英国における最も権威ある文学賞の一つ、ブッカー賞。その国際部門である国際ブッカー賞において、作家の国籍表記について運営当局が政治に左右される事態が発生した。

問題の渦中にあるのは、台湾・台北出身の作家である呉明益と、彼による国際ブッカー賞ノミネート作品「単車失窃記」(the stolen bicycle 、盗まれた自転車)である。ノミネート当初、呉明益の国籍はブッカー賞ウェブサイト上では台湾と表記されており、呉自身もFacebook上で自身が台湾出身の作家としてノミネートされたことへの喜びを表明した。しかし3月下旬、在英中国大使館の抗議により国籍表記が「中国台湾」と変更された。呉はこの措置に対し抗議し元に戻すよう求めた。

この表記変更は議論を呼び、ブッカー賞が中国共産党政府の圧力に屈しているという批判も発生した。ブッカー賞は関係者や英国政府と協議し、4月4日に呉明益の国籍表記を台湾に戻した。国際ブッカー賞は「この賞に国籍は関係ない。著作が英国で翻訳発売されていれば全世界の人々に参加資格がある」と表明している。

今回は表記が元に戻される形で解決したものの、中国政府と台湾の関係が文化面にも影響を与えたことや、国際的な文学賞の中立性について改めて考えさせられる機会となった。