チュール事件

山谷感人

エセー

1,470文字

 嘘みたいな本当のハナシである。なお、私は精神を病んでは非ず。

 新居に移り約三週間。
 未だにТ氏からリクライニングチェアと机の祝いが届かないが、私は散財しながらも快適に暮らしている。窓から世界三大夜景の山や世界遺産、海が眺めるビューは、この地方都市に居る限り手放さないであろう。
 この地方都市は、全國的にも野良猫が多数で有名である(それが良いとは捨て猫も多いなる故、思わないが)。私はオリンピアで猫好きを競う競技が出来たならば銅メダルは獲得が出来るのでないかしらん? くらいに博学、所謂、猫マニアである。全ての毛色を好んではいない。往時、一緒に暮らしていた(飼う、なる表現を使う猫好きを私は認めていない。同等として接するのが当然。犬は、躾が有る故、違うだろうが)黒と白のハーフを、たゆまなく愛している。
 さて、その新居界隈でも所謂、哀しみの野良猫が多い故、私は偽善者パワー&泥酔チャージを駆使し、食事代を削りチュールを購入した。遊ぶ為には全財産を使う私であるが私生活は吝嗇、質素である。まあ所詮、追憶と淋しさの共有狙い。結句はキ印の動きである。
 だが然し、新居の婆ァは細かく伸びる気持ち悪い蔦の様に面倒臭い。近所の猫にチュールをあげようとしたら、ずっと撫でている年金生活者、違う箇所に行き猫に「チュールだよ〜。」と述べたら逆に、このルンペンは何をしているのか? なる偏見に満ちた目線。私がメガデスのディヴ・ムステインくらい酒乱でなかったらヤッテいる。啄木をならいローマ字で日記を書こうともした。BBA.oyukinasai.
然も面倒なのは私の新居は山手で、今もそうであるが公園で風を受けながらエセーを書く私は、自分の周囲に有る公園と酒場を匂いで判るスタンドを持っている。私は、このスタンドに「ライク・ア・ローリングストーン?」と名付けている。
 そうして、その数カ所の公園に行ったら確かに猫は多数。さあ、チュールの時間だよ、ハニーをしようとしたら、山手の住宅密集地区。公園は囲まれる様に住宅。窓、窓。灯り、灯り。私がニャーと猫を読んだだけで、その窓から眺められる始末である。
 判る。猫に餌を提示したら癖になり君等、近隣の小市民が困るのは。だが然し、私が上げようとしているのはチュールで有る。人間で云えば煙草やアルコールの一時を愉しむ嗜好品である。婆ァよ、この猫達は何の愉しみもなく、いずれは餓死するのである。一時の酩酊を味あわせても良いだろう?
 無論、その近隣と早くも揉めたくない保身があった私は、そそくさと帰宅するばかりであった。内田百閒の随筆を思い出した。
 結句、私は、そうした流れで野良猫にチュールをあげる機会はなかった。然し、マイバッグには常にチュールを持ち歩いていた。だが特に鯨飲した帰り、愛する暮らしていた猫の夢を、まま見る。そうして、やべーな、昨夜は幾ら金銭をドブに捨てたかなぁ? の感慨の後、牛乳を飲み、恐る恐るマイバッグを眺める。金銭のハナシは良いだろう、枝の事実で無いだけだ。ありきたりでしか非ず。
 不思議な事に、そのマイバッグに入れているチュールが常に無くなっているリアル。幾ら、泥酔していても渡して無いくらいは判る。要は夢みたいなハナシ(まさに夢の中での会合だけれども)かの暮らしていた愛猫がチュールを奪いに来て枕元にたちサンクスで消費されているのだなあ、私は実際、脳病院に診察され「貴方は精神病では無いです。アルコール依存症です」と告げられた事も思い出し、いや精神病でも良いだろう、だが然し二度と会えぬ愛猫の、そのサプライズの愛情、まさに夢みたいな事実を真摯に信じている。
 追憶・Т氏、引っ越し祝いよ……。

2023年10月26日公開

© 2023 山谷感人

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