大きな台風が来て 日本は大変なことになった
ぼくが書斎にしているアパートも大変なことになってはいないかと
なかば胸を踊らせて見にいったら
玄関の前に鉄の棒が落ちているだけだった
アンテナだろうか 椅子だろうか
知らない鉄の棒だ
庭先に打ち捨てられたままの錆びた鉄の棒
それを捨てるには粗大ごみとして捨てねばならなかった
捨てるのは大変だ
それは何も生み出さない
捨てることで生まれるのは
それがもうなくなったあとの無だけだ
だいぶ時間がたって大掃除の季節
ぼくは捨てるべき諸々とともにその鉄の棒を車に積んだ
母が溜め込んだ使っていない布団
精神病院みたいな色をした白いキャビネット
劣化のせいでぱらぱらと葉を落とすクリスマスツリー
金太郎人形
強盗を倒すためにとっておいた木刀
どこにあったのかもわからない 知らない鉄の棒
市が指定するごみ収集センターでは
それらはすべて一律三百七十円だった
ぼくは五千円ほどのお金を払って無を手に入れた
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