戦前・戦後を代表する作家・大佛次郎おさらぎじろうによる「南方ノート」と「戦後日記」が8月26日~12月10日まで、神奈川・横浜市の大佛次郎記念館で行われる特別展(公益財団法人・横浜市芸術文化振興財団主催)で初公開される。

 大佛は1897年(明治30年)横浜生まれ。関東大震災の翌年、生活のために書いた「鞍馬天狗」シリーズが人気となり、作家としての道を歩み始めた。以降、50年にわたり、時代小説のほか、開化期の横浜が舞台の「霧笛」、現代小説「帰郷」、フランスの歴史を題材としたノンフィクション「パリ燃ゆ」、童話「スイッチョねこ」、戯曲、ライフワークとなった「天皇の世紀」まで、幅広いジャンルの執筆活動を行う。1964年文化勲章受賞。1973年に死去。

 「南方ノート」は、大佛が太平洋戦争中の昭和18年11月から約3か月に渡り、同盟通信社の嘱託として南方(現シンガポール、マレーシア、インドネシアなど)を視察した際、6冊の大学ノートに綴った手記。「戦後日記」は、敗戦後の昭和21年3月から25年8月までの8冊の日記。

 本展は、河西晃祐、斎藤理生 冨田暁、源川真希による監修で『南方ノート・戦後日記』(未知谷刊・大佛次郎記念館編)として書籍化された記念展示となる。

 既刊の『敗戦日記』をはさみ、その前後をつなぐ本書には、検閲を想定しない「日記」だからこそ書ける、大佛次郎の“肉声”が詰まっている。軍政下南方の日常や、敗戦直後の日本の社会状況といったものは、大佛次郎研究にとって重要であることは云うに及ばず、東南アジア史研究、戦後の文壇史、文化史研究にとっても価値ある史料といえる。

 大佛は南方から帰国後「別の生き方が初まっているのである」(『敗戦日記』1944.10.9)と記し、南方体験が自身にとって、一つの転機となったことを示唆してもいる。

 本展は二つの「日記」の記述をたどることで、戦中の南方、敗戦直後の日本で作家が何を見、何を思ったのか、等身大の大佛次郎に迫る。

 朝日新聞社主催の『大佛次郎賞』としても知られる文豪。今年は没後50周年になる。アクセスできる人は、この機に訪れてみてはいかがだろうか。