洞窟の在り方。

巣居けけ

小説

1,505文字

吐くのをやめるな。刺すのをやめるな。折るのをやめるな。進むのをやめるな。蹴とばすのをやめるな。否定するのをやめるな。睨むのをやめるな。嫌うのをやめるな。叫ぶのをやめるな。眠るのをやめるな。狙うのをやめるな。やめるのをやめるな。図るのをやめるな。落すのをやめるな。妬むのをやめるな。遊ぶのをやめるな。舐めるのをやめるな。濡らすのをやめるな。聴くのをやめるな。選ぶのをやめるな。飲むのをやめるな。

私は体操選手の右腕に成り代わることができなかった。

私はコカインのような浮遊の脳を作り出すことができなかった。

南と東を接合させている理事長に、工場のオイルを飲み干してしまったライオンの頭の男が、優秀な数学能力を得ている少女に風船を手渡している。赤い風船。鮮血の風船は少女の身体を浮かせ、大気圏の冷たさと烈風を少女に明け渡した。

私はひびのあるカレーライスを弟の醤油瓶に入れることができなかった。

私は休憩所の爆破に踏み切ることができていなかった。

私は女性の原稿用紙で四肢を洗うことができなかった。

唐辛子を染み込ませた硬い米を飲み込んでいるサーカス団長に、落雷という和菓子と機械の情報を数列に変換して川や血管に流している少年の、むき出しになっている膝や腰。人体の味を覚えてしまったサーカス団長は、少年の膝から流れる鮮血で、自分の口の赤色を描きたいと考える。

私は方角の水滴を、硝子の棒で突くことしかできなかった。

小学生の教室で、火炎の輪っかに女児や数学の女教師を投げ込んでいるサーカス団長の、新妻のえくぼをモチーフにしているブラウス。白色が飛び散った給湯室に、緩くなっている戦闘帽。波を鐘で打ち付けている秋刀魚捌きの職人が、凍った手ぬぐいで夜道のキャリア・ウーマンを殴って犯して食べている。

私は兄の肉切り包丁で尻を四つに分裂させる依頼に答えることができなかった。親族の肉に笑みやえくぼの中の湖を落すことができなかった。

彼らが私を見下ろしている。彼らが私の出来事を嘲笑している。階段の靴下の香りを纏った体操服の彼らが、白い光の無い目線で私を見て、名簿の中の文字列を読み上げている。

私は課題の期限を守ることができなかった。

私は最後の徒競走で五位になることができなかった。

私は熱気のある会場で蟻に成りきることができなかった。

人体が破裂した音が響いた。

 

老若男女の隙間を嗅いで、取り外しのできないガスコンロの進む斜面を必死に描く。態度を紙幣の数で変動させているシャトルランの支配人が、オークションでのサイと象の騒ぎで登場を果たす。彼は上段の木目を黒い革靴で叩きながら、白い円形照明の恩恵をタキシードに受けている。

彼が、オペラ歌手のような震えている声で一騎当千を叫ぶ。腰のカットラスをサイに見せつけると、ひと際強い足腰の動きと同時に飛び上がり、サイの脳を頭蓋骨ごと貫く。銀色の刃にサイの脳がねっとりとこびり付き、タキシードの彼はそれを楽しく舐めとって、げっぷまでもを済ませる始末。複数の係員による取り押さえが、彼のカットラスの長身を不格好な二つにさせて、彼自身の鼓膜が破れるほどの怒号が、会場に轟いた。

あらゆる医学と新鮮ではない五つの人工的なかずのこを使用した映像送信技術に、まさに毛糸のような埃臭さで連結されている科学的な木材の事象が、白衣を嫌う彼や、彼を取り巻く環境の発端となった主婦たちの使用済み絆創膏にこびり付いている極めて硬く焦げている知力によって、街を闊歩したり、ひょろりとした父親からお小遣いを下贈されたり、ファッションショーに飛び入り参加をしたりする野蛮で舌が伸びない山羊が路地裏へと導かれていく。全ての眼鏡を錆びたとんかちで同時に叩き割った彼は、自身が風船の味を判別することができる唯一の二足歩行の山羊であり続けるために、世界の塔の天辺に赤色のヘリポートを描く。彼は最後に見定めた海藻の雌の怪人と共に、電波塔から発せられる波の色にひと手間を加える。電波観測ゴーグルを介して観察することができる電波の色を、一か月ごとに生まれる山羊の平均的な体毛の色に依存して変動するように、再度のプログラムを打ち込んだ。

2022年4月10日公開

© 2022 巣居けけ

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