「分身」

夢奇譚(第4話)

消雲堂

小説

931文字

朝、洗濯機が動いて「ウン~ウ~ンウン・・・」と機械的な唸り声をあげている。

僕は、鏡を見ながら歯を磨いている。

鏡の中で歯を磨く自分の姿がブレて二重に見える。子供の頃から乱視なので「いつものことだ」と気にしないで歯を磨き続けていると、二重に見えていた僕の後方のブレた姿がやけにはっきりと見えてくる。

まるで僕の背中にぴったりと密着するように誰かが立っているように見える。

歯ブラシを咥えて口の端っこに固定させて、目をこすって鏡の中の自分の姿を凝視すると、後方のブレが鏡に映る僕の姿を中心にひとりでに左右にユラユラと揺れている。

ゾッとして背筋が凍る。こんなときにはゆっくりと振り向かない方がいい。ゆっくりと振り向いて”口まで避けた不気味な顔”を間近に見るのは嫌だから・・・。だって、ホラー映画って、みなそのパターンじゃないか?

いきなり振り向くのだと自分に言い聞かせながら「誰だ!」と大声で叫びながら振り向いてみる。

しかし・・・何事もない。

ほっとして「気のせいだ」と自分の臆病さにニヤつきながら歯磨きを続ける。

鏡というのは不気味だ。自分の姿は本当の姿なんだろうか? 他人にも同じように見えているんだろうか? と考えることがある。もしかしたら他人には僕の姿は河童に見えるかもしれないし。

シュッシュッっと充分に歯磨きをしてから、口を濯ごうとした際に、鏡には僕の後ろに人らしきモノが立っているのがチラリと見えた。そいつは真っ青な顔でやけに大きな白目だった気がした。

「やっぱり後ろに誰かが立っているのだ・・・」

あまりの恐ろしさに鏡を見る勇気も、また振り向いて叫ぶ勇気もない。とにかくこの場を離れなくてはならないという気が先立って、その恐怖感から発作的に口を濯ぐためのコップに歯ブラシを放り込んで、蛇口を捻って水を噴出させる。いざというときに口中に水を含んで歯磨き汁をそいつにぶっかけてやればいい。

両手で水を受けて口に運ぶために勢いよく前かがみになった瞬間・・・鈍い痛みが僕の左目に走る。

さっきコップに放り込んだ歯ブラシが僕の左目に突き刺さったのだ。

真紅に染まる視界。

「ひひ」あいつが笑った。

ドタドタドタと大きな足音をたててあいつが走り去る音がした

2012年11月6日公開

作品集『夢奇譚』第4話 (全5話)

© 2012 消雲堂

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