よく喋る脳。

巣居けけ

小説

3,541文字

さて、砂漠の時間だよ生徒諸君。いいや、ここでは同じラクダの乗組員として扱ったほうが適切かな? それともみんなで砂漠の一粒の砂になるかい? ぼくは十分に濡れた素手で君たちの肩を掴み、君たちの母親のもとへ案内してくれるように頼むつもりだ。もし今から数秒後に左手の神経にひんやりとした冷たさを感じたら、それはぼくの湿ったばかりの舌の先だというこにしておいてくれ!

「こんにちはぁ。この少し行った先で、『美味しいお店』やってまぁすっ」という駅前での宣伝文句に、おれは無表情で突っ込む。すると彼女は当然のようにおれにもチラシを差し出して、決まり文句の、「この先でぇ、『美味しいお店』やってまぁす」を突きつけてくる。

おれはそんな彼女の右手からチラシを受け取ると、すぐに丸めて口に入れる。そして数秒間、唖然としている彼女の顔を見つめながら咀嚼し、もごもごと言わせ、ゴクンと飲み込む。
「確かに旨いな」

おれは何も言えなくなっている銅像のような凛とした彼女に無表情で唾を吐き、山羊らしく、さらに言えば雑巾らしく、その場を去る……。

二丁目の右曲がり角で、同様の店の宣伝をしている女を見つけた。

おれはすでにすっからかんになった口の中に唾液を充填して近づいた。
「なあ、完食したと思って流し捨てた缶詰から、最後のひと欠片が落ちてきて、『アッ、まだあったのね……』ってなる現象に、学会でも通用する名称を付けようと思うんだけど、どうかな……。

すると主婦たちはこう答える。『へへ、センセ、そりゃあ名案ですね。もう少し待てば、百足の大群がこっちに来ますよ……』

そして主婦たちは後方を向き、手招きのような動作を二度ほど繰り返す。すぐに地響きが唸り、予期されていた大量の『百足軍団』が到達してくる……。
『こりゃあいけないっ!』おれは思い立った女子中学生のように飛び立つ……」

カメラのフラッシュで草を枯らせ……。さらに、『満員電車』、だ……。おれは研究室で繰り広げられている男たちの会話の中から新しい開店の情報を見出す……。そして新幹線の容量でカセットテープを挿入する。「排出量を絞ってから紙幣の臭いを確かめる!」

「センセ、それも名案です」どこかの誰かの声が脳裡に響く……。誰でもいいから切開をしなくてはならない……。

キャラクターたちの言い訳と薄い色……。色彩の波……。迫り来る壁……。集合体の中の『核』……。難破船……。溺れて死んでいく女子高生のふわふわとした美しい黒の頭髪……。
「削岩機を用意しろ……」と不気味な彫り物を刻んでいるヨットの男たちが叫んでいる。おれは彼らの後方から朝日を覗き、犬小屋の中のような香りが漂っている無数の肩に唾液を垂らしてからチーズ・フォンデュを始める……。
「まさかアンタが一番の客とはな……」おれは小銭入れを眺めながらつぶやく。

女児の商売をしよう……。そして三日月の色を銀色から黄色に変更し、コンピュータ・ソフトにカルテを入れよう……。「鴉ですか? いいえ。我々はどこにでも居る山羊ですが」
「あなた、山羊についてどう思っていますか?」というサイレンのような問いかけが響く。
「大胆」

前立腺を固めたゼリー状の眼帯。コック帽の少年が並べられている数字……。おれを前に……。さらに校庭の使用権原を賭けている。

おれは向こう側の滝行の男に指摘を促し、竹を数本ほどよこすようにと伝える。

すると職人はこう答える。「ええ? たったそれだけでいいんですか? 気前が良いですな。……我々は港の工場で大量生産に励んでいますが、それでも貴方さまの力量には及びませんよ、ええ。ははっ、旦那、旦那、そんな顔しないでくれよ。そんなふうに足を震わせないでくれよ。おれたちゃあいつでも、あんたのあんたらしい待遇を待っているんだぜ?

ところで豚の死骸についてどう思う?」
「大胆」

電源の位置で問答無用を貫いている八百屋……。

採点の途中でスパゲッティを導入している公務員の男……。『山羊』の顔面と吹き矢で人を殺している農家の人間……。砂漠の塩辛い問題について説いている学者の身代わり職員二級……。

おれは裁かれた男の頭髪をむしる。「それから滑り台を降りる。」なら、お前はどうする? それともコンクリートか? あるいはコピー機の下敷きにでもなるか? おれはハエの羽の音のような口笛を唇だけで演出し、電子機器に致命的なバグを発生させる……。

三日月公園にはいくつかの掟が存在している。その中でも五番目に設定された、『三つの公園パイプから排出された路頭に迷っている山羊を殺してはならない』という文句は多くの山羊愛好家を困らせた。政府の人間たちは街の全ての山羊愛好家の家に警備員を派遣し、家の中を調べさせ、少しでも怪しい山羊に関する物品を発見した場合、壁に両手をついて尻をむき出しにし、冷たいワセリンを穴に入れる拷問のような何かを加えることで粛清をしていた。

二か月の間の資金を数える。すると蟻一匹分の死骸が消えていることにセンサーが気が付く。支配人に問い詰めると、彼は「うへあ」という謎の呪文(おそらく東洋の古い呪文だろう。)を吐いてから後ろに倒れて、それ以降動かなくなってしまう。
「どうする? おれは逃げるけど」と兄弟分の男が話している。おれはそんな彼の言葉を無視して、支配人の眼窩に入り込んで行く百足の大群を見つめる。
「大胆」

さらに加速していく可能性の花瓶と、特急の風上による理解力テスト再建……。おれは学級崩壊に至った連中に鉄槌を下し、飛び散る脳に愛撫をする。「ありがとう! ぼくはメルヘンな脳みそなんだ! さらに言えば学会で、毛細血管でもある。ぼくの脳は赤色だけど、君は違うだろう? だからあの日、母親を突き落としたんだ」
「なるほど、あんたらはどこまで行っても桃色だってことか」
「……そうなんだ! だからぼくらはおしっこなんてしないし、二時間前に食べた佃煮がげっぷとして戻ってきても吐き出したりしないんだ!」
「そうかい」

おれは試験管の中の顕微鏡で脳のシワを観る……。するとそのシワが口となり、おれに最近の事情について話しかけてきてくれる。
「ぼくは西の添い寝からたどり着いて、サヨナラホームランのような爽快感に訴えかけてきたんだ!」
「導入?」
「いいえ!」シワは独りでに敬礼をしてからかるたの読み上げ係のような口調で続けた。「我々はシワであり、全てが通じている翻訳のカルテに音楽を流すんです……。ぼくらはクリエイティブに脳を蠢かして、ついでに妄想の色を弄ぶんです……」

カルボシステインと糖分資料……。おれたちだけの大団円と未来へのスタンガンや重戦車の鉄の香り……。素晴らしき夜空と透過方法。

いつもの『これでいいのか?』。さらにやってくる回路の温かい流動体。

ようやく教授が実験室から出てくる。おれたちは学生になったつもりで彼に駆け寄り、あたかも彼の心情を気にしているふうを装う。
「それで教授。どうでしたか?」
「うむ……。まず、君たちに山羊の優位を教えなくてはならない。彼らは獰猛であると同時に、繊細でもあるんだ。だから与えられる情報は一握りだし、たいていの場合は失敗する。しかし安心してほしい。すでに峠は越えたさ……。さらに彼は前立腺の優位性についても理解したさ」
「まあ! 前立腺ですって!」と一人の女子大生が叫びながら両手で顔面を覆う。しかし巨大な顔面は半分も覆えていない。
「ええと、どこまで話したかな。……そうだ。つまりアレには優位性が認められ、さらに人間社会に溶け込めるだけの力量もあるということなんだ……。新しいビペリデンだな……。誘拐。

さらに詩人としての活躍と筋力増幅……。謎だらけの『喋る脳』か。そしてナンバーは、『おれたちだけの力士道場』か……。

さらに同僚のペンウィー医師は薬局でオランザピンを購入し、一発やってから路地裏の山羊と添い寝をする。『健康的なサーヴィスだ』彼はうっとりとした顔つきでつぶやく。『情熱的だろ?』

さて、砂漠の時間だよ生徒諸君。いいや、ここでは同じラクダの乗組員として扱ったほうが適切かな? それともみんなで砂漠の一粒の砂になるかい? ぼくは十分に濡れた素手で君たちの肩を掴み、君たちの母親のもとへ案内してくれるように頼むつもりだ。もし今から数秒後に左手の神経にひんやりとした冷たさを感じたら、それはぼくの湿ったばかりの舌の先だというこにしておいてくれ! 『喋る脳』だって海に出る時期だ。寒々しい新聞の見出しには飽きただろう? ぼくらの未来にシワが寄っているんだよ……」
「先生! ぼくたちは同じボートには乗車しませんよ?」
「ああまったく! 近頃のガキといえば、ボートは乗り物じゃねぇよっ! それに優位性があるってだけで、こっちと友好関係を築けるかは運勢次第だっ!」

そして教授は手に持っていた資料を床に叩きつけ、山羊らしく舌を伸ばして唾液を垂らした。資料はすぐにぐずぐずになり、すっかり消える頃には生徒たちから新しい資料を提出していた。

蛸のような流れる脳の蠢き。さらに押し寄せる黒い風と熱帯の線とおれの自我や空き缶に擬態した副交感神経……。「君に未来はないよ」教授の笑みがいつまでも大脳に貼り付いている……。

2023年1月10日公開

© 2023 巣居けけ

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