AIに理路整然とした文章が書けるのか? 次いでAIは小説を書けるのか? そしてAIが書いた小説が人間の書いた小説の「面白さ」を超える日は来るのか?……と言う問いは様々な人々の間で以前から度々交わされてきた議論であるが、先日、アメリカのアーティスト集団Botnik Studiosは「AIにハリーポッターを書かせる」と言う形でこの議論にとてもユニークな資料を提供した。

Botnik StudiosのCEOであるJamie Brew(ジェイミー・ブリュー)によれば、「Botnik Studiosの理念は、人間と機械・AIそれぞれの持ち味をコラボレーションし、それぞれ単独では作り出せないような表現を生み出す」ことにあるという。今回「標的」となったのは、イギリスの作家J・K・ローリングが執筆し、映画化もされた有名な児童向け小説シリーズ「ハリーポッター」だった。

Botnik StudiosはAIにハリーポッター全7巻を読み込ませ(学習させ)、本文を精査したうえで出来上がった予測変換キーボードを使いハリーポッターの新作を執筆、そしてそれを編集する形で、一冊の新しいハリーポッターが出来上がった。タイトルは“Harry Potter and the Portrait of What Looked Like a Large Pile of Ash,”、訳すと「ハリー・ポッターと山盛りの灰のようにみえるものの肖像」(以下AIハリーポッターとする)。この中から第13章「ハンサムなやつ」が公式サイトやツイッターなどで公開され、直後から非常に評判となった。

日本においても年明けからまとめサイトなどを中心にAIハリーポッターの情報が伝わり評判となっていたが、この度1月9日に、評論家の山形浩生氏が自身のウェブログ「山形浩生の『経済のトリセツ』」にて翻訳を公開し、日本語環境においてもその内容を楽しむことが可能となった。

ここでAIハリーポッターの内容を詳しく述べることは差し控えるが、全編にわたり衝撃的な内容となっている。更に言うと、原作を知っていれば爆笑ものの文章かも知れない。しかしその上で、理路(は)整然としており、起承転結も整い、原作におけるキャラクターの性格の反映なども一応出来ている。編集時に人間の手が加わっており、また「本当にこれは執筆という行為なのか」と言う議論もあるが、AIがここまで小説と言う物を認識しているという一つの結果は現れている。

今現在は、この「AIハリーポッター」は多くの人々にユーモアや「MAD」として消費されているが、いずれはAIによる文章執筆のマイルストーンとして記憶されるようになるかもしれない。あるいは真面目に捉えれば、近い将来、今は亡き文豪がAIで「復活」する(あるいはロボットにして生きた教材となる)日も来るかもしれない。しかしまた、今回AIハリーポッターを生み出したBotnik Studiosの理念は、AIに小説を書かせる「だけ」のことではなく、「人間と機械がともに何かを生み出す」と言う点であることも忘れてはならない。

今回のAIはまず人間による何らかの文章が無ければ作品を生み出せないし、それはハリーポッター、ひいては原作者のJ・K・ローリングによって成し遂げられたことであるとも言える。だが、また小説の表現と言う形から言えば、人間が意識している小説の枠(あるいはバロウズらビートニク小説や夢野久作のように枠を緩めようとする行為)を、AIは完全に取っ払ってのけ、斬新な姿を我々に見せ付ける。AIと人間、それぞれの作品がどう扱われるかと言うことも含めて、今回のAIハリーポッターは非常に興味深くまたこれからの動きに注目すべき作品であると言える。