【NovenightJamanight】フラウンダー・ウィズ・デイス

波野發作

小説

3,211文字

裏でもなく、ましてや表でもない、述べない邪魔しないヤツ。

「理事長。大変です」

「どうしました? この企画が大変なのは今にはじまったことではないですが」

「その、なんと言えばいいかわからないですが、有り体に言えば殺人事件です」

「ご冗談を」

「本当です」

「大変じゃないですか」

「だから、大変だと言ってるではないですか」

「誰かのいたずらではないんですか? やりそうな人いるでしょ」

「ああ、わたしも最初はそうかなと思ったんですが」

「ですが?」

「殺されたのが、その人なので」

「死んだふりですか?」

「いえ、本当に息の根が止まっています」

「生きてても死んでても面倒な人だな」

「まったくです」

 

東京都九王子市の中途半端な丘陵地帯にある総合セミナー施設の滞在者宿舎にて、死体が発見されたのは、初日の早朝のことだった。

夜半から降り積もった雪は小高い丘を埋め尽くし、すべての交通機関を麻痺させていた。

さらには電信線がすべて積雪の重みで切断され、外部との連絡は完全に途絶えていた。警察はもちろん、自衛隊や海上保安庁にも連絡ができない状態だった。

当然だが、携帯電話の電波も全く届かない。雪の影響はこの施設を孤立状態にしていたのだ。

何人かの参加者が下山を試みたが、二時間経過しても誰からも連絡はなかった。

つまりそれは、このイベントの参加者と運営だけで殺人事件を解決しなければならないということだ。

 

「情報を整理してくれないか」

逆円錐のような特殊な形状の建物に臨時の捜査本部が置かれた。団体の責任者である理事長は、事件の推理を試みた。

「はい。死亡していたのはイベントに参加していたn氏です。名前は任意のものです」

「死因は?」

「わたしは医者ではないのでわかりませんが、外傷はありません。抵抗したあともないようです」

「毒殺か窒息だろうか」

「おそらくは」

うーむと理事長とイベントの実行委員長は考え込んだ。とにかく救急車か警察が来ないことには、死因などわかろうはずもない。

「ときに人は」

「はい」

「絶望で死ぬこともあると聞きますが、そういう可能性は?」

「この人はそういう死に方はしないでしょうね」

「やっぱり?」

「たぶん」

二人は再び考え込んだ。死因についてはこれ以上考えなくてよさそうだ。重要なのは善後策である。

「まずいのはですね、自殺でないとするならば、犯人がいるということです」

「犯人はいますよね」

「第二、第三の犯行が行われる可能性があります。すぐに対策しなければなりません」

「はい。すぐに対策します」

「全員を集めてください」

 

捜査本部に、セミナー施設に残っていたイベント参加者が集まった。

その後の運営の聞き取り調査で、アリバイのない者が五人に絞られた。犯人がいるとすればこの五人に違いない。

「容疑者は絞られましたか?」

「はい、まず〈タラの間〉にいたA氏、B氏の二名です」

理事長は振り返ってホワイトボードに、AとBの名前を書き込んだ。

「どうしてアリバイがないのですか?」

「彼らはお互いがお互いしか証言者でないからです」

「なるほど。どうしてこの二人は同じ部屋に?」

「それはちょっと憚られますので察してください」

「わかりました。次の人は?」

実行委員長はメモに目を落として、次の情報を読み上げた。

「ええと、これはなんと読むんですかね」

「え? ああ、これはヒラメです」

「じゃあ〈ヒラメの間〉のC氏がアリバイがありません。供述ではずっとのこの本部のある建物で、プロットを考えていたそうです」

「プロットを? ずっと?」

「そうですね。結局なにも思いつかなかったそうです」

「なにも?」

「そのように言っていますが、成果がアップロードされていませんでしたので問い詰めたところ、結局思いつかなかったと」

「なるほど。アリバイとしては難しいですね」

委員長はホワイトボードに、三人目の名前を書き込んだ。

 

「次は?」

「はい、〈イワシの間〉ですね」

「なんで魚の名前ばっかりなのですか?」

「おそらく施設の資金提供者が回転寿司店のオーナーだからですね」

「そうなんですか?」

「施設の名前にもつけられていますから」

理事長が場内マップに目を落とすと、なるほど確かに有名な回転寿司チェーンと同じ名前がつけられている。

「部屋は確かすべて一人部屋ですよね」

「ええ。一人部屋です」

「AさんとBさんは?」

「察してください」

「ああ、はい」

実行委員長は、メモに再び見て容疑者を読み上げた。

「この部屋にいたのはD氏ですね。ずっと眠っていて、雪にも騒ぎにも気づかなかったそうです」

「D氏はn氏と仲が悪かったということは?」

「どうでしょう。情報としては入っていません」

「あとの一人は?」

「ああ、ええとですね。これはなんですかね」

「どれですか?」

「この字です」

「うーん。読めない」

スマホで検索を試みたが、まだ電波状態は回復していなかった。しかしここで手をこまねいていたのでは、さらなる殺人が起こってしまうかもしれない。それはなんとしても避けたかった。

「とりあえずそこはXにしておきましょう。その部屋にいたのは?」

「E氏ですね。E氏は第一発見者です。昨夜解散してからこのE氏を見かけた人はおらず、アリバイは不成立です」

「第一発見者は怪しいですよね」

「そうですね。推理モノでは定番です」

理事長はホワイトボードに大きくEと書いた。しかし、犯行を立証することは難しそうだ。手がかりが少なすぎる。

 

ドアが大きな音を立てて蹴破られ、副理事長が飛び込んできた。

「理事長! ご遺体がこんなものを握りしめていました」

副理事長はくしゃくしゃになったメモを広げながら理事長に渡した。

「これは?」

「殺害されたn氏が握りしめていたものです。強引に指を広げて取り出しました」

「お手柄ですね」

理事長は副理事長からメモを受取って広げてみた。何か文字が書いてある。

「読めますか?」

「たぶんこっち向きですね」

「ああ、こうか」

そこには少し前の元号と同じ文字が書き遺されていた。

「ダイイングメッセージでしょうか?」

「その可能性は非常に高いですね。というか他に考えられません」

「どういう意味なのでしょうか?」

理事長と委員長はホワイトボードとメモを見比べながら考え込んだ。

 

副理事長が、ホワイトボードの文字を見ながらいぶかしそうに首をかしげた。

「このXというのは?」

「ああ、それはこれですね」

実行委員長が捜査メモを副理事長に見せた。

「読めますか?」

「ああ、これはウグイですよ。〈ウグイの間〉です」

「ウグイですか。よく読めますね」

「昨日n氏に教わったんですよ。Tシャツが寿司屋の湯呑みみたいになっていてクイズやっていました」

「ああ、あの人いつも変なTシャツ着てましたもんね」

「あったあった。あれか」

理事長は、ホワイトボードの文字と、ダイイングメッセージのメモを見比べた。

動機は判らないが、容疑者はわかったような気がする。

「そうか。わかったぞ」

「え!」

「CとEをすぐに拘束するんだ」

「わかりました!」

副理事長は捜査本部を飛び出して、容疑者の待つ別室に向かった。

「理事長。どうしてこの二人だと?」

「わからないのですか?」

理事長はニヤリとしながら、メモを実行委員長に返した。

実行委員長は理事長と同じようにホワイトボードとメモを交互に見た。

〈ヒラメの間〉のCと〈ウグイの間〉のE。そしてメモに残された元号の二文字。

そうか。

そういうことだったのか。

 

被害者であるn氏は、最後の力を振り絞って、このメモを残したにちがいない。

雪はいつの間にか止んでいた。

 

END

 

 

2018年2月10日公開

© 2018 波野發作

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