義母の死

消雲堂

小説

2,732文字

「義母の死」

母 風子 かねてより病気療養中のところ
去る4月11日に入院先の病院にて永眠いたしました
生前の折から皆様には大変な心配りをいただき申し訳なく思っております

風子お母さんが亡くなった.午前11時頃だった.前日に生子を残して自分だけ鎌ヶ谷に帰った.酸素マスクをつけた風子母さんは息苦しそうだったが『うるさい!!早く帰れ』みたいな強がりを言っているぐらいなので、まだ亡くなりそうになかったからだ.それに全員が共倒れになっては大変だ.正直言って疲れた.生子にはかわいそうだが仕方がない

その日、2002年4月10日の午前2時、義妹の夕子から電話があった

風子お母さんが危篤だと言うので、タクシーを呼んで西葛西に向かった
タクシーがなかなか来ない.この間まで満開だった隣家の古い桜の木を仰ぎ見た.
会社に行ける様にスーツを来ている.少し寒い やっとタクシーが来た.

タクシーの運転手は、若い男だった.23歳だと言う タクシーの運転手にしては若いのではないだろうか.なんだか子供のようだ 最近は、リストラ族の再就職先というのが当たり前で年寄りばかりだと思っていたからだろうか.
タクシーに乗りこんでも彼はすぐに走り出さない「西葛西までのルートはどうしましょうか」と彼は言う.通常だったら市川の方とかぐるぐる回ってごまかして料金を重ねて稼ぐだろうが、彼は正直者の様だ. 結局、中山競馬場の前を通る木下街道ルートで西葛西へ走った 木下街道を14号にぶつかると右に曲がって浦安方面に向かう 義父がよく使っていた浦安から葛西へのルートだ 真夜中なので渋滞もない 町の灯りが夢の様に通りすぎていく

タクシーの運転手は『介護タクシーがあるタクシー会社』という看板につられてこのタクシー会社の運転手になったと言う 彼は介護士の資格を取りたいらしい 優しくて商売っ気のない妙な男だ

途中、生子がコンビ二のトイレに行ってもメーターを止めるほど優しい男だった また彼に会って話を聞いてみたいななんて思ってしまった

西葛西の駅前でタクシーを降り、病院へ行く 夜中なので病院の正面玄関からは入れない 裏手の救急入り口から開けてもらって入る.病室に行くと風子お母さんは大部屋から個室に移っていた 苦しそうだったが元気そうだ

前日に見舞った時にはなにもなさそうだったのに…そういえば

前日の9日 帰宅時に嫌な予感がした 生子も風子お母さんの病院へ行くと言うので、
その前に気まぐれで病院へ行った 病室に入ると風子お母さんが吸入器をつけて大きな口をあけて寝ている 起こさずにテーブルに若山牧水の『みなかみ紀行』を置いて病室を出た 看護婦に「本を置いたのでよろしく」と声をかけた ここの看護婦達は冷たい態度の人が多い オヤジが入院した実家の近くの田園都市厚生病院の看護婦達も同じだった 外へ出て生子に電話した 「先に帰るぞ」と言っても帰らないつもりだった 生子と一緒に帰るつもりだった

本屋とTSUTAYAに寄ってからまた病院へ戻って風子お母さんの病室隣の談話室で生子を待った しばらくして病室に行ってみると生子がいた 風子お母さんが手を振って「帰れ」と言うので二人で病院を出た ツTAUTAYAで動物の映画キャッツ&ドッグスのDVDを買って気まぐれで近くのリやるホストに入って食事をした後、西葛西駅から東西線に乗った

電車は西葛西駅を出て隣の葛西駅で停止したまま動かない アナウンスがあってどこかの駅で「飛び込み自殺」があったようだ しばらく後停車したまま 処理時間がかかるので降車してほしいというアナウンスがあった 幸い 上り電車が来たのでふたりで飛び乗って日本橋から銀座線 三越前から総武線快速に乗った 船橋に着いて東武野田線に乗ると こちらでも飛び込み自殺があったようだが、幸い電車に遅れはないようで安心した

生子が言うには今日は総武線でも飛び込み自殺があったようだ つまり生子は一日で3件の飛び込み自殺電車に遭遇した訳だ 無駄にする命なら風子お母さんにあげればいいのに… とにかく変な日だった 葛西に戻れという神の啓示にも思える それなのに鎌ヶ谷に戻ったら夜中の2時に西葛西駅に向かう事になるとは運命と言うのは不思議なものだ

朝まで風子お母さんの病室にいた ところがオレは寝てしまう

朝になった この日の午後は新浦安に営業の用事があった 会社に電話して午前中は休みにしてもらって 会社の同僚Sと新浦安駅で待ち合わせて営業先に向かった 営業終了後「至急、西葛西に戻ってほしい」と生子から電話が入ったので 駅前からタクシーに乗って西葛西に向かう 風子お母さんが最後にオレと話したいと言っているらしい 病院に着くと「馬鹿な夕子を頼む あれをひとりにしないでくれ」と懇願している と言っても風子お母さんはなかなか死なない ドラマの様にはいかないものだ その後も看護しているつもりだったが風子お母さんが「うるさい!」と言う 「明日は仕事があるから帰るよ」と言うと風子お母さんはうるさいように手を振って「早く帰れ」というようなそぶりを見せる 元気そうなので「ア、これは死なないな」と思って 生子を一人残して鎌ヶ谷に帰った

翌朝、疲れたので、午前中休みにしたいと会社に電話して出社時間を遅くしたら、生子から電話があった ついに「風子お母さんが亡くなった」と言う

急いで西葛西に向かう 病院に到着すると生子が談話室で泣いている 「お母さんは?」と言うと5階の病室で「処理をしている」と言う 看護婦に断って病室に入ろうとすると「中にお母さんがいる」と言うので「親、亡くなっていないのか?」なんてのんびりした気持ちで病室に入ってみると 風子お母さんの義母がベッドの横に座っていた ベッドには青い顔をして冷たくなった風子お母さんが横になっていた 義母は「この娘は馬鹿よ馬鹿よ」と言って泣いている 「生子を頼むね」と言う 談話室に戻って生子達に言うと生子が怒って立ち上がる それを妹の夕子が止める 3人で5階の病室に上がると 義父が困った様な顔をして うろうろと動き回っていた 風子お母さんの義母が帰るところだった

オレは生子、夕子、義父の3人を病院に残して会社に向かった 「明日忌引き休み」をもらうために仕事の残りを片付けるためだ

会社からの帰り、生子に電話すると西葛西のマンションに風子お母さんの遺体が移動したと言うのでマンションに向かう 夕方、九州から義父の妹夫婦がやってきた 夕子とふたりで羽田まで迎えにいくとすれ違いで会えなかった 西葛西に戻ると義父にこっぴどく怒られた

2013年9月28日公開

© 2013 消雲堂

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