進学のため島を出て一人暮らしをはじめたとき、内心ほっとしたのを憶えている。認めたくはなかったけれど、一番の理由は毎日兄の顔を見なくて済むことだった。
兄が嫌いなわけではない。ずっと兄の収入に頼って生活してきたし、高校三年生になってからの一年間はアルバイトを辞めて受験勉強に専念するのを許してくれたわけだから、むしろ感謝しているくらいだ。ただ、僕と兄には似ている部分がほとんどなかった。十歳年が離れているためか共通の話題に乏しく、話が続かない。兄は昔から言葉数の少ないほうだったから会話がなくても気にならない様子だったが、僕は黙って兄と顔を突きあわせていると居心地が悪かった。その上、父親が違うせいで外見すら似ていない。鼻の形が同じだとか、家で電話に出たときに声を間違えられるとかいうことがあれば少しは兄弟らしさを実感できるのだろうけれど、あいにく僕たちは誰の目にも赤の他人同士にしか映らないようだった。二人を結びつけているものはかつて同じ母親を共有していたという偶然のみであり、経済的な事情から同じアパートで顔を突きあわせて暮らしているだけ――心のどこかで、そう割り切って考えるようになっていたことは否定できない。
だから実家にいる兄から結婚するという連絡があったときにも祝福する気持ちは湧いてこなかった。恋人やセックスについて兄弟で話す機会が皆無だったので、兄の恋愛事情に関心を持ったことがない。義姉となる女性とも会ったことはなかった。
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