ある意味異世界転生

応募作品

秋山優一

小説

3,196文字

四十五歳無職がある意味異世界転生する小説。男はなぜ異世界にいけたのか

「ある意味異世界転生」

俺は歩きスマホをしながら、異世界転生系のゲームをやっていた。辺りはすっかり夜になっていて、街灯以外の明かりはない。ただ俺の顔にスマホのバックライトが照らされつつ、田舎の田圃道ということもあって、ゲームの音だけが唯一俺を現実世界から引き離してくれる。
俺は四十五歳の無職の男だ。二十代前半の頃はそれなりに工場の社員になって、それなりの生活をしながら、それなりに彼女もいた。
しかし、現実は俺を深い奈落の底に突き落としていくことになる。俺の上司はお前は何年やっても、物覚えが悪くて正直使い物にならないと、蔑まれたり、その仕事の遅さから同僚からも馬鹿にされていた。同僚からはお前は会社に来ないほうがいいと言われ、さらに追い打ちを掛けるように、彼女からいきなり別れを告げられてしまい、俺は彼女に別れる理由を聞いたが、詳しくは教えてはくれなかった。
俺は次第に会社に行く気力もなくなり、無断欠勤をしつづけていたら、会社の方から勝手にクビにしてくれた。俺はありがたく自然な形で退職することができた。
それから俺は実家で毎日やることもなく、適当にインターネットサーフィンをする生活を送っていた。すると彼女のツイッターが出てきて、俺は暇潰しに彼女のツイッターを閲覧していたら、彼女は違う男と結婚していて、既に子供が一人いるらしく、しかもその結婚した男といううのが何処かの中小企業に勤めている人らしい。
俺はなにもかも嫌になってスマホを地面に投げつけたこともあった。その時からだった。現実よりゲームの世界にのめりこんでいったのは。俺にはゲームという現実がある。社会的な現実なんて俺の求めている現実ではない。
それから二十年近く無職をしつづけ、四十五歳という年になってしまったが、今もこうしてスマホという機械が俺を異世界に連れていってくれるので、俺という存在はゲームの中では、はっきりとして生きている実感がする。
俺は器用にスマホの画面を指でスクロールして、キャラクターを動かしながら、最強の武器を使っては、様々な敵を倒していく。
「あーやっぱり俺強いなあ」
その時一瞬だけスマホの画面に俺の顔が反射して写った。写しだされた顔は、髭だらけで皺が酷くめだち、まさにオッサンとい顔立ちだった。
「自分の面なんか見たくねえよ」
俺は嫌になって、持っていたスマホを道路にぶんなげた。咄嗟の自分の行動に自分でも驚ろくと、慌てて道路に飛び出した。
「はーよかった」
スマホには罅が入っていなかったのが幸いで、それがなによりも安心した。俺の命よりも大事なゲームのデーターがこの中には詰まっているのだ。
「ん、なんか眩しいな」
前方から大きなライトの光が、俺の方に向かってくる。そして大きなクラックションを鳴らしながら、俺に迫ってきている。よく目を凝らして見てみると、それは大型トラックであった。
俺は急な出来事に対応しきれず、避ける余裕もなく、トラックのライトの光が俺を包むようにして、トラックとぶつかった。俺の意識は一瞬にして、消えさってしまった。

 

俺は目を覚ます。病院に搬送されたのかとおもって辺りを見渡した。すると、そこは病室ではなく草原が一面に広がっていた。しかもその草原というのは、普段自分が異世界系のゲームをやっている、レベル上げをしている場所でもあった。
一瞬俺は自分の目を疑ってしまった。それも異世界転生できたことに驚いていたのだ。
「やったー。現実世界から抜けだして、本当に異世界にやってきたぞ。神様て本当にいるんだな」
喜んでいると、急に誰かに肩を叩かれた。
「ん、誰だ」
振り返ると、そこには少年と少女が立っている。俺はその少年少女に見覚えがあった。
「お前はルナテイに、それにレイナ。すごいな、まさかお前らとこうして出会えるとは」
ルナテイは大険使いで、その大険で強敵のボスやら、雑魚キャラを粉砕してくれる頼もしいやつだ。一方レイナは魔法使って俺とルナテイを回復させてくれる、いなくてはならない存在であって、この二人が何時も俺のパーティーには入っている。
するとルナテイが突然笑って、
「お前らとこうして出会える。おかしなこと言うなよ。いつも一緒に冒険してんだろ。なあレイナ」
「うん。そうだよ。二人が怪我する度にレイナが魔法を使って回復させているんだから、少しは感謝してほしいな」
レイナの回復魔法には俺は何度も助けられている。ボス戦の時に、回復系のアイテムを何時も切らしてしまい、そこでレイナの回復魔法に頼るしかない状況が続いたことがあった。俺はレイナがいなかったら、ボス戦など早死にしていたに違いない。
俺はレイナに感謝の気持ちを伝えることにした。
「俺を何度も助けてくれてありがとう。レイナがいなかったらここまでこれなかったよ。本当に感謝してる」
レイナは頬を赤くしながら照れているのか、視線を下に向けて、か細い声で、
「恥ずかしいな。もう」と頭を掻いている。
俺とレイナの遣り取りを見かねたのか、ルナテイも自分の胸を平手で叩いて、拗ねた様子を見せた。
「おい、レイナだけじゃなく、俺にも感謝の気持ちはねえーのかよ」
拗ねているルナテイの表情を見た俺は、レイナと同じく感謝の気持ちを伝えることにした。
「ルナテイにも感謝しているよ。ルナテイが俺のパーテイにいなかったら、俺はこのゲームを攻略できなかったし、それにお前の攻撃力は桁違いに強いからな。ありがたくおもっているよ」
「そ、そっか。それはどうも」
俺は二人を誉めていると、不思議な気持ちになった。ゲームのキャラクターに感謝するというのは、今までにない体験であって、まるで現実世界にいるよなそんな気分にさせられる。
しかし、ここが俺の本当の現実であって、現実の社会は俺にとって非現実的な残酷性しかない。四十五歳無職という俺みたいな種は、残酷な社会的固定概念により、一般的な世間体の見た目からしても、とても醜くそれに生きにくい姿に映し出されているから、俺の逃げ道は異世界しかないのだ。
現実社会から落ちぶれた物に救いなどない。だから俺はゲームという異世界に救いを求めるようになった。異世界こそが俺の現実社会なのだ。
すると、突然レイナが泣き出した。顔を手で覆いながら、か細い声でなにかを呟いている。
「どうしたレイナ。なにかあったのか」
俺はなんのことだか分からず、泣いているレイナの肩を揺すった。しかしレイナは手で顔お覆っていて表情が読みとれない、心配しているとレイナは泣きながら、
「……太郎。……太郎……起きて太郎」と呟いている。
太郎。聞き覚えのある名前だ。俺は太郎という名前を聞いて思い出すのに時間がかかった。
太郎とは俺の名前だ。太郎という名前を聞いて、急に額から汗が流れだし、胸の鼓動が早く脈を打つ音が自分の中で聞こえてくるのを感じた。
「太郎。なんで俺の名前を知っているんだレイナ」
俺は急に頭が痛くなってくると、気持ち悪い感覚に襲われていく。
レイナは覆った顔を手を降ろした。すると可愛いらしい少女の顔ではなく、六十代くらいの皺が多い老婆の顔になっていた。そして俺はその顔に見覚えがあった。なぜならそれは俺の母親と瓜二つの顔をしていたからだ。
「お、お母さん。お母さんなんでここに」
俺の言葉など聞いていないのか、母の顔をしたレイナが、泣きながら俺の体を揺すってくる。
「太郎。目を覚ましておくれ。もう無理に働らけといわないから。太郎私が悪かったよ。お願いだから目をあけておくれ」
母の顔をしたレイナに何度も体を揺すられていると、意識が遠退いていった。
俺は目を覚ました。すると隣には母親と父親が泣きながら俺のことを見ていた。
「太郎。太郎の意識が戻ったよ」
父と母はどうやら俺が意識が戻ったことに対して大喜びしているらしく、俺は酸素マスクから出る酸素をすいながら残念におもった。
(異世界転生失敗か)

2022年8月7日公開

© 2022 秋山優一

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