ナツキ L

ナツキ(第18話)

ムジナ

小説

22,272文字

18話

 『ねぇ、じゃあ海行こうよ!』
「へっ?」
ビクッとして目を開けた。パソコンの画面がある。海へ行こうよ、と満面の笑みで言っている悠里が映っている。思わずぼーっと呟いた。
「かわいいなぁ。」
「編集中に寝るなよ。」
首を回すと、左隣で杉山がマウスを動かしていた。
「寝てないよ、うとうとしてただけ。」
「同じだよ。」
杉山は画面を見たままふっと軽く鼻で笑って、目を細めながら大きく伸びをすると、息を吐きながら私に言った。
「ちょうどこのシーンできたし、休憩にする?」
「うん、じゃあ。」
私が返事をすると、杉山は画面の上の方をクリックしてメニューを出し、『保存して終了』をクリックした。保存が終わったのを確かめてから、杉山はパソコンを閉じた。
「山下と早川、何時に来るって?」
杉山がまたあくびをしながら聞いた。私は一度視線を杉山に向けてからスマホを開いて、悠里と玲ちゃんからのメッセージを確かめた。
「二人とも、1時くらいだって。悠里はもうちょっと遅いかも。」
「ふーん。編集作業だし、来ても暇だろうに。」
「ちゃんと全部見届けたいんだって。悠里とかも、意外と律儀だから。」
「確かに。」
私は手足を伸ばしたくなって、椅子から立ち上がって部室をのろのろと歩き回ってみた。
なんか、透明だ。
寝ぼけているからかもしれない。でもなぜか、部室の中の景色や光が、すごく鮮やかに、キラキラして見えた。少し気の抜けた色の空がガラスを光らせて、その光が部室の中に染み込んできて、私の周りのありとあらゆるものを、透明に照らしているように見えた。
なんか、いいなぁ。
「ねぇ、杉山。」
背を向けて座っている杉山に声をかけた。
「ん、何?」
杉山は椅子ごと回転して振り返った。手元に何か持っている。
「あ、それ私のノート!」
杉山は私のCampusのノートをパラパラとめくって眺めていた。私は駆け寄った。
「勝手に見ないでよ。」
恥ずかしい。杉山に見られて困るようなことは書いていなかったはずだけど、目の前で読まれると少しムズムズする。私がノートの端を掴んで引っ張ると、ノートは開いたままするりと杉山の手から抜けた。
杉山が椅子から立ち上がりながら口を開いた。
「なんかさ。」
「なに?」
「…いや、なんでもない。」
なんだろう、変なやつ。もしかしてノートの中の変なものでも見られたんだろうか。少し顔が暑くなってきた。私はノートをパラパラと確認した。特にないはずだ。ノートを閉じて、重力に負けてへたっていた通学カバンの口を開くと、底の方にノートを押しこんだ。
外でセミがずっと、シネシネシネシネと気だるそうに喉を鳴らしている。杉山の方を振り返ると、足を組んで椅子を揺らしながらスマホの画面を眺めていた。エアコンから出てくる寝息のような音がゆっくりと部室の中で渦を巻いている。教室棟の壁で反射した校庭からの声が入ってきて渦を巻いている。一時停止のままのテレビの超音波みたいな音が渦を巻いている。私は息を吸い込んだ。生ぬるい。8月のにおいがする。その空気を、しばらく肺の中に閉じ込めてみた。自分の心臓の振動がやたら胸の板に響く。周りの空間がちょっとまぶしい。一度ゆっくり瞬きをしてから、せき止めていた息を吐き出す。ふうっという音が、部室の中の低い渦の中に巻き込まれていく。
 その隙間から、かつんかつんと足音が聞こえ始めた。たぶん悠里と玲ちゃんだ。スマホを出して時間を見ると、『8月19日 12:47』と表示されていた。思ったより早く来た。杉山も足音に気づいたらしく、スマホから顔を上げてドアの方を見てから言った。
「あいつらかな。」
「多分ね。」
2つの足音はばらばらと近づいてきた。二人の透明な話し声も聞こえ始めてきた。玲ちゃんと悠里の声だ。
 声と足音はだんだんと大きくなり、そしてドアの前で止まった。
がらがらがら。
ドアが一気に開いた。
ばたん。
「おはようございまーす。」
悠里がドアに手をついて仁王立ちのように立っていた。このドアを片手で一発で開けられるのは部員の中で悠里だけだ。力が強いんだなぁと思っていたけど、この前聞くと『コツがある』と言っていた。悠里が入ってくると、玲ちゃんも後ろから、こんにちは、と言って微笑みながら歩み入ってきた。
「お、きたきた。」
杉山が椅子から立ち上がった。
「どこらへんまでできたんですか?編集。」
悠里がかばんを下ろして机の下に放り込みながら聞いてきた。
「海に行こうって言うシーンまで。」
「お、じゃあ半分くらいまで来ましたね。」
「うん。」
撮影が終わってから2週間くらいだ。私はパソコンが使えないので、杉山が動画編集ソフトで編集作業をしてくれていたが、やっぱり時間がかかるし、撮影よりも地味な作業だった。私がたくさんあるテイクの中から使いたいものを選んで、杉山がそれをつなぎ合わせる、と言う作業をかれこれ6回くらい部室でやっている。
「いいなー、今までのところだけでも通して観てみたい。」
悠里がそう言って、ね、と玲ちゃんに声をかけた。玲ちゃんもうんうんと頷いた。
「完成するまでのお楽しみだよ。な。」
杉山が私に言ったので頷くと、玲ちゃんと悠里が笑った。

 後ろに玲ちゃんと悠里の声が聞こえる。この映画が観たいねとか、旅行がしたいとか話している。綺麗なBGMだと思った。
「水野。」
「うん?」
私は注意を画面に戻した。
「このシーン、どのテイクがいいかな。」
杉山は動画フォルダを開いて、動画を再生し始めた。3人が道路沿いの堤防の上を歩くシーンだ。3人が歩くのに沿って、カメラも道路の向かい側から動きながら撮った。台車の上にカメラを立てて、川西くんを乗せて私と植山さんで押しながら撮影したシーンだ。ここはBGMを入れてセリフはないシーンだったので、音はなかった。一つ目は映像が3人を追い越して、最後の方は誰も写っていなかった。動きが終わった後笑いながらひょこひょこと戻ってくる植山さんが写り込んでいた。
隣で杉山が肩を揺らして笑い始めた。
「そうだ。これ私と植山さんが力入れすぎてさ、早く押しすぎたんだよね。」
「そうだったそうだった。」
3人で荒い息をしながら顔を見合わせてへっへっと笑ったのを思い出す。
「これ、一応カメラ本体の方で音も録られてるんだけどさ。」
杉山がニヤつきながらそう言ってもう一度再生ボタンをクリックした。
『いっけえええええ!』
『うぉりゃああ!』
私は思わず吹き出した。私と植山さんの叫び声と、空と海とコンクリートだけが映っている。
「お前ら、どんな声出してんの。」
あーおっかし、と腹を抱えながら杉山は停止ボタンをクリックした。
「編集終わったらNGシーン集とか作っても面白いかもね、佐々木さんが写り込んじゃったとことか。」
「あーあったねそれ!いいかも。」
確か最初の撮影の時だ。懐かしい。
撮影が始まってから一ヶ月くらい経っているという事を急に実感した。一ヶ月って、よく分からないな。夏休みの最初までのことがなんだか前世のように思えた。ソファで寝っ転がって憂鬱を転がしていた自分が、今の自分と同一人物だということがいまいち信じられない。
私は、昨日とは違う人間。そう思って周りを見てみると、ちょっと面白い。左に座っている杉山も、昨日とは違う杉山。後ろを振り返ってみる。昨日とは違う悠里。昨日とは違う、玲ちゃん。眺めながら思った。みんな毎日、いや毎秒、新しくなっていく。変わらないでいることは不可能だ。映画とか小説とか、そういうのは全部、せめてその瞬間の誰かの姿を、綺麗なまま残しておくための物なのかもしれない。
玲ちゃんがこっちを振り返って、ちょっと目が合った。
すると玲ちゃんは口を開いて透き通る声で言った。
「夏美さん、この映画知ってます?」
「ん、どれ?」
私は席を立って、二人の背中に歩み寄った。悠里がスマホの画面を私に向けた。
「これでーす。」
画面に表示されていたのは見たことのあるタイトルだった。窓際に立って、カーテンを除けて外を眺める、白い肌の女の人が写っている。題名に目を向けた。
『リップヴァンウィンクルの花嫁』
「あ。」
頭の中にぱっと浮かんだ。テレビ下のDVDラック。猫の絵、私に差し出されるケース、それを持つ、華奢な手。
「私それ、持ってる。」
「え、じゃあ観たことあるんですか?」
玲ちゃんが顔をほころばせながら聞いてきた。
「ううん、DVDはもらったんだけど、まだ観てなくて。」
観る勇気が出なくて。
華奢な手で私にDVDを差し出しながら言う茉理さんが浮かんだ。
『これ、プレゼント。本当に綺麗な映画だから。私が死んだら棺に入れて欲しいくらい。』
ずっと観ていなかった。観てしまったら茉理さんが死んでしまうような気がしていたから。
「じゃあ今度持ってきてくださいよー。みんなで観よう。」
悠里が言うと玲ちゃんがうんうんとうなずいた。
私はちょっと考えた。観る、か。もう、いないもんな、茉理さん。
私は心の中で深く息を吸い込んだ。
「じゃあ次回、持ってくるね。」
「やったー。ずっと気になってたんですよ、これ。」
玲ちゃんが目をくりくりさせて言った。

取っ手をつまんで力をかけると、かしゃんという音がして郵便受けの戸が開いた。
ぎゅうぎゅうだ。新聞や分厚い茶封筒が詰まっている。何だろう、こんなに。
まとめて両手で持ってばさっと引っ張り出した。腕がどっと重さを受け止めた。
一番上にあったのは夕刊だった。端が下の茶封筒に巻き込まれて折れ曲がってしまっている。
新聞を左手に回して右手の残りを見ると、茶封筒の上に葉書が一枚乗っていた。
『わんこそば、56杯食べました。お父さんなんて127杯!こっちは涼しいし、意外と都会。来年はなつも一緒に行こうね!』
お母さんだ。差出人を書き忘れている。書かなくても分かるけど。もしかすると、だからわざと書かなかったのかもしれない。裏返すと渋い鉄瓶の写真が印刷されていた。南部鉄器かな。
葉書を左手に挟むと、茶封筒に目を移した。A4サイズの大きな封筒だ。やたら分厚くて、重い。書類の束でも入っているようだ。ボコッと飛び出ているところもある。外側からでは何か分からない。石?
誰からだろう。差出人を見ようとして裏返す。差出人名にピントを合わせてーー
え?
思わず封筒を持つ右手をばさっと伸ばした。
え?
私はもう一度、ゆっくりと差出人名に目を向けて、名前を読み上げた。
「ニシノ、マリ。」
西野、茉理。
…茉理さんだ。
なんで茉理さんから、郵便が?生きてたの?いや、でも、お葬式にも行った。棺の中の顔も見たし、止められたけど肌にも触れた。
…生き返った?
いや、落ち着けナツキ。人は生き返らない。茉理さんだったらあり得そうではあるけど。きっと死ぬ前に、今日届くようにしてあったんだ。
そうだ、だって今日は、私が年をとる日だから。
ということは、プレゼント?
私はそれをしっかりと胸に抱えてエレベーターへと急いだ。
鍵を閉め、靴を脱ぎ捨てて、鞄と新聞と葉書を床に放り出した。
茉理さんからの、プレゼント。
慎重に封を破る。紙の表面の残骸が風に張り付いたまま剥がれない。
ギザギザになった封筒の口から、二つに折った紙の束が見えた。引っ張り出すと、大量の原稿用紙の束だった。
封筒をひっくり返すと、何かが滑り落ちてきて、テーブルに当たってガツンと硬い音を立てた。それは数回不器用に転がって、ぐるんと揺れて止まった。
…石だ。丸くて、平べったい、普通の石だ。
私はそれを手にとって眺めてみた。すべすべしていて、少しひんやりしていた。改めて見てみても、やっぱりただの石だった。
私は原稿用紙の束に目を移した。
何が書いてあるんだろう。
石を置いて手に持つと、ずっしりと重く手に寄りかかった。
二つに軽く折られていた束を広げると、一番上に破り取られたノートのページが乗っていた。取り上げてみると、薄い鉛筆の綺麗な文字で、書かれていた。
『私の計算がうまくいってれば、この手紙はナツキが18歳になる日に届いているはず。そして、その頃にはとっくのとうに私はこの世にいないはず。ありがとうね、ナツキ。書き物、創作、これで終わりにする。ナツキは正直者だから、キミの言うことは全部正しいと思ってたけど、どうやら1つだけ、間違ってたみたいだね。ごめんね。』
私は何度も瞬きしながらそれを読み返した。手が震えてきた。その紙を退けて原稿用紙の束に目を移すと、一番上の一枚の最初の行に題名が書かれていた。
『メテオライト』
心臓が重く脈打ち始めた。時計の音がやたらうるさくて、邪魔に思えた。
これが、茉理さんの、最後の。
ノート切れ端はほとんど、遺書のようにさえ思えた。この原稿用紙の束が、茉理さんが最後に書いたもの。
一度大きく深呼吸をした。体温が上がっている。肌がジンジンとする。
私はもう一度、自分に言い聞かせた。
茉理さんは、死んだ。
茉理さんのお葬式で、目を閉じた茉理さんの顔に、手を触れた時のことを思い返した。
茉理さんの頬は硬くて、信じられないくらい冷たかった。まるでーー、まるで、この石みたいに。
 私は時計を見た。6時12分。
私はもう一度限界まで息を吸って、吐いた。
メテオライト。
「…隕石。」
私はぎゅっと目をつぶった。これから私が読むものは、一体何者なんだろう。茉理さんは最後に、私に何を届けたんだろう。全部、全部受け止めなければならない。茉理さんの書く文章は全部が、それぞれ茉理さんの分身だ。茉理さんのかけらだ。これは多分、その最後のひとかけらだ。
よし。
目を開く。白い紙面が視界に広がる。セピアの罫線、マス目、鉛筆の文字、皺、書き跡。
『メテオライト』
私は飛び込んだ。吸い込まれる。引きずり込まれる。物語が、始まる。
 背中をつけたドアの向こうから、甲高い怒鳴り声が耳を突き刺してきた。思わず指で思い切り耳を塞いだが、血が巡る音の向こうに、まだ聞こえる。
『うるさい!』
叫ぶと自分の声が直接耳に響く。母親の声はもっと甲高くなった。私は体育座りのまま、閉め切ったドアに当たる背中にもっと力をかけた。ダボダボのスボンのポケットに手を入れる。
ひんやりと冷たい、すべすべした感触。
床にだらしなく倒れている赤いランドセルから、茶色く汚れて縮れた教科書の角がのぞいているのが見える。この前、中庭のドブ池に落とされていたのだ。私は両手で耳を塞いだまま、背中でドアを押して立ち上がった。
もう、限界だ。
机の上にあった布の財布をポケットに入れる。
私の家じゃない、こんなところ。私の家だったら、こんなにいづらいわけがない。外で怒鳴っているのも、きっと私の母親ではない。本当の家族なら、こんなに恐ろしくて、憎いわけがない。
死ね。死んじゃえ。狂ってる、こんな家。
いや、違う。そうじゃない。
私なのだ、きっと。
間違っているのは、私なのだ。私はきっと、みんなと同じ種類の生き物ではないから。
私は宇宙人だ。ここにいる私が、間違っているんだ。きっと母親は、そのためにずっと私に怒りをぶつけているんだ。ここにいるべきじゃない私がここにいるから、怒っているんだ。
私は、宇宙人だ。私の肌は緑で、逆三角の頭がアンバランスに大きくて、鼻がなくて、目はぎょろっと大きくて、白目がなくて真っ黒でのっぺりした黒目だけなのだ。だからどこにも居場所がないんだ。
甲高い声はだんだん近づいてきて、もうドアのすぐ外にいるようだった。
『マリ!いつまでそこにこもってるの!』
急に全身の筋肉に力が入った。鳥肌が立つぞわっという音が本当に聞こえた気がした。
『どうして、どうして普通の子にできることがあんたにはできないの!?本当に私の子なの?あんた。おい。なんとか言いなさいよ!』
ドン、という鋭い音。振動。息が震える。
『まともに学校に行って、喋って、親の言うことに従うなんてこと、人間だったら誰でもできるでしょ!あんたは人間としてできなきゃいけないことが、何一つできてない!』
そうか。じゃあきっと、私は人間じゃない。
『あんたのせいで、ママがどんだけ苦労させられてると思ってんの!?クラスのお母さんたちに噂されて、恥ずかしいったらありゃしない!どうしてあんたがこんなんなせいで、私が恥かかされなきゃいけないの!?あんたなんか産まなきゃよかった、この––』
私は母親が言うであろう続きをぽつりと声に出した。
『––出来損ない。』
『なに?』
私の声を聞きつけた母親が声を切った。
今だ。
私はドアノブを下ろして、ドアを思い切り引き開けた。立ちはだかっている母親に体当たりするように突進して大声をあげた。
『あああああああああ!!』
人間は意味なく叫んだりしない。きっと私は人間じゃない。
母親が一瞬固まったのを確かめる前に、私は玄関に向かって走った。スニーカーを拾い上げて、そのままドアに体を当てる。ガシャっと音がしてドアが外にぬっと開く。背中が母親の怒号を浴びた。靴下のまま飛び出して、階段を転がり落ちるように駆け下りる。なんとか歩道に足を着いて、そのままでたらめに走り出した。
『マリ!!』
甲高い声が遠ざかる。私は靴を両手に持ったまま、走った。空気が顔を叩きつける。自分の息と心臓の音と血の巡る音が頭に響く。何かに引っ張られるように、体が勝手に加速していく。息が脈拍に邪魔される。足が焼けるように痛い。苦しい。止まりたい。それなのに私の脚はもげそうなぐらいの勢いのまま関節を振り回して地面を叩きつけ続け、私の腕は狂った振り子みたいにぶんぶんと揺さぶられ続けた。
少しでも息が吸いたくて、上の方に顔を向けた。並んだビルの頭が後ろへさっと流れていく。街灯の首が視界をかすめて後ろへ滑っていく。空が青い。いや、白い。空だけじゃない。いつの間にか周りのすべてが白くなっている。何もない。ただ白い空間がある。前も後ろもよく分からない。私は登っているのか、進んでいるのか、落ちているのか、全く分からない。ただその中で走り続けていた。でも走れているのかどうかさえよく分からない。着ていた服も、手に持っていた靴も、いつのまにか真っ白のもやもやした何かになっていた。でも走るのだけは止められなかった。止まれ、お願いだから、止まらせてくれ。ほとんど息が、できない。
白い視界のトンネルの向こうに、出口が見えた。明るい緑色の光が差し込んでいる。私はそこへ向かって走っていた。私の意思に関係なく私の体はそっちへ向かっていた。早くここから出たい。立ち止まって楽になりたい。出口はだんだん大きく見え始めた。近づいてくる。近づくほど大きくなるスピードが速くなる。もうすぐ、もうすぐだ、ここから出られるーー
 視界が開けた。白い壁、天井、蛍光灯、窓、木、緑、蝉と人の声。急に足が引っかかってバランスを崩す。視界がぐらっと回転した。体が重力を見失う。次の瞬間、右半身が爆発するような衝撃を受けて、視界が横倒しのまま止まった。痛い。リノリウムの床が水面のように廊下の天井までの空間を映している。
『いったっ…』
右半身全体で熱いような感覚がジーンとしみわたって、それがおさまるのと同時に痛みが湧いてきはじめた。横倒しになった床に同じ上履きを履いた足が貼り付き、黒ズボンやスカートを履いた脚が伸びているのが見える。これが重力か。肘と膝がヒリヒリする。熱された鉄を当てられているみたいに痛い。血が出てるだろうか。何色だろう。宇宙人だから、やっぱり緑かな。蛍光色の青かもしれない。
『西野さん、大丈夫!?』
後ろの方から声がしたので、私はそのまま寝返りを打つようにしてそちらを仰ぎ見た。
『…先生。』
『転んだの?擦りむいてるじゃない。』
先生は出席簿を胸に抱えたまましゃがんで、私の右肘と膝を見ながら言った。
『転んでないです。』
『転んだでしょ、見てたよ。』
『転んでないです。』
私はぼうっと蛍光灯を眺めながら答えた。先生は言った。
『ならどうして倒れてるの?』
『立ってると疲れるからです。』
先生は顔を曇らせた。またか、とでも考えてるんだろう。宇宙人に地球の言葉は通じないんだよ、先生。
私は床に手を押し付け、体を起こそうとした。
『痛っ…』
傷口が制服に擦れた。
『保健室行きな。もうすぐ授業始まっちゃうけど。』
先生はそう言って立ち上がると、何度か私の方をちらりと気にしながら教室に入って行った。私は黙ってそのままもう一度、慎重に立ち上がると、腹の下で潰れていた通学カバンを取り上げて、右足に力を入れながらよたよたと階段へ歩いた。
 保健室の前を素通りして下駄箱へ降り、自分の箱の戸を開け、シワのよった茶色のローファーをコンクリートの床に放り出す。ばらっという音が一階のぬるい廊下に響く。そして傷口を制服に擦らないようにゆっくりと、前傾するような変な姿勢で腰を下げて、みんなとは違う色の上履きを脱ぎ、拾い上げて下駄箱に差し入れてバタンと戸を閉める。ローファーに足をぬっと入れ込んでまたのろのろと立ち上がり、つま先で軽く床を打つ。
キーン、コーン、カーン、コーン。
始業のチャイムが聞こえた。チャイムって、どこで鳴ってるんだろう。私は昇降口へ、かかとをすぽすぽいわせながら歩いた。
昇降口の左の壁は、鏡が貼られている。私は立ち止まって、慌てて目線を下ろした。鏡が目に入らないように、ローファーのつま先を見つめる。
私は、宇宙人だ。
あの鏡には今、宇宙人が映っているはずだ。
私は息を吸って、目を細めながら首をゆっくりと、恐る恐る左に回した。鏡が目に入る。足元、スカート、通学カバン、セーラー服––
映っていたのは、白い制服を着た、中学生の女の子だった。顔は緑ではなく白っぽい肌色で、鼻はちゃんとついていて、目は黒目だけではなく白目もあって、黒目は真っ黒ではなくて、茶色に光っていた。少しギラッとしてはいたが、人間の目だった。
吸い込んだまま止めていた息がふう、と押し出された。
なんだ、人間じゃないか。そんなこと、分かってはいたけど。
一瞬、安心した。しかし次の瞬間、また息が止まった。
ならどうして、私はみんなと同じ人間なんだったらどうして、私はこんなに、みんなより欠陥が多いんだ?
『––出来損ない。』
小学生の頃からずっと聞いてきた母親の声が、鏡に反射したかのように頭の中に響いた。
『出来損ない。』
私は、鏡の奥に立っている女の子にむかって、そう言った。女の子も、私にむかって、そう言った。一瞬、その姿が母親に重なって、私は鏡から目を背けた。
私が、みんなと同じ人間なんだったら、どうして、こんなに苦しいんだろう。
起きて過ごしている1秒1秒が、ただ息苦しかった。
多分、そもそもの根本的な原因は、自意識が強すぎることなんだろう。
髪を切るのに失敗した時、似合わない服を着て過ごす時、みんなの前で怒られた時、知らない場所、知らない人の前に一人で出て行く時、みんなはこういう気持ちになるんだろう。私はそれが物心ついた時から、ずっと続いている。学校にいても、家にいても、コンビニで買い物をする時も、駅の改札を抜ける時も、ずっとそうだった。
『帰るんだ。』
後ろから急に声がして、思わず肩がビクッと跳ねた。振り向くと、マスクをした、前髪の長い男子が立っていた。
『もう帰るんだ。』
彼は言った。
彼はいつもマスクをつけている。風邪でもないのに、一年中つけている。長い前髪が顔の上半分を隠し、マスクが下半分を隠しているので、彼の素顔はほとんど誰も知らなかった。
『君こそ、大遅刻じゃない。』
『仕方ないだろう、僕はスクールだったからね。』
『なにその口調、なんの役?』
『超能力少年。』
『ふーん。』
私はカバンを肩にかけ直し、彼とすれ違って昇降口を出た。
『ねぇ、西野さん。』
後ろから彼が呼びかけて来たので、私は止まって、振り返った。
『なに。』
『誰と話してたの?』
『話してた?』
『「出来損ない」とかなんとか、言ってたじゃん、誰かに。』
私は黙って、彼の横の壁を指差した。彼は鏡に目を向けると、驚いたようにこっちを見た。
『鏡?』
『そう。』
『なんで?』
『いたんだよ、出来損ないが。鏡に、映ってた。』
私が言うと、彼はまた鏡に顔を向けた。彼はしげしげと鏡を眺めながら、言った。
『こっちに映ってるのは、違うな。』
『君には、なにが見えるの?』
なんだか奇妙な会話だ。超能力か何かの話でもしているみたいだ。
彼はゆっくりこっちを向いて、マスクをもそもそと動かしながら答えた。
『のっぺらぼう。』
そう言うと彼はおもむろに頭を振って前髪をどけ、耳に手をかけてマスクの紐を握った。そして勢いよく、マスクを取り払った。
ばさっ。私は思わず身構えて目をつぶった。
 ゆっくりと目を開けると、少し幼めな、しかし整った顔立ちの彼がニヤニヤしながら勝ち誇ったように立っていた。
『ビビり。』
『うっさい。』
彼はまたニヤッと笑うと、前髪を下ろしてマスクを付け直し、私に背を向けて靴を脱ぎ始めた。私はその背中に呼びかけた。
『ねぇ、”風邪の––”』
『そのあだ名で呼ぶなよ、西野さんまで。』
彼はすこし不機嫌な声で私の言葉を遮った。
『じゃあなんて呼べばいいの。なら私のことも、西野さんって呼ぶのやめて。』
『なんでもいいよ。そっちは?』
『西野でいいよ。』
『じゃあ俺も、苗字でいいよ。』
私と彼はお互い睨み合ってからぷぷっと笑って、また背中を向けて歩き始めた。昇降口の階段を降りてちょっと校舎を仰ぎ見る。白くて四角い校舎とふわふわした空は意外と相性が良いように思えた。
もうすぐ夏だ。それまでの辛抱だ。私は肩にかけていた通学カバンを、ぎゅっと胸に抱きしめた。
 私に抱きしめられたまま、ナツキは肩を震わせて泣いていた。
『どうかしてる…こんなの、どうかしてる…』
ナツキは何度もそう言って、私の背中を何度も、力なく叩いた。
『どうかしてるよね…。』
私は左肩に抱きとめたナツキの頭を右手で撫でた。首筋に熱いものがポツリと当たった。
涙。
さっきナツキが叫んでいた。「私が守るから、––」
生きていてください、ずっと。
それは聞いた瞬間、私はもう、どうしようもない気持ちになってしまった。どうしようもなく嬉しくて、悲しくて、苦しくなって、思わず抱きしめていた。だってナツキは、書き物も、創作も、全部やめていいから私に生きていて欲しいと言ったのだ。私は、創作においてしか生きる価値のない人間だ。それなのにナツキは、それでもいいからずっと生きていて欲しいと、私にそう言ったのだ。
それってもう、ほとんど愛の告白だよ、ナツキ。いや、そんな胡散臭いものよりも、もっとずっと透明で、尊いかもしれない。
 でも、もう遅すぎる。
 私は、ずっと急な下り坂を走り下りるように生きていた。長い長い坂だ。勝手に加速して、どんどん重力に引っ張られて、自分の力ではもう、止められそうになかった。もう止められない。どんなに息が上がって、心臓が痙攣しても、坂が終わるまで、足は止まらない。
ナツキ、君はずっと、ゆっくり歩いて行ってね。ゆっくり、しっかり地面を踏んで、足元を見て、小さな石ころとか、アリとか、そういうものを見逃さないように生きてくれ。私は空しか見ていなかったばっかりに、つまづいて、走り出してしまったから。
『どうかしてますよぉ、ごんなの…』
ナツキの体が細かく震えているのが、胸に伝わってきた。
…幸せだ。
この世で一番ピュアで、宇宙で一番の後輩が、こんなに、こんなに私のことを、愛してくれているなんて。
その子の尊い透明な涙が、私のために、流されているなんて。
十分だよ、ナツキ。これ以上幸せになったら、多分私は、耐えられない。
幸福は、きっと何か凄まじい破壊力を持っている。憂鬱とか苦しみとか、そういうぬるくて形のないものに浸って生きてきた私は、これ以上の幸福に当てられたりしたら、どうなってしまうか分からない。
幸せなまま、死んでしまいたい。
ふとそう思った。いつまで足掻くかの違いで、私の人生の終わりが自殺になるであろうということは、もうずっと前から明らかだ。
もう何ヶ月かして、夏の余韻が終わったら、気が向いた時に死んでしまおう。
そう考えた時、ナツキの涙がまた、私の首筋を打った。そしてはっとした。
もし、私が死んだら、この子は、どう思うだろう。
ナツキの声は、もう言葉にもなっていなかった。
こうやって、泣くんだろうか。ナツキは泣き虫だから。でもその時、私はこうやって、抱きしめてあげることはできない。
そう考えた瞬間、目頭がきゅうっと収縮して、目のピントがずれた。
…涙?
胸が、勝手に震え始めた。
…泣いてるんだ、私。
目に溜まっていた熱い何かが、ボロリとこぼれ落ちた。一滴が落ちるとまた一滴、ポトリ、ポトリと、絶え間なく流れ出し始めた。
…どうしようもない。私はずっと生きていることはできない。でも、生きている間は、ナツキと過ごしたい。
私はナツキを抱きしめ直した。
『どうかしてる…』
どうかしてる、本当に。
 
 プシーッ、という音に驚いて目を開くと、ドアが開いてホームからぬるい風と夏の音がなだれ込んできた。隣に座っていた茉理さんが立ち上がって、私を振り返った。
『降りよう、ここで。』
私は慌てて足の間に挟んでいたトートバッグを取り上げて立ち上がり、茉理さんについて電車を降りた。ふわふわとした、白昼夢みたいな熱気が、私を包み込んだ。蝉のジンジンいう声が、白画用紙に青いチョークをはたいたような空を覆っていた。
『どこですか、ここ。』
周りを見回した。ホームの端のフェンス、でたらめに伸びた木、そして、その向こうに見える––
『海…』
『どこだと思う?どこに見える?』
茉理さんがニコニコしながら私に聞いた。私はちょっとホームを見渡して、駅名の看板を見つけて読み上げた。
『根府川、です。』
『根府川か。そっか、二人で行ったこと、あるもんね。』
茉理さんはちょっと目を見開いて、私をまっすぐに見つめた。茉理さんの髪と制服のスカートが、同じように風に揺れていた。
『ナツキには、根府川に見えるんだね、この場所が。』
『根府川じゃ、ないんですか…?』
私は不安になって、もう一度看板を見た。赤錆のついた、白ペンキの看板にはしっかりと『根府川』と書かれている。
『ここは、どこなんですか?』
私が聞くと、茉理さんは猫目でニヤッと笑って、言った。
『余白。』
『余白…?』
茉理さんはふふっと息をこぼした。
『根府川ってことは、すぐ海だよね。』
茉理さんはそう言うと、急に走り出し、改札口への階段を駆け上り始めた。
『あ、待って!』
私も慌てて地面を蹴って、茉理さんを追った。
『茉理さん!』
無人の改札を走り抜け、坂を下りていく。木漏れ日が流れていく。道路標示が流れていく。
 海岸へ降りる階段に駆け寄ると、茉理さんが下から手を振っていた。私は階段を一段づつ降りて、礫の海岸に足を着けた。
『茉理さん、速い…』
『はは、ごめんごめん。』
私たちは石だらけで足場の悪い浜辺をひょこひょこと歩いて波打ち際まで近寄った。手近にあった大きな石の上に腰を下ろして、海を眺める。
海が青いのは、空が写っているからじゃ無い。
急に気が付いた。
空が何色だろうと、海は、勝手に青いのだ。
波が何層にもなって、私たちの方に近づいてくる。少し低くなった太陽が水面や濡れた石に乱反射して、波が浜辺まで光を押し運んで来ているように見えた。
波の音がゆっくりと時間を数えている。
私は沈黙を破って、口を開いた。
『…茉理さん。』
『ん?』
私は足元の石に視線を下ろした。
『…茉理さん、死んだんですよね。』
『うん、そう。』
私は顔を上げて、茉理さんを見た。茉理さんも目線を海から私に移して、猫の目のように赤銅色に光る黒目を開いて、私を見た。
『じゃあ、これは?ここはどこで、どうして茉理さんは、ここにいるんですか?』
私がそう聞くと、茉理さんは立ち上がった。そして優しく笑って、私を見下ろした。
『言ったでしょ。ここは、余白。原稿用紙の、空白の段落。』
原稿用紙、と聞いた瞬間、視界がブレるような感覚がした。白い紙面、セピア色の罫線、鉛筆の文字。
そうだ、私は今、茉理さんの原稿を読んでいるのだ。
『…小説の、中?』
茉理さんは頷いた。
海風が弱まってきている。もうすぐ夕方だ。
『どうやって…?』
『すごいでしょ。この景色も、私も、風もぜーんぶ、ナツキに今見えてるものは、何もかも、文章なの。ほんとは。』
茉理さんは大げさに腕を振り回してそう言うと、波打ち際の方に数歩踏み出した。
 太陽が茉理さんの影に隠れた。逆光の茉理さんの影と海風が私の顔に当たる。茉理さんの白い制服の背中が風でぱたぱたと膨らむのが見えた。
私はそっと立ち上がって、その背中に歩み寄った。茉理さんの後ろ髪が風に絡んで、私の顔をくすぐる。柑橘系のシャンプーの匂いがした。私は茉理さんのワイシャツの背中の膨らみを押しつぶすようにして、自分の胸を茉理さんの背中に当てる。そして両手をそっと前に回して、茉理さんのお腹をぎゅっと抱き寄せた。
温かい。
『…ナツキ。』
『私、ずっと茉理さんに抱きしめられてました。』
『…うん。』
茉理さんの顔は見えない。でも茉理さんの背中は、あの頃とまったく同じに温かかった。
『私は––』
私は、ずっと。
『茉理さんみたいになりたかった。茉理さんに、なりたかった。』
『…ダメだよ、私みたいになったら。』
茉理さんの声は、背中に当てた私の胸に、直接響いてくるようだった。胸がすくんで、私は茉理さんの肩に頭をもたせかけた。
海風で渇いたのどを震わせて、呟く。
『会いたかったです。』
『…私も。』
『どうして…どうして、呼び出してくれなかったんですか。最後にあんなわけわかんない電話だけして。』
『…ナツキに、辛くなって欲しくないから。』
私はぎゅっと目をつぶった。泣きたくない。泣いたら、読めなくなってしまう。
『辛かったですよ、全然。大失敗じゃないですか…』
『…ごめんね。』
『大っ嫌い。』
『え…?』
『嘘です。』
『…悪い子だなぁ。』
茉理さんが揺れる声でふふっと笑うのが胸に響いた。茉理さんのこんな声、いつ以来だろう。
私はしばらく何も言わずに、茉理さんの体温を胸に受け止めて、じっとしていた。茉理さんという存在を、ずっと感じていたかった。
『…茉理さん。』
『なに?』
『ずっと、ここでこうしてちゃ、ダメですか。』
『…だめ。』
分かりきっていた。私はもっと強く、茉理さんの背中に胸を押し付けた。
茉理さんは優しい声で言った。
『小説は、おわりまで読み進めないと。』
その言葉で、私の胸の中は、平らな水面に石を投げ込まれたみたいにぼちゃんと波立った。
『でも、茉理さんは…』
私は茉理さんの肩に額を押し付けた。
『そんなこと言っておいて、茉理さんは、途中で勝手に、一人で死んじゃったじゃないですか。』
日が落ちてきているのが分かった。暑さが薄まって、薄暗さが空気を冷ましはじめていた。
茉理さんがぽつりと答えた。
『途中じゃないよ。それが私にとっての終わりだったっていう、それだけ。』
茉理さんのお腹にまわした手が、急に温かく包まれた。茉理さんが、私の手を握っていた。また一瞬、視界がぶれた。
『…ナツキに、全部あげようと思ったの。私に見えるものとか、考えてることとか、全部。本当に全部ナツキにあげて、空っぽになったら、死ぬことにしてたんだよ。この小説が、その仕上げ。』
また心の中に重い石が投げ込まれて、ぼちゃりという大きな音と波紋が立った。
私は叫んでいた。
『そんなもの、全然欲しくない!』
茉理さんの手が固くなるのが分かった。自分の手が震えるのも、感じた。茉理さんの背中に押し付けた自分の胸が、重く脈打っているのが、骨に響いてくる。
『そんなもの、全然教えてもらわなくていい!死んじゃうくらいだったら、何にも知らないままでよかった!だって、そんなの…そんなの、茉理さんの身勝手じゃないですか!私は、茉理さんに、生きてて欲しかっただけなのに…!』
茉理さんは、黙っていた。顔は見えない。でも茉理さんの背中が、細かく震えているのを胸に感じた。
分かっている。でも、本当に¬¬––
『一緒にいたかった、だけだったのに…』
私は茉理さんを抱きしめる腕をもっときつくした。茉理さんは今、こうして私と触れていて、ここにいるように感じる。でも本当はもう、いないのだ。茉理さんは、死んでしまった。
『…ごめんね、ナツキ。でも––』
『分かってます。ごめんなさい…』
茉理さんにとって、生きるということがどういうことだったのか、私にはもう、息が詰まりそうなくらいに分かっていた。
『ずっと、走ってたんですよね。止まりたいのに、速すぎて、体がもう止められそうになくて、どんどん、息ができなくなって、心臓が爆発しそうで…』
『うん。でも、苦しかったから死ぬ訳じゃないよ。』
私は顔を上げた。茉理さんがちょっと横顔を傾けて、私に言った。
『幸せだから。いつか死ななきゃいけないなら、一番幸せな中で、死にたかったから。』
『…生きてたら、もっと幸せになれたかも、しれないですよ。』
なんて青臭い言葉だ。なんでもっと、いいことが言えないんだ。茉理さんがいるのに。茉理さんにかける言葉なのに。
『ないよ。絶対。』
茉理さんはそう言って首を後ろに倒し、頭を私の肩にもたせかけると、そのまま私に体をあずけた。私はちょっとよろけそうになって、足を踏ん張った。
『ナツキや、結城たちと一緒に過ごすのよりも幸せなことなんて、ないよ、この世に。』
だめだ。もう、耐えられなかった。すると急に、視界がジーンとぼやけた。
もう、終わり?
『嫌だ、まだ終わりたくない!』
私は叫んだ。まだ読み終わってしまいたくない。まだ続きが読みたい。
世界がどんどんぼやけていく。まだだ、まだ一緒にいたい。
私は何か言おうとして、抱きしめていたはずの茉理さんがいなくなっていることに気がついた。
『茉理さん?茉理さん!』
ぼやけたままの青い視界の中で、茉理さんを探す。ほとんど何も見えていない。ゆらゆらとして、境界線が何もなくて、ただぼんやりとしている。茉理さんに、せっかくまた会えたのに。
『どこ?茉理さん!!』
何も見えていないのに、首だけをブンブン回して、茉理さんを探していた。
『茉理さん!!茉理さあああん!!!』
急に目の前が真っ暗になった。目の周りが温かく包まれたようだった。背中にも、温かいものが当たった。耳元で声がした。
『大丈夫、まだもうちょっと、続きがあるから。』
顔に手を当てると、温かい手が私の目に当てられていた。それをどけてばっと振り返ると、茉理さんが悪戯っぽい微笑みを浮かべて立っていた。
…どうして、この人は。
『…なんで、茉理さんは、いつもそうやって、私をおどかすんですか…』
どうしてこの人は、いつも私を泣かせるんだ。
私はまた胸が震えて、浅くて細かい息しかできなくなって、ちゃんと話せなくなってしまった。
『どうか、してますよ、本当に。どうかしてる!こんなのどうかしてる…』
私が足元を見て震えていると、茉理さんの腕が私を包み込んで、手のひらが温かく頭を押して、私は茉理さんの肩に顔をもたせかけた。
『泣き虫だなぁ、ナツキは。』
茉理さんの手が、私の髪を撫でるのを感じた。温もりが、ゆっくりと流れていく。
『ちょっと目つぶってて。』
私はちょっと不安で胸がすくんだが、言われた通りに目を閉じた。すると急に風が止んだ。波の音は聞こえなくなって、蝉の声は急にくぐもった。ブーンという低く唸るような音が上の方から聞こえ始めた。
『いいよ、目開けて。』
目を開いて茉理さんの肩から顔をあげると、そこは映画部の部室だった。外で木が風に揺れて、そのせいで部室の中で光が飛び回っていた。窓の外の光が溢れて、部室の中になだれ込んで来ているみたいだった。置き時計に目をやると11時40分を指していた。けれど外を見る限りは夕方のようだった。
茉理さんは私から腕を解いて、言った。
『左手出してよ。』
『え?』
茉理さんは微笑んでいた。私はおずおずと左手を前に差し出した。
『手のひら、下に向けて。』
私は手首を回した。
『じゃあ、またちょっと目つぶって。』
私はまた不安に襲われながらも、目をぎゅっと閉じる。
『それじゃあゆっくり、左手を下に下ろして。』
少し手を動かすと、手のひらが何かに触れた。ひんやりして、すべすべした何か。
『握って。そしたら目開けて。』
それをしっかり握ると、私は目を開けた。
握られた私の左手の下に、茉理さんの右手が開いて差し出されていた。
『それ、あげる。』
茉理さんはそう言うとゆっくりと後ずさりして、体は私の方を向いたまま、開けっ放しのドアに近づいて行った。
『あ、ま、茉理さん!』
『なーに?』
茉理さんは足を止めずに返事をした。
『あの、また、ここに来れば、茉理さんに会えますか?会いにきていいですか?』
なんとなく、答えは分かっていた。でも、もしかしたらと思った。
茉理さんは悲しそうにかむりを振った。
『だめ、だめだよ。私とはもう、会えない。』
分かっている。でも会いたい。
茉理さんは私がそう思うのを見透かしたように言った。
『だめ。ナツキ、ナツキは生きてるでしょ。私は、死ぬ。』
茉理さんはまた一歩下がった。
『生きるっていうのはね、時間の中を流れていくってことなの。変わっていくって事。変わるっていうのは、昨日の自分を、殺す事。』
茉理さんはちょっと目線を落として、言った。
『明日の自分に、殺される事。』
『茉理さん…』
遺書を読み上げる、結城さんの声が頭に響いてきた。茉理さんは続けた。
『私はそれを止めたかったの。それは要するに、明日の自分を、殺すこと。だから私も、ここも、もう変わる事はない。写真や、映画みたいに、ずっと鮮やかなまま。それが私の選んだ事だから。でもね、ナツキーー』
茉理さんは顔を上げて、まっすぐに私を見た。私も茉理さんの目を、まっすぐに見つめた。
茉理さんが口を開く。
『ナツキは、生きてる。綺麗に生きてる。だから、どんなに時間に削られても、ずっと鮮やかで、透明なままで、いられるはずだから。ううん、もっと鮮やかになれる。時間は私の敵だったけど、ナツキにはきっと味方だよ。だってナツキは、誰よりも綺麗に生きてるから。』
胸がすくんで、頭が熱くなった。
違う、私は、そんなんじゃない。私は言った。
『でも私も、怖いんです!自分が変わっていって、いつか別な人になっちゃうのがすごい怖いんです!それに私、全然綺麗に生きてなんかない!』
私は茉理さんの透き通った茶色の目を見つめた。
『私、ただ死ぬのが怖いだけなんです!死ぬのが怖いから、たまたま今生きてるから、そのまま…ただそのまま普通に、毎日息をしてるだけなんです!』
全然、綺麗に生きてなんかいない。
私は、怠惰だ。茉理さんみたいに、自分を削り続けて何かにのめり込んでみたかった。今回の映画作りにしたってそうだ。
でも、私は、茉理さんにはなれない。
私は本当に、何もかも中途半端だ。茉理さんが亡くなって、ずっと気分が塞ぎ込んでいた。それを言い訳にして、茉理さんに勧められてまた始めていた書き物も、バイトも、やめてしまった。何もかもが怠く感じて、それを憂鬱のせいにしていた。茉理さんのせいにしていた。
すると茉理さんはニコッと笑って、言った。
『それが、綺麗に生きるって事だよ。』
部室の真ん中で立ち尽くしている私に向かって、茉理さんは後ずさりながら声を放った。
『君は、少年?少女?』
窓からの光が当たって、茉理さんの茶色の黒目が猫の目のようにギラッと光った。
『え?』
茉理さんの上履きのかかとががまた一歩、ドアに近づく。
『しょ…少女です!』
茉理さんの口角がちょっと上がった。茉理さんは満足げな声で言った。
『そっか、少女か。決めたんだね。』
また一歩、茉理さんが遠ざかる。
『君は…君は、地球人?それとも、宇宙人?いい子?悪い子?』
茉理さんの上履きはもう、ドアレールを踏んでいた。
『私は…どっちでも、どっちでもいいです、そんなの!』
茉理さんの右足のかかとが上がる。
『…名前は?』
茉理さんはそう聞くと、右足を浮かせたまま一度動きを止めた。
これが、きっとこれが最後だ。
私は息を吸って、部室棟の隅々に響き渡るぐらいの声で、叫んだ。
『ナツキです!!!』
もう一度、深く息を吸う。
『水野、夏美です!!!』
冷めた壁が、声をジーンと反響させた。蝉の声も、クーラーの音も、一瞬聞こえなくなった。茉理さんは緩んでいく静けさの中でニコッと笑って、言った。
『いい名前。』
瞳に光が当たってギラッと光った。そして茉理さんの右足が降りていく。部室のドアレールの向こうの、廊下の床に、茉理さんの足が、着いて––
 私はナツキの残る部室に背を向けて、廊下に向き直った。壁はなくなっていた。代わりに、廊下に沿って赤い電車が止まっていた。廊下は静かだ。乗るのは私だけのようだ。
プシーッという音がして、ドアが開く。
私は中に踏み入って、車両の中を見渡した。
『…これが銀河鉄道って。』
青いふかふかしていなさそうなシート、薄く緑がかった窓。宙吊りの週刊誌の広告。いつもの通学電車と全く同じだ。
私が端の席に座ると、プシーッという音がしてドアが閉まり、車内アナウンスがくぐもった音で流れた。
『えー間も無く海浜線、発車いたします。』
私はあんぐりと口を開けた。銀河鉄道でもないのかよ。普通に、海浜線だ。
電車は揺れて、ずるずると動き出した。また、車内アナウンスが鳴った。
『えーこちらは、特急、根府川行きでございます。』
特急が根府川なんかに止まる訳ないのに。無人駅なんだから。私は軽く吹き出した。
ぼんやりと電車に揺られていると、窓の外の視界がパッと開けて、海が見え始めた。
私は小さな声で、ぽつりとつぶやいた。

『どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう。』

 左手に乗った石にはマジックでそう書かれていた。私はただ、立ち尽くしていた。いつものままの、部室の、真ん中に。私はその石を両手で握りしめて、額に当てた。
茉理さん…。
私は目をぎゅっとつぶった。

 目を開いて、額に着けていた手を下ろすと、目の前のテーブルの上に大量の原稿用紙が散らばっているのが目に入った。手の中を見ると、隕石はちゃんと、あった。
顔を上げて時計を見ると、0時を回ったところだった。窓の外が暗い。
私は改めて、散乱した原稿用紙を見渡した。
読み終わってしまった。
胸の中が何かでぐっしょりと濡れているみたいで、切なくて、でもどこか心地よい。いい映画を観終わった後の気持ちと、何一つ違いはなかった。
 私はそのまましばらくぼーっと、テーブルの前に座っていた。でもふと思い立って、スマホを取り上げた。LINE。杉山。通話。スマホを耳に当てる。
呼び出し音が2回鳴り終わったあと、がちゃっという音がした。
『もしもし?』
「あ、もしもし。ごめん、夜遅くに。」
『いや、このぐらいならみんな起きてるでしょ。どうしたの?』
「いや、なんだろう。」
どうして杉山に電話をかけようと思ったんだろう。よく分からなかった。
「…分かんない。」
杉山がふっと笑うのが、くぐもったスピーカー越しの音で聞こえた。
『なんだそれ。…あそうだ、誕生日おめでとう。』
「へっ?あーそうか、もう日付変わってるじゃん。」
原稿に夢中で、誕生日のことをすっかり忘れていた。
『どう、18歳になった気分は。』
私はちょっと笑いながら答えた。
「分かんないよ。いきなり別人になるわけじゃないし。」
杉山もまたちょっと笑っていた。
『車の免許、取れるよ。』
「取ってもなぁ…杉山は、取るの?」
『分かんない。でも海沿いのまっすぐな高速道路とか、走ってみたいなぁとは思う。』
「ああ、それは私も思う。気持ちよさそうだよね。」
あ、と杉山が言うのが聞こえた。
『そういえば、一昨年、結城さんが免許とってさ。夏休みにレンタカー借りて、5人ぐらいでドライブ行ったよね。』
ドライブ。行ったっけ。私はちょっと頭の中を振り返ってみた。
「誰がいた?」
『えーっと…結城さんが運転してて、俺もいて、水野もいた。あと…並木さんがいたかな、あの人車オタクだし。茉理さんはいたっけ…?』
茉理さんがいた?だったら絶対に覚えてるはずだけどな。私はもう一度頭の中をかき回した。
ぼんやりと、なんとなく車の中でわいわい喋っていた光景が思い浮かぶ、ような気がする。
「いつだっけ?」
『だから夏休み。』
「8月?」
『いや、ギリギリ9月だったかな…?』
9月、と言う言葉で急に頭が回った。そうだ、ドライブに行った。
「思い出した、それ9月の1日だ。」
『日にちまで覚えてるんだ。』
「うん、間違いない。だってその日、茉理さんが––」
私の声を遮って杉山が言った。
『ああー俺も思い出した!その日茉理さん、髪の毛バッサリ切ってきて。』
「そうそう!玲ちゃんみたいなショートカットになって、白いワンピース着て。」
『似合ってたよね。あの時っきりだったけど。』
そうだった。私が駅前の三日月型のオブジェの前に、例によって集合時間より40分近く早く着くと、真っ白なワンピースを着て、さらさらな髪をショートカットに切り揃えた女の人が、麦わら帽子を手に持って立っていた。綺麗だなぁと思ってぼーっと眺めていたら、その人はちょっと周りを見渡して私に気付き、ひょこひょこと歩み寄ってきた。そして手に持っていた大きなツバの麦わら帽子を、思わず身構える私の頭に、ぽさっとかぶせた。
『…え、茉理さん!?』
『どうしたの?何かあった?』
茉理さんはわざとっぽく不思議そうな顔をした。私がぽかんと口を開けていると、茉理さんはちょっと恥ずかしそうに笑って、こう言っていた。
『これね、喪服だよ。夏が死んだから、こうやってわざとっぽすぎるくらい夏っぽい格好して、喪に服してるわけ。』
茉理さんは私の頭から麦わら帽子を取り上げると、両手でぎゅっとかぶって見せた。
『どう?』
私は驚いていて、そして見とれてしまっていて、ちょっと遅れて返事をした。
『綺麗、です。』
そうだった。綺麗な人だったな、茉理さん。
私はちょっと手元の石に目をやりながら、言った。
「ねぇ、杉山。」
『うん?』
「今年も、映画部のみんなでさ、いろんなところに行こうよ。」
『あーいいね、楽しそう。』
「海とかさ。花火とか。映画館とかも。」
『うん、行こう。』
「それから…それから、合宿とか。みんなでバーベキューしたり。あとは…電車に乗って、適当な駅で降りて、適当なお店でご飯食べて…」
『うん。』
「あとは、…お祭りとか、屋上で、騒いだり、一緒に文章書いたりしてさ…あとは…」
『…。』
「獏ゲームとか、やって…それから、それから…あと、DVDいっぱい借りて、家で、ぶっ続けで観たりさ…」
『水野。』
「…。」
『…泣いてる?』
「…うん。ちょっと。」
『何かあったの。』
「…茉理さんから、手紙が来た。」
『…そっか。』
「うん。」
『俺さ、思ったんだけど。』
「うん?」
杉山はちょっと言葉を切ってから続けた。
『最初に水野が、映画のプロット書いて持ってきた時さ、この話、早川のことを書いた物語だと思ってた。』
私は頷いた。玲ちゃんにも、同じようなことを言われた。確かラストシーンの撮影の前の夜だ。
杉山は続けた。
『でも脚本ができて、撮影が始まって。色々書き足したり、最後のシーンとか、すごい頑張って書いてて。それ読んだら、なんかこれ、水野自身の物語なんじゃないかって思ったのよ。』
私は頷いて、言った。
「玲ちゃんも、同じこと言ってた。」
『うん…でも、今思ったのは違くて。』
「え?」
私が聞き返すと、杉山はちょっと声を傾けて言った。
『これ、茉理さんの話でもあるような気がして。』
電話越しなのにその杉山の声が、やけに響いて聞こえた。
「…うん。私もなんか、そんな気がする。」
だからきっと、あんなに書きたかったんだろう。毎晩徹夜して、何十枚ページもノートを無駄にして、神経をすり減らしてまで書きたかったのは、多分これが茉理さんのお話だったからだ。
「…私、茉理さんになろうとしてた、脚本書いてる時。」
『そっか。』
「うん。あの人も、すごい苦しんで、取り憑かれたみたいになって書く人だったから。」
だからあんな事が出来るんだろう。文章を読んでいるだけのはずなのに、私は茉理さんになったり、海風や体温を感じたりしていた。
『最後のシーンの脚本書いてる時の水野、そんな感じだったかもしれない。』
「うん…なんか、自分と主人公が混ざり合っちゃって、一瞬、本当に自分が叫んでるみたいな感じになって。」
『あのシーン、すごくいいと思う。』
「へへっ、ありがとう。…もう、寝るかな。」
ちらっと時計を見ると0時半を回っていた。
『そうね、明日も編集あるし。』
「明日も、いつもの時間?」
『あ、いや。明日は午前中設備点検か何かで部室棟入れないから、12時くらいに来て。』
「あ、わかった。」
『じゃあおやすみ。』
「おやすみ、ありがとうね。」
『いえいえ。』
ピロリン、と通話終了の音が鳴った。
 私は深く呼吸をすると、テーブルに散らばった原稿用紙を丁寧に拾い集めた。左下の角に数字が振ってあったので、順番に重ねるのには意外と時間がかからなかったけれど、700枚近くはあったのでかなりの作業だった。
もう、これを読む事はできない。遠ざかっていく茉理さんの、悲しそうな顔が蘇った。
寂しがりやのくせに。
重なった原稿のヘリを整えて、元のように軽く二つに折り曲げると、裏側に薄く何か書いてあった。
顔を近づけると、鉛筆の控えめな字でこう書かれていた。
『成人したら会いにおいで。』
私は胸を震わせて声を出さずに笑って、分厚い原稿用紙の束を胸に抱きしめた。
テーブルの上で、隕石と名付けられた平べったい石が少しくるくると揺れていた。

2017年10月29日公開

作品集『ナツキ』第18話 (全20話)

© 2017 ムジナ

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