“工学の曙文庫”とは、金沢工業大学が“工業”の観点から、科学的発見、技術的発明の原点初版を、世界各地から30年にわたって収集した2000冊以上におよぶ稀覯なライブラリーである。過去にも金沢名古屋大阪で展示が行われ、好評を博している。

 

今回の東京・上野の森博物館では、コペルニクス『天球の回転について』(1543年)や、ガリレオ・ガリレイ『星界の報告』(1610年)といった文字通り「世界を変えた」書物をはじめ、合衆国戦略爆撃調査団『広島、長崎に対する原子爆弾の効果』(1946年) や、合衆国大統領調査委員会『スペース・シャトル・チャレンジャー号の事故に関する大統領調査委員会報告』(1986年)といった近年の資料も含めた約130点が9月8日から公開される予定である。

 

これは一見の価値ありだろう。展示予定の書物リストをぜひご覧になって頂きたい。ワクワクしてこないだろうか。古書や古本などとは段違いにレベルの異なる、教科書やWikipediaでしか目にしたことが無いような正にレジェンド級の名前ばかりだ。本展以外で現物を目にすることはまずありえないだろう。収集の性質上、天文学や薬学、電気化学といった内容の理学書が多数を占めるが、中にはフランチェスコ・コロンナ『ポリフィルス狂恋夢』(1499年)やゲーテ『色彩論』(1810年)など、文学史的にも超貴重な作品が含まれていることも興味深い。

 

実は僕はこの展示を一度見ている。金沢旅行で雨に降られ、ふらりと立ち寄ったのがこの[世界を変えた書物]展だった。その時は何の前知識もなく、ただ雨宿りのために入っただけだったのだが、とても面白かった。確かグーテンベルクの活版印刷機もあったはずである。書物のページをめくることはできないが、これぞ「知の遺産」といった展示の雰囲気の中で稀覯書が美しく展示され、ビジュアル的にも楽しめる。

たいして夏を満喫できなかった貴方にも「読書の秋」の始まりに、是非オススメしたい催しである。