表現者のオアシス、破滅派

数あるオンライン文芸誌の中でも破滅派ほど気前の良い場所はないと断言する。会費は無料。会員になりさえすれば毎月の編集会議は誰でも参加可能で自由に討論に参加できる。その上、編集会議の場にはビールや飲み物、おつまみまで用意してある。その上、隔月開催の合評会も作品投稿OKで、さまざまな人に提出作品の感想や批評をただでもらうことができる。その上、合評会で首席になれば大枚一万円が進呈されるのだ。その上、年間最多得点者は年度チャンピオンとして豪華記念品まで贈呈され、その上、同会ホームページにて栄えあるインタビューを載せてもらえる。その上、電子出版が極めて簡単な登録で随時受け付けてもらえるので、数日でAMAZONの筆者として名前を検索に載せることも可能だ。売れればもちろんロイヤリティーが入金される。その上、年二回の文学フリマ開催時に実物の破滅派文芸誌(紙の破滅派と呼んでいる)が発行され、そこに作品を載せてもらえるチャンスもある。その上、出版費用の負担はない。ここで問題。「その上」はいくつあったでしょう?

まさに筆執る者の楽園。才能はあるが金のない書き手のオアシスではないか。ちなみに才能も金もない者にとってもオアシスである。

これを一人で運営・出資する高橋文樹氏はプロの小説家でなおかつIT事業を手掛ける腕利きの技術者でもある。稼いだ金を「破滅派」へ気前よく投入して、同人を募集育成し、Webページの作成メンテナンス管理を行い、合評会、出版、イベント等破滅派活動をけん引する様は、松下政経塾やPHP研究所を私費で立ち上げた松下幸之助を想起させるではないか。破滅派が財政を他人に依存していないことは宣伝広告の類が一つもないホームページを見ればすぐに分かるだろう。高橋氏が破滅派をほぼ一人で運営しているのは、他の者に任せても危なっかしくて見ていられないだけかもしれないし、会員から金を徴収するようになればそれはそれで別種の面倒事やら揉め事が起きることを嫌ってのことかもしれない。現在までに至る破滅派運営の経緯もいろいろあって今の形となっているに違いない。ただ一つだけ確実なのは、有り余る天性の資質を己のためだけに用いることなく、赤の他人の文芸活動の場を構築して提供するとは、並の人間にできることではないということだ。そうして破滅派は浮かんでは消える、うたかたの如きWeb文芸誌の中を生き残り、早や十年を超える春秋を重ね続けている。

さて、偉大な主催者を褒め称えるのはこのくらいにして、本題に入る。2018年合評会の年間グランプリの大猫氏と2019年のグランプリのJuan.B氏の合同インタビューの模様をお伝えしよう。

西川口から虹の先へ

2020年も最後に差し掛かってなぜ二年分のインタビューを一緒にやるのかについては深い事情がある。一昨年チャンピオンの大猫氏に対するインタビュアーの役目は実はほかならぬJuan.B氏が引き受けていた。何度かインタビューしようと試み、実際に会見する機会も何度もあったにもかかわらず、会うたびにただの飲み会になってしまい少しもインタビューにならなかったのであった。

翌年、めでたくJuan.B氏が優勝したのだが、喜びに浸る間もなく「大猫さんにまだインタビューしていなかった」ことを思い出し、今度こそはと同人の諏訪靖彦氏を交えてついに相互インタビューを決行したのが2020年9月26日。満を持してようやく開催されたインタビューの場が、またしてもただの飲み会に終わった有様をとくと堪能されたい。

それは冷たい雨の降る夜、西川口駅改札で濡れそぼった姿で集った三名は、予約していたウィグル料理屋「アパンディン」へ向かった。なぜウィグル料理なのかと言えばただの思い付きである。ちなみに三名はともに埼玉県民で西川口には通暁している。

18時半の予約時間ピッタリに着いたら店は真っ暗だった。電飾看板はしまい込まれて、中に人がいる様子もない。「休みだったか?」とビビる一同。大猫氏は昨夜のうちに店に電話をして予約の確認をしておいたはずだった。さては寄る年波で、電話していないのにしたような気になっていたのではと焦りまくる大猫氏。それを尻目に、うろちょろと店の周囲を探るJuan.B氏は傍から見ると完全に不審者だ。無精ひげが伸びた諏訪氏の風体も全くこの西川口界隈にふさわしく怪しげでむさ苦しい。

仕方がないから他のお店に行こうかと歩き出したところで、「スミマセーン!」と大声が聞こえて、後ろからでっかいおっちゃんが追いかけて来た。

「今まで仕事だったよ。道が混んでいて大変だったよ。ちょっと待ってて」

と、濃い顔立ちのでっかいおっちゃんは、狭い生活道路に大型バンをぎーぎー言わせながら横づけにして、店を開けてくれた。路上駐車である。そのうち、契約駐車場に移動するのかと思っていたが、一向にそんな気配はなく、駐禁を取られたりはしないかと心配していると、黄色と赤の派手な電飾が灯り、店主に店内に入るよう促された。

三人が席に着くと、店主がグラスを3つ持って来てさっとテーブルの上に置いた。するとJuan.B氏が興奮した面持ちでグラスを指さして「これ、ニジノサキです」と言う。大猫氏と諏訪氏はJuan.B氏が言った言葉の意味が理解できず、顔を見合わせて首をかしげる。Juan.B氏は「だから、『ときめきメモリアル』の虹野沙希がデザインされたグラスですよ」と、ますます意味の分からないことを言うのを、大猫氏は完全スルーして「とりあえずビール、料理は適当に頼みましょう」と言ってメニューを持って立ち上がり、厨房に向かって歩いて行った。この店では飲み物や料理を注文するときは客が厨房の近くまで出向き、鍋を振っている店主のおっちゃんに大声で叫ばなければならない。ウィグルから日本に来て何年になるのか。それなりに繁盛していると評判のお店だったのだが、店主曰く、コロナ禍によりお店の経営状態が悪化し、従業員は辞めてもらった。今は店主一人で店を切り盛りしているが、副業をしなければ生活できず、本日の店のオープンもギリギリとなった次第だと。世の中の厳しい流れを実感させられる。それにしてもどんな理由で、ウイグル料理屋にときめきメモリアルのコップが流れ着いたのか気になる所だ。

虹の先からウイグルの大地へ

ビールを飲んで一息ついて、さて、どの切り口からインタビューを始めたものか、と身構えた三人の前に、焼きたての羊肉大串が提供された。あまりに美味そうだったので、ひとまず腹ごしらえを優先することとして、肉に食らいついた。

うまい。ウイグルの大地を感じる味だ。やや硬めに焼かれた羊肉大串は、たっぷりと振りかけられた香辛料によって臭みが抑えられ、噛みしめるたびに口の中に羊肉の旨味が広がる。いつまでも噛み続けていたい。飲み込んでしまうのは惜しい。しかし顎が疲れるな。そんな思いを抱きながら羊肉を食らっていると、諏訪氏が大猫氏とJuan.B氏を交互に見ながら口を開いた。

「インタビューってどんな感じでやるんすかね?」

Juan.B氏が諏訪氏に向かって「そうですね……」と、話し始めたとき、店主がピーマンの緑とトマトの赤が照り映えるラグマン(ウィグル風焼うどん)を持ってきた。

見た目から辛いのかと身構えたが、全然そんなことはなく、強火で炒めた香ばしい塩味の野菜と羊肉が、細麺にじゅるりと絡んで、旨いことといったらたまらない。そして麺が長い恐ろしく長い。長いことといったらたまらない。取り分ける時に麺がプルンと跳ねて汁が飛び散るが、そんなことはお構いなしにラグマンが三人の胃袋に納まっていく。

「大猫さんはパソコン通信の時代をご存じだそうですね」

ラグマンをやっつけていると、Juan.B氏がようやくインタビューらしい質問を大猫氏にぶつけた。少し考え、大猫氏が「そうね……」と話し始めたタイミングで、またまた店主のでっかいおっちゃんがマトンシチューのパイ包み焼きを持ってやってきた。

ぶつ切りの羊肉がトマト味の濃厚なシチューに浮かび、その上をバターたっぷりのパイで包んである。シチューを吸ったパイはテカテカでジューシー。これは辛抱たまらんと再び一同は食事に集中する。大きくカットされた人参やジャガイモはホクホクと柔らかく煮込まれ、それでいてしっかり野菜の旨味を残している。大ぶりの羊肉の塊は濃厚なシチューによって肉の旨味をより深く引き出されている。パイとシチューと肉と野菜が共栄共存、見事な調和をもって三人の舌を喜ばせる。まるで破滅派のようじゃないか。と、良い感じに破滅派の名前が出てきたところで、そろそろグルメレポートは終わりにしよう。

お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません。これから2018年合評会チャンピオン大猫氏と2019年合評会チャンピオンJuan.B氏のインタビューをお届けする。編集の都合上インタビュワーを諏訪氏とするが、ちゃらんぽらんな諏訪氏が事前に質問内容を用意してくるはずもなく、三人でワイワイガヤガヤ話した内容をそれっぽく纏めさせていただいた。

インタビュー本編

 

大猫さんはパソコン通信の時代をご存じだそうですね。

そうなんですよね、NiftyServeの文学フォーラムに入って小説とか発表してました。あの頃はダイヤルアップ接続で、電話の接続音から始まるんですよね。プルルル、プルルル、パツッ、キーン、ボーボーボー、ってな感じで接続までに一分以上かかってました。速度が1200bpsとかで大量のデータ送れないし、そもそもテキストしか扱えないし。

テキストしか扱えないことで困る事とはなんでしょう?

文芸作品を作る分には困ることはありませんでしたが、視覚に訴える資料が必要な場合、表とか線とか画像は使えませんので、記号などを工夫して使いました。以下は、「源氏物語を味わう」というチャンネルで作った、寝殿造での登場人物の位置関係を説明するテキストです。

 

 

大猫さんは源氏物語をはじめ、古今東西の古典に明るいイメージがあります。

別に明るくはありませんが古典は好きです。『源氏物語』は別格で、『伊勢物語』とか『平家物語』、近松とか馬琴とか江戸ものも読みます。中国古典ですと断然『西遊記』、『水滸伝』、それに『紅楼夢』ですね。『源氏』以外はなかなか同好の友が見つからないのが辛いところです。好きな方がいたらいつでもお声かけください。酒を酌み交わしながらディープに語り合いましょう。

大猫さんは中国語も堪能ですよね。劉慈欣の『三体』を中国語で読まれているとか。

大学で専攻したので少し分かります。北京や上海に住んだこともあるし、中国や台湾には数えきれないほど遊びに行っています。『三体』は普段SFを読まない人間にもすごく面白いです。今、第二部を読んでいます。第三部の日本語訳が出るのが2021年春だそうで、その前に全部読み終えて、友達にネタバラしの嫌がらせをしてやろうと思っています。

小説はいつ頃から書き始めたのでしょうか?

中学生の頃にノートに何か書いて友達に無理やり見せていたような記憶があります。あまりにも昔なのでよく覚えていません。社会人になってから富士通のOASYSを入手していろいろ書きましたが、大半はテキスト変換しそこねて二度と読めないフロッピーディスクの中で死滅しました。NiftyServeに参加したのはその後になります。

破滅派に寄稿することになった経緯を教えてください。

NiftyServeが2004年に終了してしまい、創作発表の場をなくし、それから十数年間、寂しい思いをしておりまして、そろそろ紙の同人誌でも入ろうかなと思い始めた頃、破滅派を知りました。発表作品のレベルの高さを見て門を叩きましたが、それ以来、高橋文樹代表や同人の皆さんの多芸多才ぶり博覧強記ぶり、そして志の高さに感銘させられっぱなしです。今では二ヶ月に一度の合評会や年に二度の文学フリマに参加するのがとても楽しみです。老い先短い年寄ですが、この先も若い皆さんに混じって置いていただけるとありがたいです。

破滅派から電子書籍も上梓されています。

はい、電子出版のハードルが低いのが非常にありがたく思います。『三つの琵琶の物語』と『メビウスの福袋』を出させてもらいました。前者は古典好きが昂じた、ペルシャ、中国、日本に舞台を変えての楽器・琵琶にまつわる時代劇です。後者は趣味の回文をまとめた作品集です。回文の俳句や短歌などもありますのでぜひお買い求めいただき、世の中には暇な人もいるものだ、と感心してください。

 

 

 

2018年度の年間チャンピオンを獲った感想をお聞かせください。

すごく嬉しく光栄に思ったはずなんですが、なにぶん、年齢が年齢なので二年前のことはほぼ忘れました。うっかりすると二秒前のことも忘れてしまいます。五十年前のことなら思い出せるんですけどね。年は取りたくないものです。

 

語り終えた大猫氏はウィグル焼酎(五十二度)をチビチビ舐めて、うっとり恍惚の表情を浮かべている。放っておくと本当に恍惚の人になってしまうんじゃないかと心配しつつ、諏訪氏がインタビューを終えると、「次は俺の番だ、かかって来い!」とばかりに、ちっちゃいサーベルを咥えたおっきな兄ちゃんが待ち構えていた。2019年合評会チャンピオンのJuan.B氏だ。

タイガー・ジェット・シンですか?

一応。人を白昼堂々襲撃したりしないけど。(目付きがイッているので修正しました)

幼少期の経験が現在のJuan.Bさんを形成したと聞いています。

人生のどの時点でも取り返しのつかない影響ばかり受けてますけど、やはり最初に思い出すのは小学校時代ですね。あそこで、少なくとも親以外の人間の生の感情を始めて感じました。子どもとしても、一ハーフとしても、色々な事に気付かされた。何があったか率直に言えば、いじめにあったり喧嘩したりとかね。でも、本当に一筋縄では行かない時期でした。良くある学級系児童文学みたいな明確な終りや和解なんてなかったし、被害と加害がゴッチャになっている。この煮え切らなさだけが心に残っている。まあ楽しい事もたくさんあったけど。あと、それに加えて、大人になってから、所謂非定型発達の可能性も出て来て、過去の幾つかの出来事にもしかして……と思いだしたりと、今でも尾を引いちゃってますね。

女児を殴り飛ばしたとか。(詳細は『混血テロル』の「ハーフのクソガキ」参照)

ファッキンファクト。でも、破滅派近辺で昔の事を公表してからホントにそればかり言われてるんですが、男児中心の虐めグループと十数回も喧嘩しても教師の対応がほとんどなかった中で、相手に加担してた女児を一回殴ったら凄い怒られたという過程はちゃんとあるんですよ。俺の中では矛盾と言うか不合理の物語ですね。俺は男女平等を貫いたつもりなんだけど。この経験は、子どもの時の出来事なりに、かなり大きいですね。

Juan.Bさんは2019年、『戦前不敬発言大全』『戦前反戦発言大全』を出版されました。

月並みな言葉しか出ないんですが、本当に嬉しかったですね。破滅派に入る以前から取り組んでいた事でした。しかし出来上がって見ると、合わせて1200ページになるとは思わなかったですね。無論あれの相当な部分は過去の人々の発言なのですが、それでも俺の文章も相当な量で、かかった歳月を振り返ると感慨深いものがある。そして、今まで顧みられなかったことがこの本で顧みられる様になるなら本望ですね。ともすれば悲惨さや全体主義一色で捉えられがちな戦前の人々にも、一筋縄でいかない世界があったことを、それも当時の特高警察や憲兵の資料から読み解いています。もちろん深刻な読み方だけでなく、面白おかしく読んでもらっても俺としては構わない。ある皇族が戦地で事故死したニュースを聞いてある庶民が言い放った『皇族なんかたくさんいるんだから一人ぐらい死んだって良いじゃないか』なんて発言、皇族の少ない今から見れば逆に羨ましい限りでしょう(笑)。ただこんな本を、こう面白おかしく気張らず読める世界が、これからも続くにはどうするかということはちょっとだけ頭の隅で考えて欲しいですね。目立つ発言を太字にしたり解説も多めに入れてあるので、分厚さに比べて読みやすい本だと思います。是非、戦前の人々の発言を楽しみつつ読んで欲しいですね。

 

 

変革のための総合誌『情況』のコラムを担当されています。また、阿佐ヶ谷ロフトでは定期的にイベントをなさっているそうで。

それも大全の出版があって、色々関り始めた事ですね。俺よりも高橋文樹さんとかの方がずっと良く理解していると思いますが、本を出すとかなり世界が変わりますね。と言っても天狗ぶる訳にはいかず、全然経験のない事をまた一から学ぶ事ばかりですが。特に阿佐ヶ谷の方は、最初は拙著に関連したイベントをやってたんですが、途中から関係ない分野のヤバいイベントに出るようになりましたね。やってて楽しいけど、時折俺の肩書を並べるとかなり混乱する様になってますね(笑)。イベントの中身は、まあ来てからのお楽しみですが。是非イベントをやる際には来てみて下さい。

破滅派からも電子書籍も上梓されています。

出してからもう時間が経ってしまってるけど、『混血テロル』と、『天覧混血』。電子出版的テロルなんて名乗っちゃってるし、内容については、あまり触れない事にしましょう。混血の混沌とした世界の表明とだけ。どちらも出してから数年経ってるので……何というか、特に合評会に関わる様になってから「上手くなった」と率直に嬉しい評価を貰う様になった程で、つまりそれ以前の初期作品集として見ると、小説の構成や文法については今見ると改めたい点は確かにある。そして俺の内心も色々変ったことはある。でも内容を改めたいとは思わない。これを出した時の俺は、かけがえのない俺なんだな、ウン。感想では高評価を頂け、嬉しい限りです。少なくともこういう作品を出す者は日本に五人といない筈だと思っています。読む人は、多分選ぶでしょう。でも、選んだり選ばれたり、人が小説に触れるそんな曖昧な現場の範疇を広く取れるのが電子書籍と言う舞台でもありますから。合評会で書く小説より長めではあるので、あの表紙に惹かれる物があれば読んでください。

小説を書き始めたきっかけを教えてください。

混血、あるいはまあハーフやらダブルと言う俺の出生について前述しましたが、つまり……それで一体自分を取り巻いている世界は何なんだろう? 俺がいる事で生じる様々な出来事は何なのだろう? と言うのを表現したいと考えた時に、自分に出来る方法が文章だった。青臭いと思われるかも知れないが、俺には当時切迫した問題でした。先程話した小学生時代の出来事を経て、中学は殆どまあ楽しく過ごしてたんですが、高校になると身辺に色々あって。まあ一例を挙げれば俺の案外近い所で、俺と似た出自の知り合いが自殺したり、差別職質にあったりね。自分の世界というか足元がぐにゃぐにゃになったんです。放って置いた思春期が、それも一番嫌な形で追いかけてきたとも言いましょうか。今もろくでもない思春期かも知れないけど。そして一番の問題は、じゃあ「国」って何だね? 「民族」とは何だね? 俺の「自由」ってどこで確認できるんだね? と言う事を、初めてその時、深刻な問題として考えた。小学校の時生々しい一番原始的な形でそれに向き合ってたのに忘れてたんですからね。それを踏まえた時に、俺は絵も描けないし、歌やらラップも出来ない、テレビに出るような美貌を持つステロハーフでもない、関東の僻地のクソガキであると。でも識字だけはしている。そして今の所、案外、字は規制されていない、と思ってた。書き始めたのが高三くらいかな。長編を書こうとしてまあ出来なくて、エピソードを細分化したものが、『混血テロル』の「誇り高き人々」だった。振り返るとあれが一番純粋で、ある意味分かりやすい小説でもあるんでしょうね(笑)。しかしこの小説を書く行為自体にもまた色々なドラマがあるんですけどね。「小説家になろう」で後から規制を受けて作品と放浪を始めて漂着したのがこの破滅派でもある。人生どうなるか分からないな(笑)

お話しできる範囲で結構なので、今後の予定など教えてください。

数億年後に全次元の全生命を救う予定なのでよろしく。詳細は仏典を読もう(高度なラテン系ジョーク。一同静粛)……予定は未定と言うか公の予定なんか無いんですが、破滅派始め小説方面でも、そして拙著の分野でも、色々な企画を考えてはいます。イベントは結構やってますし、そこからまた新しい人たちとも知り合ってるんで、また新しい動きもあるかもですね。世間はコロナコロナ騒いでるけど、その鬱屈してた時期に俺は危険なイベントをやってますからね(笑)。コロナが心配されてるのに、本と言う形でなく実際の活動が多くなってるのは我ながら面白いですね。とにかく、期待してくれヨなんて大風呂敷は言えませんが、どうか応援お願いします。

2019年度の年間チャンピオンを獲った感想をお聞かせください。

嬉しいと同時に、妙な解放感がある(笑)。破滅派の合評会発足当時から参加してた身ですが、ここまで来れたかと言う感じですね。自分に関しては、我ながら独自の話ばかり書いて、たまにそれが1位になる時がある程度かと思ってた部分はある。そうありつつ、18年くらいから本当に多くの方が参加して自分も学ぶ事が更に多くなって、18年度は僅差で大猫さんに敗れましたが、段々自分でも確かに作品を競い合いそして評価し合うことの大切さ、作品の内容に少しだけ響くようになれた。何より、必ず読んでもらえるんですからね。そこでグランプリを頂けで嬉しかったですね。これからも参加したいです。ただ俺は、1位になっても、次のお題を決めるのが本当に下手なんだよな(笑)

 

Juan.B氏のインタビューが終わるころ、三人しかいなかった店内は、三々五々とやってきた沢山の人々でにぎわっていた。店主のでっかいおっちゃんは巨体を揺すって大忙しだ。三人はその背中を見ながら心の中で、でっかいおっちゃん頑張れと応援するのだった。もちろんひそかに応援するだけで、お皿を下げるのを手伝うとか、少し注文を差し控えるとかは全くしなかった。大猫氏はすっかり酔っぱらって寝そうになっているし、Juan.B氏はさんざん羊肉を食った後で更に焼き鳥が食いたいと言い出すし、諏訪氏は慣れないインタビューでどっと疲れが襲って来るしで、いつもの通りこれと言って特に収穫もないまま、何となくちぐはぐに夜の終わりを迎えたのであった。

 

*本記事は大猫、Juan.B、諏訪靖彦の共作記事です。