今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2023年4月号

・【特集】「言論は自由か?ーー戦前を生きる私たちの想像力」として、《創作》では村田沙耶香「おろか」、東山彰良「モップと洗剤」、砂川文次「決裁」が掲載。また《特別原稿》として、紅野謙介「検閲は転移する」、奈倉有里「ロシアの言論はいかに弾圧されたか」、大島新「権力と対峙するときーー香港、そして日本をめぐって」、道傳愛子「レジスタンスとしての文芸ーーミャンマーからみる「言論の自由」と豪華論客による言論と自由、「新たな戦前」を生きる時代の言論について考える。

・創作ではデリヘル開業前夜の若者たちと、極彩色の時間を描く、鈴木涼美「浮き身」のほか、舞城王太郎「恐怖は背骨になる。」、木村友佑「手紙」が掲載。

・鈴木健と森田真生による対談「「分断」の時代にこそ、「理想」を語ろう」では、鈴木健著『なめらかな社会とその敵』を軸に<300年後の社会>を想像し、希望を問う。

・スケザネとしても知られる、渡辺祐真「アイドルも紅葉もサラダ記念日も、寺山修司も虚構である! ーー中森明夫『TRY 48』を読む」が掲載。

文學界 2023年4月号

・【特集】作家とギターとして、作家6人が楽器との関係を語り、小説家と音楽家がギターをめぐるエッセイを綴る。平野啓一郎「「上手い」のはスゴイこと」、岸政彦「ギターは個人に寄り添ってくれる、どこか寂しいもの」、高橋弘希「音楽は趣味ではできない」、佐藤友哉「恥ずかしいからこそ、やれること」、北村匡平「演奏と執筆は繋がっている」、磯﨑憲一郎「ウィルスが甦ったデトロイトの夜」とそれぞれがギターや楽器、音楽について語る。〈エッセイ〉では海猫沢めろん「ギター・バンド・小説」、高田漣「アンドロイドはみ空の夢を見た~32/42/52/62/72/82」も。

・【創作】では、松浦寿輝による新連載「谷中」がスタート。長いパリ暮らしを経て、台東区谷中に住むことになった画家の香坂を通して谷中の街を描く。上田岳弘による連作完結作「K+ICO」、小佐野彈による新境地〝フリースキー〟小説「サブロク」を掲載。

・『第128回文學界新人賞』中間発表が掲載。

・『第53回九州芸術祭文学賞』が発表。五木寛之・村田喜代子・小野正嗣による選評も。

群像 2023年4月号

・【特集・テックと倫理】として、創作では円城塔「見張りたち」、宮内悠介「明晰夢」、工藤あゆみ「ニュースの時間」。批評では伊勢康平「技術多様性の論理と中華料理の哲学」、江間有沙「アバター共創が提供する社会的価値」、戸谷洋志「メタバースとニヒリズム あるいはポストアトム時代の欲望について」、枇谷玲子「親子関係と「デジタルおしゃぶり」を考える」を一挙掲載。自己/他者。現在/未来。自由/管理――分断から融解へと向かう、テクノロジーの時代のエチカをさぐる。

・一方通行のいびつな恋愛を通じて、自分の中の矛盾と向き合う。曖昧で割り切れない関係性の魅力を描く、作家の新境地『ごっこ』が刊行された紗倉まな。刊行記念として【小特集・紗倉まな】ではロングインタビュー「名づけられない関係を描く」(インタビュアー:花田菜々子)、特別エッセイ「その恋愛がことごとくうまくいかないのは」を掲載。

・新刊の著書に文字通り本の「自己紹介」をしてもらうという、新連載「本の名刺」がスタート。初回は石田夏穂『ケチる貴方』と高山羽根子『パレードのシステム』。

・今年1月に『香港陥落』を上梓した松浦寿輝、3月2日に『食客論』を上梓したばかりの星野太、二人による【刊行記念対談】「書くことの味わいをめぐって」。

・武田砂鉄による連載「「近過去」としての平成」、村田喜代子による連載「新「古事記」an impossible story」が最終回を迎える。

すばる 2023年3月号

・江國香織による新連載「外の世界の話を聞かせて」がスタート。

・創作では、髙樹のぶ子「我が身世にふる」、椎名誠「鉄塔の人々」が掲載。

・新連載【書評エッセイ】では、村井理子による「湖畔のブッククラブ」。

・今年1月に亡くなった医師で小説家である加賀乙彦氏。【追悼・加賀乙彦】として、菅野昭正が「小説家の遺産を数えて」を寄稿。

・柴崎友香による「続きと始まり」、上田岳弘による「最愛の」がそれぞれ最終回を迎える。

以上、2023年3月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。