誰かを裏切っている夜だった。
日が射す朝、差さない朝。そんなことは関係なく。僕は夜を歩く。
僕は知らない人とポップグループの話をしていた。その人との話は楽しくて、僕は発散できた。何が発散できたのか。それは満ちない想い。
「人はもうお仕舞いだ。四次元の存在に勝てない。だから五次元になるしかない」
「概ね賛成っす」
会社の先輩は誰かを裏切っているバーで僕に話した。僕はそれに頷く。本心から。
店内は地下深くにあって、絶え間なく音楽が流れていた。
僕はそこに流れるミュージックが全て好きだった。なのでよい気分。僕の遺伝子は美しい。
「カレーは肉料理だ」
「分かります」
僕には先輩のいうことがよくわかる。カレーは全て肉を美味しく食べるための工夫だ。僕らの想いがなかなか満ちないように。何かを満たすための工夫だ。
店内はタバコの煙と愛情と騒音で一杯だった。みんなお互いのことが分かっていたし、誰も蔑ろにしなかった。それだけでなんて優しい世界。
僕はお互いがお互いに優しい世界が好きだ。離婚した夫婦が離婚してない夫婦に「どうせマンネリでしょ?」という世界は好きではない。
吹き飛ばしたい。
吹き飛ばした。
僕は地下のバーから全て吹き飛ばした。
妙な連帯感を持つ卵の白身、ほどけて吐瀉物に身をやつす靴紐、大事な友達を殺さなきゃいけない死刑執行人。
そんなものっていらない。
いらないよね?
それこそリモートワークで働き方を改革下方がいい。
先輩は壁に持たれて寝ていた。僕は起きていた。なぜだろう。眠いはずなのに。
そもそも僕は何でここにいるのか。意思が弱いからか、誰かの差し金か、それとも、ただの運命か。
だから僕は分からなくなって、逃げた。
僕がわからなくなるときを僕は分かっていた。それは経験済みだった。
朝は浅はかだ。
僕を無造作に照らす。それに寄る損失を考えていない。
お前はいいよな、無造作に何かを満たせて。
その光のベクトルを分けてくれよ。手始めに、誰かのグラスに水を注げるようになりたいんだ。
2017年8月7日公開 2017-08-07T20:35:45+09:00 2017-08-08T18:59:08+09:00
読み終えたらレビューしてください
この作品のタグ
Share This シェアする
面白かったり、気になったらSNSでシェアしてください。
シェアしていただくと作者がやる気を出します。
"満ちない想いで満ちる夜"へのコメント 0件