佐川恭一の小説『清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチってみた』(集英社)が第44回日本SF大賞にエントリーされたことがわかった。

本人がTwitterで伝えた。

今年も活動の幅を広げ続けている破滅派同人・佐川恭一だが、SF界にも幾度となく攻勢をかけている。一昨年に『ダムヤーク』を、昨年は『シン・サークルクラッシャー麻紀』を自薦でエントリーさせているが、今年は集英社より刊行された『清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチってみた』でのエントリーとなった。果敢な挑戦は幾度も行い続ける、その精神が素晴らしい。

それにしても、『清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチってみた』とSFにはどのような関連が見出せるのだろうか?佐川恭一はエントリーの際、この様なコメントを掲載した。

自己同一性を最も深い所で規定するものは性癖だが、近年その主題は避けられがちである。そこに敢えて着目した点でも価値のあるこの短編集の表題作は、題名通り高校生が清朝にタイムスリップして科挙を目指すという驚くべき発想のSF作品となっている。主人公は世代トップの秀才で受験に飽いているが、清朝で科挙という手応えある目標を発見する。それに向けて自己を追い込み成長していく姿は涙を誘ってもいいはずだが、彼の闘争を全編に渡ってドライブしていくのはまさに彼の性癖であり、そこに共感・感動することが予め禁じられている。つまり、この作品はSFやエンターテインメントの作法に忠実なようでいて、実は全的に反抗しているのである。他にも東大20浪の男を扱った『東大A判定記念パーティ』など、極端な状況からの思考展開を実験する作品群が収められたこの本は、今後のSFが拓きうる可能性を大きく広げる光となるだろう。なお、自薦である。

なるほど、これはSFである。佐川恭一は、SF作家としても大きな一歩を踏み出している。創元SF短編賞優秀賞を受賞した斧田小夜のように、更なる飛躍を遂げる日も近いだろう。是非応援したい。

なお、日本SF大賞への作品エントリーは10月31日まで受け付けられている。「我こそは」「これこそは」という者がある方は是非エントリーしてみてはいかがだろうか。

佐川恭一の挑戦がどのように繰り広げられていくのか、はめにゅーでも今後も追っていきたい。