小松左京、星新一と並ぶ「SF御三家」の一人、文学界の巨人とも称される筒井康隆(1934年9月24日~)が、2012年に発表したライトノベル『ビアンカ・オーバースタディ』。その続編を勝手に書き「星海社FICTIONS新人賞」に送り付け、見事に受賞するという衝撃的なニュースが流れたのは昨年の事。その前代未聞にして掟破りのデビュー作、筒城灯士郎『ビアンカ・オーバーステップ』が、筒井康隆の公認を受けついに刊行された。

 

当初は無許可の二次創作が賞を取って良いのか、もしや筒井康隆が新人を装って投稿したのではないか、などの論争が沸き起こった。しかし、筒井康隆は『ビアンカ・オーバースタディ』の「あとがき」においてこう述べている。

 

「この作品も続篇を書きたいところだが、あいにくわしはもう七十七歳でこれを喜寿というのだが、喜ばしくないことにはもう根気がなくなってきている。「ビアンカ・オーバーステップ」というタイトルのアイディアがあるから、誰か続篇を書いてはくれまいか。別のタイトルでもよく、大ネズミが出てこなくてもいいので、傑作を書いて大もうけしていただきたいものだ。太田が悪い。」

 

作者がこう言っているのだ。もしや、あなたも続編を考えた1人なのではあるまいか。しかし、実際に書きあげ、新人賞に応募し、見事に賞を勝ち取り、筒井康隆本人の公認も得て、単行本が刊行されるに至るとは、誰が想像しただろうか。筒井康隆が考えたのはタイトルだけなのだ。本人もまさか続編を書く「誰か」が現れるとは思っていなかったではないか。

 

また、「太田が悪い」でおなじみの星海社副社長COO、太田克史氏は選考座談会において

 

「要は、新人賞に応募する作品としても、新人がデビューする作品としても、『ビアンカ・オーバースタディ』の続篇としても、ここは押さえておかないといけないという要素があるわけですよ。そこがね、全部80点くらいで綺麗にまとまってる。しかも着地点もいい。」

「たぶんこれ、現代SFを書いている人は、読んだら結構悔しがると思います。もし、この作品が世に出ることになったら、みんな最初は「はあ? 筒井を舐めるなよ!?」と思って読むと思うの、僕と同じように。でも読み終わった後は、たいていの人は僕と同じ感想になると思うよ。」

 

と、述べており、見事な作品に仕上がっているようである。『モナドの領域』が最後の長編小説になると噂されている筒井康隆。大注目の新人、筒城灯士郎はその後継者となれるのだろうか。あるいは、今度はあなたが『ビアンカ・オーバーバランス』を書きあげるのだろうか。太田が悪い。