溶ける少年の日常

ケミカル本多

小説

1,137文字

ひろし君が僕のクラスに転校してきたのは5月頃でした。クラスは転校生のひろし君の話題でもちきりになりました。趣味、好きな漫画、特技、前に住んでいた場所など、さまざまな質問がひろし君に向けられました。

僕はそのとき理解できないことがあったのですが、特技を聞かれたときひろし君はこんなことをいっていました。

”体が溶けやすい”
どうやらみんなには冗談に聞こえたらしく笑っていましたが、僕はどうしてもそのことが気になり、20分休みに本当に溶ける事ができるのか聞いてみました。するとなぜそんなことを聞くのだろう?という感じで「うん」と頷きました。僕はその様子を見て、なぜだかわからないけどひろし君は本当に溶けることができるのだと信じ込みました。それと同時に僕はひろし君に対して強いあこがれを抱いたのです。

なぜなら僕は昔から嫌な事や悲しい事があると、あたまのてっぺんと足のうらが一瞬にしてあわさるように溶けてなくなりたい気分になることがあったからです。僕はひろし君にどうやって溶けるのか聞くと「子供の頃から溶けやすい体質だったからわからない」といいました。ただ、溶けてる間は意味もわからずとても悲しい気持ちになるそうです。そのことを聞いて少し怖くなりました。それから3日ほどしてひろし君は学校を休むようになりました。

 

 

 

 

 

 

ぼくは連絡帳をひろし君の家に届ける係りを引き受けました。家に行くとひろし君のお母さんが玄関口にでてきて、3日前からひろし溶け始めちゃってね、と笑っていました。その日はひろし君にあいさつをして、夕ご飯をご馳走してもらって帰りました。ひろし君は屋台の金魚すくいの大きな容器のようなものに入れられて、その隣には、いつ元に戻ってもいいように着替えが用意されていていました。夕ご飯もひろし君の分が作られていて、ひろし君は悲しいといっていたけどぼくはそんなことないのではないだろうか、と思いました。

それから3日してひろし君は元通りの体に戻り、学校に来るようになりました。ひろし君は笑顔でみんなにあいさつをして悲しそうにはみえませんでした。溶けると悲しいっていってたけどそうは見えない、とひろし君にいうと「説明が難しかったのでいわなかったけど、溶けるときは悲しいのとうれしいのが混ざった気持ちになる」、といいました。ぼくはその意味が理解できずに考えていると、ひろし君はかばんの中からipodを取り出して聞いたことのない音楽を僕に聞かせました。

その音楽を聞いてひろし君がどんな気持ちが少しだけわかったような気がしました。僕は、音楽というものは説明することのできない感情を理解しあうために存在しているのだな、と感じました。

2012年5月24日公開

© 2012 ケミカル本多

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