ミシェルは仕事へ行った

合評会2024年01月応募作品

鹿嶌安路

小説

3,592文字

いつでも色目を使うフランス人ハーフの女子大生と同居する同学年男子の生活や心情、馴れ初めなどを描いた作品です。破滅派の雰囲気に近づけられるように頑張りましたので、よろしくお願いします。

こちら、初投稿になります!M.ウェルベックとガルシアマルケスの文体を意識してみました……。「誰が、なぜサイコパスなのか」を読み解いていただけると嬉しいです。

 

長い髪が白く透けたネグリジェに沿って流れる落ちる

鎖を鳴らして部屋を歩く君に彼女の心は見えない

 

試しに、自由な関係の基盤となり得る何かをAと置いてみる。一例を挙げればミシェルが、PHLの目に映った貧困層の規範はマゾヒズムだった、と主張したところのそれである。Aを「規範」とするのか。自由の名のもとでAは対象化不能となるのか。他の可能性は知られていないが、分岐する解釈はAを否定する、そう考えてみよう。

ミシェルの主張は次の通りである。

「私、インフルエンザに罹ったみたい」

勿論、私の第一感はこうだ。これは嘘に違いない。取り得る選択はいくつかある。

ただ彼女を追いかけたところで何もできない。そもそもミシェルは明らかにマッチョ男が趣味だったわけで、たとえ現場を押さえたとしても私とのセックスよりも激しくマンコを濡らし、とろけた顔でキスをねだるのを目の当たりにするだけだと思うと動く気にはなれなかった。別の手が欲しい。

「何を考えているの」

ミシェルの太ももに萎えかけのペニスを挟んだまま、もっと正確に言えば、小さな尻の割れ目かマンコの辺りでもう一度勃起するのを待っていた。片手を預けながら、もう片方でおっぱいを揉んだ。乳首をさすったりもした。白い肌の君は巨乳で、コンドームを憎んでいる。だから好きだった。忘れられないはずなのかもしれないが、すぐ忘れてしまうから困っている。溶けそうな中出しの気持ちよさを覚えていられれば、もっと違う人生だったはずだ。

彼女が何者かを一言で表すとすれば、パンドラだ。美女パンドラが箱を開けると世界にピカレスクが生れ、箱の底には希望が残ったという神話を思い出せばいい。

「あなたは私の希望なのよ」

「君は嘘を吐いたね」

「私がいつ嘘を吐いたって言いたいのかしら」

彼女はいつも、私の解釈を試している。

私が思い出を語るのは、それがまるで夢のような時間だったからに違いない。こういうところで嘘を吐かないのが長続きの秘訣だ。ミシェルと初めて出会ったのは大学の大陸哲学概論の授業だった。ドイツ語学科の気取った奴らや、澄ましたフランス語学科の連中が仲良く群れを作って講堂に入ってくるなかで、ミシェルだけが男に囲まれていた。私は囲いの一つだった。フランスが強く出た顔のせいで人形と呼ばれていて、本人はまんざらでもなかったようだが、それよりもリブニット越しのおっぱいとか、階段でパンティを覗かれても清楚な挨拶を返すところにそそられた。彼女は男の視線と自分の価値をよく理解していた。噂では学内にいる殆どの男と関係を持っていたらしいが、神経症気質の読書家を除けば、それはまず間違いない。

「あなたには私より大切なものがあったでしょう、だからよ」

彼女が私と同棲をはじめた理由、ということになっている。ただこれも本当かどうか今となっては疑わしい。信頼できるのは語りの背後にある時間だけだ。そうは言っても彼女との間に特別ななにかがあったかどうか、思い出すのは難しかった。自宅と学校の往来のなかに肉体関係が挟まる日常が粛々と経過し、時折水族館とかそういう学生らしいデートをした。だからこそ彼女の身体よりも大事にしたものが何だったか分からなかった。彼女の目に私は、デニムの上からでもわかるくらいに勃起したペニスと、肩や腰に手を回す馬鹿なマッチョと、奥ゆかしく肘で胸をつつく痴漢の合いの子くらいにしか見えないはずだ。

「君の吐いた嘘が分かった」

七畳一間のアパートのキッチンで朝食の準備をする彼女を尻目に、聞こえるか聞こえないかの声を出した。なんの味付けもされてない半熟の目玉焼きが狭いテーブルに並び、トースターから二枚、パンが飛び出して頭を覗かせた。

「朝からなんの話」

この女は昨夜の会話も覚えていられないのかとキレそうになったが、パンティに染みができるまでキスをした。巨乳は頭が悪い、という主張は大陸哲学概論を受けた私の結論だ。抱きしめる代わりに、シャツに浮かび上がる乳首をさすってやった。内ももまで垂れた愛液をマンコに戻したりもした。

ミシェルとニーチェの講義を受けた後、

「ただの変人を天才だとは思えないんだけど」

と彼女は言った。ただ天才というのはどうしたって人から理解されないんだということを教えようとしたかもしれない。大概、人間は情報を自分の思慮に当てはめるものなのだから、その像は絶対に間違っている。自分の解釈を疑った方が良い。フーコーではないのだ。

彼女の買った遮光カーテンのせいで本当に朝なのかどうか分からなかった。

「何を考えているの」

ミシェルは気の抜けた顔でワイドショーを眺めながら言った。乾いたトーストに半熟の目玉焼きを摘んで乗せると、半分に折ってかぶりついた。折り目から黄身が垂れて、彼女の太ももに垂れた。それを指で掬い取って舐めるのを、何度か繰り返した。まるでそういう人形か何かのようだ。カーテンを開けるとそろそろ陽が落ちようとしていて、やっぱり、と思ったのを少し得意に感じたが、気が咎めて閉めた。二本目の映画は続編にした。主演女優が「役者を夢見る詐欺師」を演じる映画だ。詐欺仲間のヒロインは銘家存続のためにお姫様を演じ続ける人生を選ぶ。主演は役者にはなれず、詐欺を続ける決意を新たにする。彼女が耳の穴を舐めまくるせいで殆ど中身が入ってこなかったが、そのたびに勃起した。

朝起きられないからゴミは深夜に捨てるしかない。

「明日は起きるから」

と意地を張ることもできたが、いまではそんなプライドも消えてしまった。ないよりもある方が良いものは多い。

「一人で出歩いちゃだめ!」

寒い冬の夜に二人でゴミを捨てに行った。彼女は何かが楽しかったようで、スキップなどを挟みながら近くの集積所まで手を繋いだ。乾いた夜空には満天の星空が広がる。

「もう勝手なことはしないでね」

コートの内側にある谷間を見せつけながら、彼女は上目遣いで叱った。あなたは私の希望。リードに繋がれた犬のよう。

「これ組み立てるの早くなったね」

最初に捨てる人がネットの張られた金属のフレームを組み立てなければならない。きっと町内会か何かで組立ての当番が決められているのだろうが、ここのところは私が率先してやっている。そうしてできた空のゴミ溜めに二日分を放り投げた。それが何日も、何日も続けば年月なんてあっという間だった。少し冷めた身体を温めるのにセックスして寝る。

「パンドラの箱の底に何があるか知ってる?」

ミシェルが初めて話しかけてきた。二人だけの帰り道だったが、彼女はフリルのミニスカートで通行人のクソジジイどもの視線をくぎ付けにしていた。

「希望じゃなかったっけ」

と答えた。それで?

「希望はピカレスクと違って、飛び出て行かなかったんだなって思ったの」

「なんのことを話してるの」

その夜からミシェルの部屋に住んだ。処女じゃなかったことはどうでもよかった。

彼女のマンコは馬鹿みたいに濡れていたから、いつでも勃起しているチンコは玄関を閉めてすぐに挿入できた。ベッドにいくまで四回か五回、中に出した。彼女は、赤ちゃんできちゃうからダメだよぉ、を連呼していたが嘘に違いない。蒲団のなかには彼女の匂いが充満している。

「何を考えているの」

そう言い残してミシェルは仕事に行った。彼女は在学中にはじめた仕事をそのまま続けていて、夜が遅くなることが多かった。本当にくだらないと思っている。夢精をしていたらしく、チンコの裏まで汚れていた。

ミシェルの言葉を思い返すと、やはり離れられないのではないかと思う。なぜならアイデンティティが懸かっているからだ。数あるなかから選んだのだ、自分が間違っていたなどと、そう簡単に認められるものではない。彼女は私を信じている。だとしたら、私は彼女の信を利用していることになるか。もしそうだとすればあまり良くない。でもトーストは二人分作ってあった。彼女は朝食を食べるタイプだ。痴漢物のアダルトビデオで射精を済ませると、もう一度、清潔な女のにおいのする蒲団に顔をうずめた。シラフの時間はあっという間に過ぎ去った。

くだらないと思っているのは、どこからどう見ても本当のことだ。それが伝わらない。分からないのは、どうしてAが認識されないのかという一点に尽きる。誰かが『私』と言えば、それは多重性を備えた個体を意味する。別れられないのだ。あらゆるテクストの単一読解不能性もまた運命と言って差し支えない。不和や不一致は大多数のリテラシー減退によって生じるのではなく、マイノリティでさえも読めないという事実に起因する。読むべきものは文字でも文脈でもなく、その外縁部に規則正しく並べ置かれている。

目が覚めるとミシェルは帰っていた。

「あ、おかえり」

「ただいま、また寝てたの」

「今夜のセックスのためだよ」

君が信じたから、私たちはここに居られる。

2024年1月19日公開

© 2024 鹿嶌安路

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"ミシェルは仕事へ行った"へのコメント 26

  • 投稿者 | 2024-01-20 16:32

    改行と句読点が多いのが気になります。ガルシアマルケスが時間や季節を自由に操ることができたのは語られない心情と文体だったのでは?あまりブツ切りにしない方がイメージは伝わりやすそうですが。

    著者
  • 編集者 | 2024-01-25 22:35

    ゴミ集積場のネットを組み立てるところが、やけに現実的で良かったです。

    • 投稿者 | 2024-01-26 15:39

      松尾模糊先生
      コメントありがとうございます!
      このシーンの狙いは御指摘の通り現実感のキャッチだったので、上手くいったのかなと励みになりました。

      今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

      著者
  • 投稿者 | 2024-01-26 11:01

    ミシェルは留学生なんですね! 読みながら舞台が日本なのかどこなのか迷いましたが部屋の大きさがの単位が畳だったので日本だな、と思いました。
    サイコパスなんでしょうか? どうやら世間一般のサイコパス観と私のサイコパス観がズレている気がしてきました。

    • 投稿者 | 2024-01-26 16:07

      曾根崎十三 先生
      コメントありがとうございます!!
       
       私の中で「分かっていない/ハッキリしていない点」に関してコメントを頂けたことに感謝申し上げます。つまり、作家から見た読者の自由と限定のバランスに関する問いです(もしくは読者の焦点?)。この機会に改めて考えることができました。
       例えば舞台を日本のアパートに限定することで生じる影響、大学の立地を限定しなかったことなどもそうですが、もし自由にしたことで成立しなくなるのなら黙説であっても詳らかにしたほうが良かったかもしれません。ミシェルが留学生だったことさえ必ずしも限定的でなかったことも問いの範疇となります。
       サイコパスについて仕掛けは打ってあったので、それを解かせることが出来なかった原因が必ず存在します。筋の弱さかもしれません。一般的なミステリでは巻末で答え合わせをしますが、今回はそれをしない方がサスペンションを効かせられると判断しました。代わりに、冒頭に対応する形で脱構築読解の説明文を入れました。性描写にロジックを破壊する影響力があるのは分かっていたので、それが濃く出すぎた可能性もあります。

       とても勉強になりましたので、今後ともご指導ご鞭撻のほど、心からお願い申し上げます。

      著者
  • 投稿者 | 2024-01-27 00:32

    独特な文体のせいか、生成AIの文章を読んでるような気分になりました。
    これはサイコパスなのでしょうか。ちょっと違いますが解離性人格障害みたいな気もします。

    • 投稿者 | 2024-01-28 01:17

      河野沢雉 先生
      コメントありがとうございます!

       筆者の頭の中というか認知の流れが物凄く生成AI寄りなのは自覚しています。ですから、たぶんその感はあるのだろうとは思われました。ただおそらく文体の「説明的」な印象の方が強かったのではないかと推察します。いわゆる「説明より描写を」が徹底出来ていなかったのではないか、その可能性を再検討したいと思いました。
       サイコパスや各種人格障害の学術的定義を細かく検討する必要があったことをおぼえます。サイコパスのイメージを十分に膨らませられていなかったかもしれません。構想の段階では「自由な人間関係の基盤を”規範”と判断する思考」がサイコパスのベースだろうと捉えました。「関係」に自由はあり得ないという認識が登場人物をサイコパスにする、そういうイメージでした。

       今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

      著者
  • 投稿者 | 2024-01-27 01:30

    難解な作品ですね。ミシェルの方ではちょっとこの語り手を買いかぶっていて(?)、しかも薄々買いかぶりに気づきつつ今さら後戻りできないので自分で無理に語り手を自分の希望という事にしている、そして語り手はそれをいい事にだらだら関係を続ける……けれどそれも語り手の解釈であってミシェルの本当のところは決定不可能。この語り手はただミシェルとセックスしたいだけではないのかと思えるのですが、それもやはり簡単にそう割り切れるものではないようです。誰がサイコパスという事になるのか、ちょっとわかりません。あと無知を晒すようで恥ずかしいのですがPHLとは誰または何なのでしょう。解説を聞いてみたいです。

    ウエルベックはわりと露悪的な文章だった覚えがありますが、本作もやたら「マンコ」が連発されるあたりちょっと似たものを感じました。

    • 投稿者 | 2024-01-28 01:32

      ヨゴロウザ先生
      コメントありがとうございます!

       物語の筋は追っていただけていたので一安心です!ありがとうございます!!
       構造主義的なアプローチを採用したので「希望」というキーワードから別様の関係が浮かび上がってくるロジックを組んではいました。それが脱構築領域の読解だという文構造ですが、その路線に入っていただければミシェルの隠された行為が浮かび上がってくるという仕掛けで書いています。
       HPLはハワード・フィリップス・ラブクラフトのことです。ウェルベックがデビュー作がラブクラフトの批評で、そのなかにアメリカに移民したHPLの様子が……とここまで書いた瞬間に、本文でハワードとフィリップスが逆になっているのに気がづいて死にそうです。これ以上は書けません。

       ……(100年後)

       ウェルベックの文体についてはまだまだ勉強不足ですが、場面転換や焦点調整で性描写を利用するケースが多いのではないかと考えています。今回は人物たちの黙説される動作や状態に呼応する形で導入しています。

       100年経過してもまだ恥ずかしいです。時間が忘れさせるのは嘘らしい。

      今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

      著者
  • 投稿者 | 2024-01-27 07:17

    観念的な表現が多すぎて小説でなく詩を読んでいる気分になりました。正直理解しづらかったです

    • 投稿者 | 2024-01-28 01:40

      眞山大知 先生
      コメントありがとうございます!

       初投稿ということもあり、どういった方向でやっていこうか迷いながらというところもありました。「導入の二行詩→直後の哲学的内言」あたりから、既にもう読者を置いてっていることを反省します。
       自分なりの勉強では、分かりやすさは筋の強度に比例しているので、構造をむき出しにしすぎたなあと、これも反省しております。
       今後も投稿させていただき、先生方からのフィードバックを頂いて、修正できるところは修正したり不足は学びによってカバーしてを繰り返していくなかで、筋書と構造のバランスを掴んでいけたらと思います。

      今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

      著者
  • 投稿者 | 2024-01-27 12:08

    やや機械的な印象の文体が、直接的な言葉や描写が来ても、客観的に見えました。ある種これがサイコなのだろうなと感じました。

    • 投稿者 | 2024-01-28 01:55

      能田麟太郎 先生
      コメントありがとうございます!

       人称を一人称一元にすると主人公の内言が割とダイレクトに感情へ変換されますが、内言に展開される文字列が説明性や哲学性を持っているとサイコパス的な「論理の強度×感情の欠如」が表面的に描ける、と思って書いています。そういった中で、主人公の性的な言葉や動作に文化的コードが書き込まれていないと読み解いていただけたこと自体は、筆者の仕掛けと合致しております。ですので、主人公の思考がもろにサイコパスなのではないかというルート取りは、筆者にとっては一旦成功です。嬉しいです。

      今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

      著者
  • 投稿者 | 2024-01-27 12:09

    現実や内面や現在や過去や、あるいはセックスや目玉焼き、先になり後になり入り乱れていて、楽しく鑑賞しました。「読み解こう」と思わなければさらに楽しめたと思います。
    サンクチュアリ的な七畳のアパートに籠の鳥よろしく男を閉じ込めて、女は夜の商売、おそらく身体を売っているのでしょうか。共依存的ですが、あえてサイコパスと言うのなら女の方でしょうか。
    観念的な男と過度にセクシーな女、その女から離れられない男のセックスと執拗な内面描写は、マルケスよりはアルベルト・モラヴィアを思い起こしました。
    非常に個性的な書き手の方ですね。今後も破滅派で書き続けてくださいね。

    • 投稿者 | 2024-01-28 02:16

      大猫先生
      コメントありがとうございます!

       いやもうありがとうございます。
       そうですよねえ……構造がゴリゴリに前に出すぎたせいで読むのに時間が掛かる結果になったのは自覚していました。小説のエンタメという部分をもうちょっと認知しないと先は無いなあという感覚でいます。
       そうです。サイコパスなのはミシェルです。なぜなら男を外に出さないからです。これだけ読んでいただいた上で「あえて」が出てくるということは、この方向を突き詰めていっても先はないかもしれない、と感じています。想定ではこれが「楽しい」になると思っていたためです。初投稿でここまで読み書きしていただける場所が破滅派だと知ることができ、私は大変ヤル気に満ち溢れております。
       ガルシアマルケスについては地続きの文や場面のなかで時間が急速に進展したり(今回使ってはいませんが戻ったりも)するその時間感覚を取り入れたつもりでした。性描写についてはウェルベックの文体の方から意識しました。「アルベルト・モラヴィア」については勉強不足です。ご紹介いただきましたことをおぼえ、勉強させていただきます。
       自分の文体に唯一無二のものがあることは自覚していますが、それが現状、筋や人物造形の弱さを隠すために使われていることも自覚しています。まだまだ勉強不足です。多読多書を続けて参ります。

      今後ともご指導ご鞭撻いただきますよう、深くお願い申し上げます。

      著者
  • 投稿者 | 2024-01-28 02:34

    毎回裸足でろくに服も来てない様な話を書いてる私からしてみると、凄く憧れる。こういう話。書き方。並び。
    いつか何もかも混ざり合って一つになりそう。でも、トーストは二人分作ってあった。んです。今日はまだ大丈夫なのかもしれません。もうとっくに大丈夫じゃないかもしれないけれど。

    • 投稿者 | 2024-01-28 03:31

      小林TKG先生
      コメントありがとうございます!

       先生の書かれる作品から、たくさん勉強させていただきます。
       テーマや文体、配置についてはかなり凝って作ったのでお褒めいただいてとてもうれしいです。特に配置に関しては小説でしか成立できない瞬間的時空間移転を意識しました。その時間・空間の歪みを各種描写なり文体なりがカバーしていく構造を取りました。
      「トースト二人分」のイメージは割と前からあって、いつか吐き出したいと思っていました。それをキャッチしていただけると書き手として繋がりを感じられて嬉しく思います。私はもうとっくに大丈夫じゃないんです。双極性とか境界性とか持っててまともな社会生活が送れないので……病気ばっかりが混ざり合ってもしょうがないんですけどね(笑)

      今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

      著者
  • 投稿者 | 2024-01-28 12:22

    概念的文章が何を意味するのか哲学の素養のある人なら読み解くことが出来るのだろうとな思いながら、私には少々難しかったので小説的面白さを求めて読みました。日本を匂わせる記述から舞台は日本でミシェルは自分の性的魅力を利用して主人公を囲い続けてるのかしら。

    • 投稿者 | 2024-01-28 18:51

      諏訪靖彦 先生
      コメントありがとうございます!

       私の美学観ですが、純文とエンタメ系のボーダーは、筋に対する「構造の影響力」の強度だと捉えています。例えば朝ドラなどでは登場人物たちはまるでルーラでも使えるんかと疑いたくなるくらい「立ち聞き」しまくるわけです。それは物語の進行や人物Aが知らなければならないことをさっさと教えようといって、ドロンっ!とさせるわけですよね。でも私は「そんなこと許されるの、人として」という疑問を遥か後方に追いやってもなお「それなんで偸聞させなきゃいけないの」と筆者に問いたくなるのです。
       上はあくまで一例ですが、こうした構造観が様々に強く出ている作品となっています。するとやはり筋が見えづらくなってくるわけです。
       他の先生方のコメントでもご指摘いただきましたが、やはり筋の強度が足りないとどうしても読めるところがなくなってしまうので、プロット研究が必須だと思います。筋と構造が高いところで共存できている作品でパッと思いつくのはノーランの『TENET』です。

       今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

      著者
  • 投稿者 | 2024-01-28 14:59

    退廃的で即物的で共に依存し合ってるカップルの一幕なのですが、周りの理解は拒絶してるかのような生き方が文体にあらわれていて、それが意図したものならすごいなぁと感嘆しました。
    サイコパスというお題がもっと話の中から滲んでくるのはそれが崩れたときでもあるのかなと。

    • 投稿者 | 2024-01-28 23:38

      春風亭どれみ 先生
      コメントありがとうございます!

       お答えいたします。
       ミシェルは自分の性的魅力のせいで男に囲われ、同性からの嫉妬にさらされる人生を送ってきました。実際講堂でのグルーピングはある程度、10代の生活や培った価値などが投影されるものだと思いますので、そこのところの表現は上手くいっていたのではないかなと思います。ミシェルが主人公を選んだ理由として「あなたは私以上に大切なものがある」と発言しましたが、この「私」を「ミシェル」と読んでいただいた場合(そうではないルートが個人的には本筋です!)、彼女は自分が大切にされることに対して誠実さを見出せなくなっていると展開できます。裏がある、と思ってしまうわけです。すると自分自身で見つけた、他者との相互確認を経ない価値基準だけが拠り所となります(ここの展開がキモで、飛べる人と飛べない人がいるのは分かっていました)。
       以上の要素から、ミシェルは他者の存在を必要としていないことが分かります。
       しかしここにはパラドクスが内在しているわけです。他人の価値観で自分は美しいとされているのに、それを放棄したら私の美しさは誰が保証するのか。それに対応するため、ミシェルには「私」の範疇を逃れることのない「他者」の必要があって、結果主人公を物理的に囲わざるを得なかった。というのが作品のロジックです。

       ……そういう流れで物語が形成されてはいました。
       
       もしこのロジックそのものをご丁寧に開示していたら、「筋や文体」など全体からのサイコパス感は殆ど確認されなかったと思います。
       構造観で振り返れば、性描写にマインドが影響されなかった読者にとっては、露骨なロジックだけが確認できてしまいます。性描写は筋を成り立たせるロジックから焦点をずらすためでもありました。だからこそ、様々先生方からご指摘いただいた筋に関する部分が課題となってくるものと考えています。筋を見せるとすぐに物語の骨子・論理が浮き彫りになってしまうのが課題です。筋だけを追わせてもミステリやサスペンスが骨子への着眼を回避するように武器を増やしたいところです。

       的確なご指摘をいただけたことを嬉しく思います。
       今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。
       

      著者
  • ゲスト | 2024-01-29 00:42

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    • 投稿者 | 2024-01-29 14:56

      小木田十 先生
      コメントありがとうございます!

       ご指摘いただいた点と筆者の狙いをダブらせてみると、物語の焦点を常にミシェル側に当てようとしていたにも関わらず、読者の内眼が主人公に残ったままだったのが大問題でした。主語の判別については、読者の焦点が合っていれば格助詞の機能に依存しなくても進行できると考えているため、要は焦点化を正常に機能させられなかったことが今後の課題だと思いました。
       場面や言葉遣いに関してどうしても分かりづらくなることは承知しておりました。破滅派というレーベルに投稿するにあたり、どこまで挑戦的な文体を採用すべきか迷いつつ(なんといっても「破滅ッッ!!!」ですし……)創設者高橋先生のプロフィールに「ウェルベック」「マルケス」の文字を見つけて後、両作家の特徴的な部分を模倣してみた結果、読者を置いていってしまうような結果になったことは、全体の反省点です。
       
       情景について。
       小説内で時間と場面とが相互定義されるのは、映画の銃撃とすごく似ていると思っています。感情が人同士や何かとのかかわりの中で出来するものだとしたら、物語の時間軸がしっかりしていないと心情のロジックが破綻するのも分かっています(未来の出来事に影響されて現在で感情は出来するかどうか?)。今作の中で「場面」が読者のなかで固まらなかった理由としては、時間の行き来にまつわるルール明示の不徹底が原因である、と構造主義的には考えました。
       ただ、こうした構造主義史観への執着が筋書の弱さに繋がっていることも自覚しております。学ぶべき別視点を、破滅派投稿を通じて獲得したいと思っております。
       
       今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

      著者
      • ゲスト | 2024-01-29 18:20

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  • 投稿者 | 2024-01-29 16:46

    哲学の素養がない自分には難しかったです。
    トーストのくだりが魅力的なので、ドン・デリーロのボディ・アーティストの冒頭のような朝のワンシチュエーションで描ききったほうが2人の関係が伝わりやすいかなと思いました。ただ、伝わりやすい作品にするべきかどうかは作者の意向次第ですが。

  • 投稿者 | 2024-01-29 17:39

    今野和人 先生
    コメントありがとうございます!

     脱構築云々については、破滅派レーベルの方向性がまだ分かっておらず無邪気に採用してしまいました……個人的に趣味ではあるのでまた使っちゃうかもしれませんが、「そっちじゃないほう」の筋の強度に課題があるかもなので要反省です。
     トーストとかゴミ捨てとか、そういう明らかなアイテムがあると焦点がハッキリして連想が働きやすいですよね。書き込みすぎると現実感出すぎるなあとか考えつつ、結局は導入・結末部の影響を尊重してしまいました。ここらへんに関するトータルのバランスが上手くいったかどうか、多分機能してなかったのかなあ……と捉えています。ただ少なくとも実験的ではない(割と遊ばれ尽くしている構造な)ので、そもそもこのルートじゃない感がかなり強いです。
     ご紹介いただいた作品は未読でした、勉強不足です。コメントを読ませていただいたりあらすじをチェックしましたが、おそらくその冒頭では、シーンや虚構上の時間が一方向で進んでいるのだと思われます。時間や場面が一定なのが安心感につながって、筋読みに集中できるのかもしれないと考えました。移動に際しては都度ことわりを入れるなどが読者目線だろうという理解です。
     
     ご指摘いただいた点に関する最難関ポイントは「関係」です。これについては、実は著者が認知できない領域に属しています。人格障害なのかどうか分からないのですが(個人的には単純な平等性原理が働いているだけなのですが)、「関係を伝える」の前にあると想定される「関係を知覚する」ことが出来ません。そのため、現状「関係が伝わりやすい」かどうかは、少なくとも著者目線では100%運に依存しています。事実一番納得したいのはこの部分です。もしかしたら人物造形は「関係」からの逆算で効果的に建設できるのかもしれないとか、「関係」のグラデーションが適切な場面を逆説するとか、これが分かると色々便利かもとは思います。……何読めばいいですか?

     的確なコメントをいただき大変嬉しく思います。
     今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

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