遠藤周作生誕100年を記念した、初期作品シリーズ最新刊『砂の上の太陽 遠藤周作初期短篇集』が河出書房新社から発売された。

 遠藤周作は、1923年東京生まれ。幼年期を旧満州大連で過ごす。神戸に帰国後、12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒業。50年から53年までフランスに留学。一貫して日本の精神風土とキリスト教の問題を追究する一方、ユーモア小説や歴史小説、戯曲、「狐狸庵もの」と称される軽妙洒脱なエッセイなど、多岐にわたる旺盛な執筆活動を続けた。55年「白い人」で芥川賞、58年『海と毒薬』で新潮社文学賞、毎日出版文化賞、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞、80年『侍』で野間文芸賞、94年『深い河』で毎日芸術賞、95年文化勲章受章。96年に逝去。

 今作では、芥川賞受賞直後に書かれた幻の表題作ほか、本シリーズでしか読めない貴重な作品を収録。生誕100年のメモリアル・イヤーに際し、初期作品を集めた「遠藤周作初期作品シリーズ」の一環。

 1955年「白い人」で芥川賞を受賞した直後に書かれた幻の表題作ほか、遠藤文学の道標となる全9篇を収録。フランス留学時代の体験を描いた「ぼくたちの洋行」「あわれな留学生」、遠藤文学永遠のテーマ「母なるもの」を想起させる「ピエタの像」、異国の地で出逢った老人の自殺の報から人生の黄昏を描く「ナザレの海」、ほか単行本初収録作品の「英語速成教授」「エイティーン」「小鳥と犬と娘と」「除夜の鐘」。いずれも後の遠藤作品への重要なアプローチとなる。

 なお、遠藤周作生誕100年を記念し、現在は長崎市遠藤周作文学館で「生誕100年特別企画展『100歳の遠藤周作に出会う』」、町田市民文学館ことばらんどで「生誕100年遠藤周作展 ミライを灯すことば」が開催中。

 『沈黙』がマーティン・スコセッシ監督に映画化されるなど、今や世界的にも知られる遠藤文学。代表作は触れる機会が多いと思うが、なかなか初期作品を知る人は少ないのではないか。こういう機会に文豪のその道筋を辿り直すのも一興だろう。