「作家枠はだいぶ集まって、抽選らしいぞ」
「競争率は二倍以上だそうだ」
「いや三倍、もっとかもしれないぞ」
「でも編集枠には誰もいないらしい」
「有名な漫画家が作家枠に応募しているらしいぞ」
ノベルジャムについての噂は聞こえてくるが、どれも曖昧で「情報」とは言えなかった。
公式のアナウンスはない。
そのうち募集は締め切られた。
ぼく自身は日本独立作家同盟の正会員でもあるし、元群雛の編集員でもあるので、運営側とはある程度のパイプはある。
が、ノベルジャムに関してはまるで情報が引き出せなかった。
ぼくにとって、コンペは戦闘である。これは今まであらゆるレベルのプレゼン、コンペ、商談で共通して言えることだが、戦闘は戦術に裏付けられ、戦術は戦略によって選択がされるべきである。戦略には情報が不可欠である。情報がなければただぶつかって死ぬだけだ。戦闘に際して、情報無しで突入するなど、ぼく、いや「俺の人生にはありえない」のだ。
無論、神でもないぼくが全てを知ることはできないし、腕利きのハッカー&クラッカーでもないから日本独立作家同盟の管理サーバーに侵入して、参加者情報を引っ張ってくることなどもできない。ぼくにできるのはいつだってソーシャルハッキングだけである。
一通のメールが届いた。参加決定の通知である。
ぼくは編集者としてノベルジャム2017に参加することが確定した。
同時に他の九人の編集者と、二十人の作家が決定したということである。
しかし、運営側からそのメンバーが発表されることはなかった。
誰が出場するかは、当日のお楽しみ、ということだが、それでは対策が何も立てられないではないか。
僕は独自に情報収集を開始した。
ベテランライターF氏は、出場決定を教えてくれた。彼は共通の知人であるT子さんが出場することになったことも教えてくれた。
一緒に仕事をしている編プロのA氏も素直に出場を教えてくれた。
破滅派のT氏も出場する旨を知らせてくれた。いや、ぼくから聞いたかもしれないが、詳細は忘れた。
これでぼくも含めて五人の出場編集者が判明した。残りは五人だ。
しかし、出場作家の話が全然伝わってこない。Twitterで検索しても、だれもつぶやいていない。
試しに「ノベルジャム出場決まりました!」と言ってみたが、それに呼応する声もなかった。
ひょっとして、そんなイベントは予定されていなくて、俺だけが妄想しているだけなのではないか、と思ったりはしなかったが、反応はまるでなかった。
唯一、普段から一緒にセルパブ的な活動をしているY氏からは直接参加する旨を聞いた。
彼はあまりコンペや賞レースに参加するタイプではなかったので、応募していた事自体が意外だった。彼とは日常的にグループチャットで話しているから、特別不思議なことではない。ぼくも出場する旨を伝えた。
T大学でN氏がトークセッションをするというので出かけていったら、そこに日本独立作家同盟のボスが来ていた。
千載一遇のチャンスである。
来月はよろしくお願いします、などと言って近づく。ぼくが情報収集を目的に近づいたとは思われないように、世間話を装っているが、ガードが硬い。
どんな人が来るんです? と聞いても、結局、鋭意組み合わせ検討中ということしかわからなかった。ただし、少なくとも抽選ではないということはわかった。これは収穫だ。つまり運営側で意図的に組み合わせを考えるということだ。意図的に組み合わせを考えるのであれば、普段から行動を共にしているY氏とぼくを当てるわけがない。
「Yさんも出ますよね。まあぼくと組むことはないと思いますが」
と探りを入れてみたが、なんら明確な情報が出てこなかった。ボスには次の予定があり、それほど長い時間いられなかったので情報収集は断念し、ぼくは撤退した。
ボスから仕入れられたもう一つの情報はNovleJamを「ノベジャム」と略してはいけないということだ。これは「のべジャム」という別のイベントがあって丸かぶりになってしまうためだ。以降、意図的に略さないで呼称することにした。しかし、それ以外は何も掴めなかった。
とんだ無駄足だった!(嘘です、目的はトークセッションの観覧でした)
ぼくはトボトボとT大学をあとにした。未だノベルジャムの全容はつかめていない。
こんなんで戦えるのだろうか。
つづく
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