満ちない想いで満ちる夜

ハギワラシンジ

小説

864文字

何かしらを裏切っていると、もう裏切っているのか分からなくなる。 何かを満たしたいから裏切っていたはずなのだが。自分の気持ちを満たしたいから背いていたはずなのだが。

誰かを裏切っている夜だった。
日が射す朝、差さない朝。そんなことは関係なく。僕は夜を歩く。
僕は知らない人とポップグループの話をしていた。その人との話は楽しくて、僕は発散できた。何が発散できたのか。それは満ちない想い。
「人はもうお仕舞いだ。四次元の存在に勝てない。だから五次元になるしかない」
「概ね賛成っす」
会社の先輩は誰かを裏切っているバーで僕に話した。僕はそれに頷く。本心から。
店内は地下深くにあって、絶え間なく音楽が流れていた。
僕はそこに流れるミュージックが全て好きだった。なのでよい気分。僕の遺伝子は美しい。
「カレーは肉料理だ」
「分かります」
僕には先輩のいうことがよくわかる。カレーは全て肉を美味しく食べるための工夫だ。僕らの想いがなかなか満ちないように。何かを満たすための工夫だ。
店内はタバコの煙と愛情と騒音で一杯だった。みんなお互いのことが分かっていたし、誰も蔑ろにしなかった。それだけでなんて優しい世界。
僕はお互いがお互いに優しい世界が好きだ。離婚した夫婦が離婚してない夫婦に「どうせマンネリでしょ?」という世界は好きではない。
吹き飛ばしたい。
吹き飛ばした。
僕は地下のバーから全て吹き飛ばした。
妙な連帯感を持つ卵の白身、ほどけて吐瀉物に身をやつす靴紐、大事な友達を殺さなきゃいけない死刑執行人。
そんなものっていらない。
いらないよね?
それこそリモートワークで働き方を改革下方がいい。
先輩は壁に持たれて寝ていた。僕は起きていた。なぜだろう。眠いはずなのに。
そもそも僕は何でここにいるのか。意思が弱いからか、誰かの差し金か、それとも、ただの運命か。
だから僕は分からなくなって、逃げた。
僕がわからなくなるときを僕は分かっていた。それは経験済みだった。
朝は浅はかだ。
僕を無造作に照らす。それに寄る損失を考えていない。
お前はいいよな、無造作に何かを満たせて。
その光のベクトルを分けてくれよ。手始めに、誰かのグラスに水を注げるようになりたいんだ。

2017年8月7日公開

© 2017 ハギワラシンジ

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

"満ちない想いで満ちる夜"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る