「マンガ大賞2017」は、2016年1月1日から12月31日までに単行本が発売された作品のうち、最大巻数が8巻までのマンガ作品(過去にマンガ大賞を受賞した作品は除く)から、選考員が最大5作品に投票し、得票数上位13(同率順位含む)作品をノミネート作品とし、選考員は全ノミネート作品を読んだ上で、上位3作品を選考し投票。集計の上大賞を決定する。「マンガ大賞2017」は有効投票作品数248作の中から、柳本光晴『響~小説家になる方法~』が受賞した。

 

響が小説を好きなのと同じく、僕もマンガが好きである。人生に必要なことは全て『るろうに剣心』から教わった。響が毎月2~30冊の小説を読むのと同じく、僕も毎月2~30冊のマンガを読む。しかし、この『響~小説家になる方法~』は、初めて聞く名前であった。他のノミネート作品は全ては読んでないにしろ、名前は知っている。どの作品もマンガ売り場で平積みになっているのだから、嫌でも目に入る。しかし、『響』はどこにあった? 完全にノーマークだった。ニュースを見て、大急ぎで全巻購入した。これは面白い。

 

『響~小説家になる方法~』は、『ビッグコミックスペリオール』(小学館)にて、2014年18号から連載され既刊5巻、4月12日に最新の6巻が発売される作品である。天才女子高生小説家「鮎喰響(あぐい・ひびき)」が文芸の世界で無双する話と言って良いだろう。その作品は読んだ者に小説家を諦めさせるほどの格の違いを見せ、なんとデビュー作が、最年少の15歳に加えて史上初の芥川賞・直木賞をダブル受賞してしまうのである。これがファンタジーの世界を舞台にしたバトルものであれば、中学生が妄想するような良くある少年漫画の設定になるのだろう。しかし、小説家が主人公というのが新鮮な部分だ。

 

さらに響以外の4人の文芸部メンバーや作中の小説家たちも個性的に描かれている。天真爛漫で自由奔放な響とは対照的に全員が闇を抱えているのだ。こう書いてみて、なんだか小説家版『ワン・ピース』のように思えてきた。響は小説家にありがちな苦悩を一切しない。自らが信じるままに行動し、そして周囲の人間たちを巻き込んでいく。特に注目すべきキャラクターは響の幼馴染である涼太郎だろう。不器用な響と異常な愛情を示す涼太郎の関係は、谷崎潤一郎『春琴抄』の春琴と佐助の関係を思わせる。

 

文芸の世界に革命を起こした響。「小説家になる方法」とあるが、その作品は小説家を目指す者にとっては「小説家を諦める方法」になってしまう。今後の響はどうなるのか。大人たちに利用されスターダムに上りつめるのか、それとも……。涼太郎、頼むぞ。