その時の気持ちが音楽になる

ケミカル本多

小説

3,154文字

春日部にあるオリンピックの通りを右に曲がった住宅街の中に私ん家があります。近所には野良猫13匹飼っている名物オジサンとか、うちの中学のOBで去年甲子園にいったらしい先輩の家が近くにあったりします。でもその野球のうまい人の話はお母さんに聞いた話だから詳しくは知らないです。まあどこにでもあるなんの変哲もない街です。こんな閑静な住宅街で最近、夜になるとなんかうるさい音が鳴ってるんです。クラブで流れてそうな重低音のダンスミュージックみたいな音がドカドカいってて、お母さんにいったら全然聞こえないっていってたんですけど。まあお母さんは夜韓国ドラマに齧り付くように見てるから耳に入ってこないのかなあ。とにかく私が音楽聞いててもドッカドッカうるさいもんだから、最近は家でもヘッドホンして音楽聞いてました。

私は家から15分ほどの中学校に通っています。近々合唱コンクールが開催されるのでその練習のために早めに学校にいきます。私のクラスは1年前のコンクールではビリっけつでした。原因はというと単純な練習不足。男子は部活が忙しいみたいで「かったりー」とか言って、女子は女子で「ちゃんとやんなよ!」とかヒステリーに怒鳴ったり、泣き出したりで全然まとまりがありませんでした。だから今年は練習を始める前に1時間かけてみんな納得のいくまで話し合いしてからやろうってことになりました。美術部の唯ちゃんが泣き出したり、男子がそれをからかったりで、すごい話し合いだったけど、最終的には「大穴の4組が優勝したらおもしろそう」ということで、男子も「今年は頑張る」と約束してくれたらしいです。

らしい、というのは、実は私は話し合いに参加していなかったので、事の詳細は友達のアユちゃんから聞きました。私は一年前からピアノの伴奏も担当していたので参加したかったのですが、申し訳ないことに、最近音楽の時間になると頭が痛くなって保健室で休むことが多いのです。決して音楽の授業が嫌いで休んでいるわけじゃないのです、むしろ音楽は好きです。その頭痛はガンガン中から太鼓を叩くみたいに響いて、なんか自分の好きじゃない音楽を無理やり聞かされているような感じでした。その頭痛の音が、あの夜に聞こえるドカドカうるさいダンスミュージックに似ているって気づいたのは、土曜日に前田先輩と映画館へデートへいったときのことです。

金曜日の放課後、前から気になっていた前田先輩にデートに誘いました。OKもらって「映画なんてどうですか」なんてもう全部決めていたセリフも自然に言うことができました。でも誘うときもあの頭痛がひどくて、でもまあ緊張であんまり感じなかったかも。もう夜はその頭痛と、近所のドラムビートの騒音でなかなか寝付くことができなくて寝不足でした。大宮の映画館でコメディラブストーリーを見ることになりました、なりましたっていうか全部私がきめていたんですけど。例の頭痛も少し収まってきて少し安心して、二人でポップコーンなんか買って座席で分けあったりなんかしたり。映画の内容はほとんどおぼえていないんですけど、アメリカの鯖釣りのリチャードギアが、偶然包丁研ぎ職人のクリスティーナアギレナと出会って、エクササイズクラブを設立するよくわからない内容でした。クライマックス間近、ムーディーなBGMが流れ初めて妙な雰囲気になったものだから、私は映画館の沈黙に耐えられずポップコーンに手を伸ばしたら、ちょうど前田先輩もポップコーンに手にとっている最中で、安い少女漫画みたいに手と手がふれあって、私はびっくりして「ぎゃあ」と言いそうになるのを我慢していると、あの例の頭痛が突然再発して、私は反射的に身をかがめました。前田先輩に変な心配をかけてしまう前に前を向かなければと思い、痛みを我慢して顔を上げると、例のドカドカうるさいドラムビートが映画館中に響きわたっていて、私はさらに頭が混乱したんです。ラストシーンのピアノソングはドラム音によってたちまちディスコ調の曲へと変わっていって、私は自分のせいで音が鳴っている、となぜか錯覚して、映画館を走って抜け出しました。しかしそれは勘違いではないことに、夜自分の部屋で、今日の失敗を慰めるためにipodのゆずを再生した時、気づきました。例のドカドカうるさいドラムミュージックが、ゆずのさやならバスとセッションを始めました。その音は近所の騒音なんかでもなんでもなく、間違いなく私の心臓から響きわたっていたのでした。

私はそれからみんなに迷惑を掛けたくないという一心で合唱の練習は休むようにしました。練習中にドラムビートが鳴り出しても困るだろうし、私自身もみんなにこの病気を知られるのが恥ずかしかったからです。「男子になにか言われたの?」とか「伴奏でなにか問題があったらいってね」とかみんな心配してくれましたが、頭痛っていっても仮病だと思われるだろうし、なんと説明すればいいかわからなくて、毎日憂鬱な日々でした。一番仲が良かったアユちゃんには「音楽が憎くなってしまった」と中二病的な感じで説明しました。彼女はそれ以来気を使って、合唱コンクールのことについては触れないようにしてくれました。でも一番憂鬱だったのは、大好きな音楽ができなくなったことで、憂鬱の原因が音楽にあると思うと、本当に音楽が憎らしく思うようになってしまいました。

練習の成果もあって私のクラスは合唱コンクールに優勝。でも嬉しさより、寂しさのほうが強かったのが、正直な気持ちでした。私はいてもいなくてもいい存在だったのだろうか、とか陰気なこと考えて、さらに嫌な気分になっていって、そんな現状を打破するために、私は心臓の手術を決心しました。このドカドカうるさいダンスミュージックさえなければという思い一心で。でも中央病院の内科のおっさんは「近所の騒音と間違えたんじゃないかな」なんて軽いジョークぶちかまして、結局、私の勘違いということで頭痛薬だされただけ。腑に落ちないけど、頭痛もあのドラムの音も鳴ることは少なくなっていったのでまあよかったのかなあ、と自分で自分を説得して、私はそのことをアユちゃんに打ち明けることにしました。

「そのダンスミュージックってマイちゃん以外に聞いたことある人いるの?」って疑心暗鬼な感じで聞いてきたので、私は映画館にいた人はみんな聞いてたことを伝えました。

「でも確認したわけじゃないよね。それってもしかしてマイちゃんの中だけに流れている音楽なんじゃないのかな。例えばそれ以外にどうゆう時にドラムミュージックが流れた?」

「寝るときと音楽の時間と前田先輩をデートに誘う時と、その夜と、映画館で手と手が触れあった時と、その夜音楽を聞いたときかな」

「そういえば寝る前は音楽聞いてたよね、もしかしたら胸がドキドキするシチュエーションのときに、その音がでているんじゃないの」

そういってアユちゃんは音楽室にあったドラムセットに座り演奏を始めた。私の胸が高鳴り、アユちゃんのドラム演奏と私のドラムビートがセッションを始めた。音楽を聞くのは久しぶりだ。アユちゃんはドラムセットから立ち上がり「どうだった?」と言った。「また鳴ってたよ」と私は胸の当たりを抑えながら言った。

「私には聞こえなかったから、マイちゃんの中だけで流れているんだね、その音楽は」

「みんなには聞こえていなかったんだ、でもどうしてこんな音が鳴ってるんだろう」

「よくわからないけど、その時の気持ちが音楽になるんじゃないのかな」

「その時の気持ちが音楽になる。」

私はその言葉を聞いて、なんというか、自分が今まで何に悩み、苦しんでいたのか、たちまち忘れてしまったことに気がついた。

2012年7月2日公開

© 2012 ケミカル本多

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