(1章の1)
砂利道はずっと下っていた。
夏の終わりの巨大な夕日が赤黒い光を落とし、陽炎と影で見通しが効かず、道は果てしなく続いているかのようだった。
木造の粗末な平屋がぽつり、またぽつりと建つ、岩山の中腹を伝う田舎の道路。歩道も、ガードレールもない。端っこに無造作に退けられたごろた石が、なんとなく列をなしている。それだけだった。
車などほとんど通らず、だから、わだちは薄い。砂利がはじかれた2本のタイヤ跡こそあるが、さほどのへこみはない。かすかに白っぽくなっているだけだ。
岩の勝った埃っぽい土地で、斜面を覆うのは潅木ばかり。ところどころ山肌が露出している。右側に望む頂上は峻険だが、家の建つこの辺りは緩やかな勾配となっている。
その反対、左手側は人の背丈ほど落ち窪み、小川が流れている。水の音はかすかにするが、雑草が繁り、また薄暗い夕暮れのことで流れは見えなかった。
山肌は、木に覆われたところは黒く、岩がむき出しの部分は白っぽい。陽光の鈍るこの時間帯、斜面はモノトーン映像のようだった。
石ころを組んだ雑な石垣が、わたしが歩みを進めるに従って、足もとから脛、膝、腿、腰へと上がってくる。そして切れ、また新たな石垣が足もとから上がる。平べったい直角三角形が、家や畑の区画ごとに、砂利道に並んでいた。せり上がってくるように見える石垣だが、わたしの方が道を下っているのだ。
家はそのどれもが木造の平屋。黒ずんだ板張りに、曇ったガラス窓。建て付けが悪いのだろう、板の隙間から電球の黄色い光が漏れている。冬はすきま風に悩まされるはずだ。
小川の向こう岸にも石垣が続き、雑に均された地に家が立つ。家ごとに、ぽつりぽつりと、安直な板切れの橋が小川に架かる。人や自転車、農機具が通れる程度の、粗末なものだ。
夕日が息を呑むほどに大きく、大地一面を赤黒く染めていた。
飲み込まれてしまいそうな迫力に、わたしは足を止めて夕日に体を向ける。昼日なかであれば直視などできないその恒星を、わたしは腰に手を充ててじっと見つめた。
輪の縁がゆらゆらと揺らめいている。夕日だけをじっと凝視していると、だんだんと膨らんでいくように見える。それが錯覚なのは、周囲が一向に侵食される様子がないことで分かる。
迫力こそ感じるが、しかし頭上から照らしつけるときの狂気性は感じられない。夕暮れの陽は、茫洋とした、単なる赤いまん丸というだけ。大きさに圧倒されるだけの、海洋で例える鯨のようなもの。鮫のような暴力的な怖さはない。
風はないが、埃っぽい。田舎道の夕暮れとはこんなものだ。わたしは再び歩き出す。カラスの鳴き声が山に響いた。
木造家に付属して小屋が建つ。便所か、あるいは納屋か。狭く耕地があり、盛った土が列をなしているが作物は顔を出していない。
錆びついた農機具が置かれ、その横には薪が積み重ねられている。木の皮を編んだカゴに、鍬とねこ車。ひょろりと伸びる一本の庭木に、小屋からロープがかけられている。ランニングシャツ3枚としわだらけのさらしが、干されていた。
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