-23 15:03

      なぜか萩尾望都の作品を思い出しました。人とか花とか目に見える絵を描いているのに、それらがその枠をはみ出して別物になってしまうんだけど全然違和感がなくて。現実のの光景と心象との境目がない描き方も、なんだか似ているかも。
      例えば月は月だから月なのであって、月の属性は月でしかあり得ない、ということはなくて、姫になったり殺人鬼になったり海であったりウサギさんであったりしても良くて、そういう感覚で読ませていただきました。もっと他の作品も読んでみたいと思いました。

  • 投稿者 | 2019-11-19 17:25

    主人公は一体誰と話をしているんだろう、と疑問になりました。
    実は独り言で、自殺したがっている男が自殺の理由に自分の愛銃にカレーニナと名をつけている様にも見えました。
    ハギワラ様の思惑とずれていたら申しわけありません……。

    にしても、書き方によっては、銃というものはとてもエロティックに見えます。

    • 投稿者 | 2019-11-19 18:16

      >村上さん
      コメントありがとうございます。
      その解釈、とっても痙攣的ですね。感銘を受けました。僕の思惑なんて、作品にとってはアクアリウムみたいなものなので、どうでもいいんです。作品がそこにある美しさ以上のことは語れないです。

      >エロティック
      書いてて私も「とんだエロスやんけ」と思いました笑 人が作った殺戮兵器がやりようによっては、生殖のメタファになるなんて、人類は業が深いですなぁ。

      著者
  • 投稿者 | 2019-11-20 13:13

    トーアで手に入れたスナッフフィルムを見ているようなデカダンなエロスを感じている自分を見つけ、ぞっとしました。一文一文に込めた思い、すべての意味を見出すことは出来ませんでしたが、それはハギワラさんの望むとことでもないのでしょう。詩的で残酷で美しかったです。

    • 投稿者 | 2019-11-21 17:21

      私の文章はきっかけにすぎず、読者の方々が望むことこそが私の望むことです。
      ただ、そのきっかけが誰にも作り出せないようなきっかけで、読者が抱いた気持ちもまた唯一無二のものを生み出せたらこれ以上のことはないです。
      スナッフフィルムという意見は初めて言われました。とても嬉しいです。今後もそういうの作って参りますね。

      著者
  • 投稿者 | 2019-11-20 22:36

    拝読いたしました!
    自分は本当に読むレベルが低いので、その上で感想を述べさせて頂きます。
    おそらくこれは詩を書くような感覚で書かれたのではないかなと思うので、詩を読む感覚で拝読いたしました。ひとつひとつの言葉に意味がありそうでなさそうで、そう思って数回読み返したのですがやっぱり意味がわからなくて、でも破綻してない。ような気がする。
    なんで破綻してないかというとハギワラさんの視点が一貫してて、書かれていることは支離滅裂(なようにしか読めませんでした、すみません)でも、その根底にある部分がブレていないような気がするので、つまり一言で言って作品世界が強固なのです。それがすごく伝わってくる。だから理解しようとせずに詩情を掬うように読むととても心地がよかったです。
    その上で、自分は詩に暗いので本当の個人的な感想ですが、想像できるポイントが作られていたらもっとすごくよかったのかなと感じました。
    例えば自分の好きな詩に中原中也さんの「骨」があるのですが、その詩を思い出すとき必ず骸骨が食堂で三つ葉のおひたしを食べてる光景が浮かぶ。「あたしが娼婦になったら」という詩を思い出すとき必ず娼婦が清潔なシーツを洗濯している光景が浮かぶ。「なんでもホニャララ(自主規制)」という詩を思い出すとき必ずスッポンポンの男が大自然の中で仰向けに寝ている光景が浮かぶ。そういう風に、少なくとも自分の好きな詩は想像力を強く喚起する部分があって、それが記憶にずっと残ってしまったりする。
    何度も言いますが自分は詩について全然詳しくないのですが、少なくとも自分は、そういう場面がひとつでもあったらこの文章が大好きになっていたんじゃないかと、そんなことを考えました。
    読みレベルがあがったらもう一度拝読させていただこうかと思います。誠に失礼いたしました。

    • 投稿者 | 2019-11-22 14:19

      まず最初に「読むレベルが低い」と何度も予防線張る必要はないです。
      私は伊藤さんの感想に対してとても納得いくところがありましたし、ためになる部分や活かしたい言葉がたくさんありました。もし伊藤さんが「レベルの低い読み」をされているのなら、私の喜びや嬉しさも「レベルが低い」となってしまうようで悲しいです。

      まあそれはもうよくて、たくさんのお言葉非常に興味深く、また有り難く拝見しました。
      視点が一貫しているからよくわからない世界観でもブレない、というのは今後作品を書いていく上で自信に繋がりました。
      またご指摘のあった「想像できるポイント」というのも、その通りだな、と反省するべきところです。
      私は詩を書いたことがないので、疑問には答えられませんが、すこしわかる気がします。次に繋がる気付きを得られました。
      読むレベルなど関係なく、またぜひ読んでください。他の作品でもお待ちしています。本当にありがとうございました。

      著者
  • 投稿者 | 2019-11-22 07:25

    カレイニナというくらいだからトカレフやカラシニコフみたいにロシアの銃なのかな。いまいち話の意味が解らなかったけれど、カレイニナの台詞の音楽的なリズムは楽しめた。

    • 投稿者 | 2019-11-22 17:39

      そうですそうです。ロシアの銃をイメージしました。寒い国の凍ての銃です。伝わってとても嬉しいです。語感に関してもありがとうございます。
      「分からないなー」という気持ちをもってもらっただけでありがたいです。

      著者
  • 投稿者 | 2019-11-22 13:50

    カレイニナを銃と想像しながら読みました。そうすると、リストの【目の黒いアザラシ】が残酷だなと思えました。詩について自分は良い読み手ではないので、もう少し勉強したいなと思います。物語としてはとても不思議で奇想的であると思うので、現実的ワードは一切廃して語られると読みづらさは無くなる気はします。

    • 投稿者 | 2019-11-22 17:46

      リストに言及してくださったのは初めてなので嬉しいです。
      >目の黒いアザラシ
      目の黒いアザラシがたぶん苦手な人がいるんですよ。
      詩は僕も書いたことないです。あまり気にされないでください。
      >現実的なワードを一切廃して語る
      具体的なお言葉ありがとうございます!
      でも僕の理解が足りないため、ちょっと意味が分かりかねます…。幻想的な世界観だから、現実的な描写(何の仕事しているかわからないんだ、とかでしょうか)を廃した方がよいということですかね。
      ご感想、ありがとうございました!

      著者
  • 投稿者 | 2019-11-23 14:23

    でも俺はため息を吐いてしまう。
     そうだよ、かもしれないって時はいつでも必然なんだ。

    のところで結構気持ちが覚めてしまいました。一貫してどういう話なのかわからなかったので(私の読解力が浅いのかもしれない)、最低限の読者への道筋がほしかったです。

  • 投稿者 | 2019-11-23 23:11

    文章や会話のリズム、言葉選びのセンスの良さに痺れました。「痙攣した思考」っていい言い方ですね。銃を彼女(女性)として描き、使い手は俺(男性)として描くとなると、使われる女性と使う男性、という関係になりますが、他方で本来男性的に、あるいは男根のメタファーとして用いられる銃を女性として表現することで、そう単純な話ではないなあと思いました。「銃口が俺に押し当てられ、脚の間にトリガーが滑り込んだ。」、ここも良いです。

  • 投稿者 | 2019-11-24 12:47

    最近BFCの振り返り企画でお見かけした名前だったんですが、破滅派同人だったんですね。ひんやりした雰囲気がよかったです。

  • 編集者 | 2019-11-24 17:48

    ロシア的な言葉のリズム感と冷たいイメージは、面白かった。ただ、主題の銃を扱う上でもう少しカレイニナなどの描写を濃くしても良いのではないかと思う。文フリではありがとうございました。

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