牧夫が歪んだ口元に、硬い微笑みを浮かべ立っている。
「五千円」
「ああ」
佐々木晴男は差し出された紙幣を受け取った。自分が債権者であることは常に頭の片隅にあったが、いつ返済されるかわからない金の事で、無駄に悩んではいなかった。
「遅くなった」
牧夫は言いながら、スニーカーを脱いで部屋に上がろうとしている。佐々木晴男は身を逸らして牧夫を迎え入れた。一枚しかない座布団を引き寄せて、牧夫は座る。佐々木晴男も机を背に、牧夫と斜め向かいに座った。
「今日休み?」
「晴男君、世の中日曜日ですよ」
そうか。
佐々木晴男は納得して、僅かな雑誌の並んだカラーボックスの上に置いてある、何かの景品でもらった丸い置時計を見る。日曜の午前九時半に、高校のクラスメートの家にやってくる牧夫は、不満そうな目付きをしていた。
「なにしてた?」
「別に。なんとなく」
「相変わらず金勘定か。病的ですね」
「仕事忙しいの?」
「さぁね」
大学を去年卒業した牧夫の勤め先は携帯電話会社だったと思うが、仕事の内容は知らない。ただ休みが週に一日しかない事への愚痴は、何度か聞いていた。
「ていうかお前さ」
牧夫は膝歩きでカラーボックスに進み、雑誌を一冊抜き取りながら言う。「写真クラブ」というその素人盗撮写真雑誌は、他ならぬ牧夫が置いていった物だった。
「何回も言うけど、ケータイくらい持てば? 今時部屋のドア叩くって、マジ昭和かよ」
顔なしの女の乳房や、階段下から狙った下着などが撮られた写真のページが、牧夫の膝の上でめくられていく。
「必要になったら」
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