2017年11月17日、美智子皇后の歌集『その一粒に重みのありて』(独題:Nur eine kleine Maulbeere. Aber sie wog schwer)がドイツのヘルダー出版より刊行される。同書には、これまでに詠まれた和歌からテーマを問わず50首が厳選され、原文とドイツ語訳の双方が収められた。翻訳はボン大学名誉教授のペーター・パンツァーが手がけている。

皇族と和歌との関係は深い。多くの日本人にとって最も身近な和歌といえる小倉百人一首では100首中10首が皇族の歌だし、毎年正月に宮中で開催される「歌会始の儀」は遅くとも鎌倉時代にははじまっていた。現代においても和歌は皇室の基礎教養とされ、書道や礼儀作法などともに習得を義務づけられていることが知られている。

そんな現皇室のなかでも、とりわけ歌人として高い評価を得ているのが美智子皇后だ。ほとんどの皇族の作品は歌会始についての報道以外ではなかなか目にする機会がないが、美智子皇后に関しては一般の和歌関連書籍でも取り上げられる機会が非常に多い。現代の短歌を対象とした「新・百人一首」の類では岡井隆や馬場あき子、俵万智らと並んで必ず選ばれるほどで、戦後を代表する歌人であることに異を唱える短歌関係者はまずいないはずだ。

美智子皇后の和歌が公式に外国語訳され歌集として刊行されるのは、今回が初となる。「著者が皇后である」という事実を差し引いても、現代きっての歌人がドイツに紹介されるという文学的意義は大きいのではないだろうか。