本作では3件の殺人が無差別殺人犯である桧川によるものだと冒頭で明かされる。しかし、実は桧川には協力者がいて、別荘グループの中に共犯者が紛れ込んでいるはずだ、というのがここまでの推理だった。そして、その共犯者が的場であるらしいというところまでが出題部分である。的場は一人だけ致命傷を負わずに生き残っていた被害者なので、当初からかなりグレーだった。
さて、今後の推理の前に、本作のタイトルおよび隠しテーマから展開を推理したい。別荘グループに届いた「あなたが誰かを殺した」というメッセージの送り主は桧川の妹である久納だが、ここでは「誰もが意図せず他人を死に追いやっている」というテーマを表す道具立てとしても機能している。また、犠牲者たちのネット上での評判を紹介するくだりは昨今のネット炎上という社会現象に対する東野圭吾的アプローチだとも言えよう。匿名の無責任なネットユーザーもまた「誰かを殺し」ているのだから。そんなわけで、本作の主題は「無差別殺人だと思っていたが共犯者がいた」ということだけではなく、4件(5人)の殺人事件それぞれに共犯者が存在していた、と考えるのが妥当だろう。
- まず、櫻木洋一の殺害には的場が関与している。これは同じページですでにチラ見えしてしまっていた20章で語られる「復讐」が動機なのだろう。
- そして、栗林夫妻の殺害には、静枝が関与している。静枝の夫が残した不動産会社の経営実態は火の車で、栗林夫妻の隠し財産が目的だった。桧川に殺害を持ちかけたのはこれが発端。
- 鷲尾英輔の殺害は偶発的なものである。屋敷裏の森を抜ける桧川と遭遇したため、殺害されることになった。
- 高塚洋子を殺害したのは静枝である。栗林家との関係を指摘されていたため、あらかじめ殺害する予定でった。最後、高塚家と亡父のあいだの因縁が明かされる。
つまり本作では、まず静江による財産奪取と証拠隠蔽による桧川の利用があり、それに乗っかるかたちで静枝と肉体関係のあった的場が義父の殺害を共謀した。桧川は犠牲者が多いほど死刑になる確率が高まるので、やぶさかではない。共犯者である的場と静枝はそれぞれナイフを使用したので隠している。おそらく、2本の凶器は空き別荘グリーン・ゲーブルズに隠されているだろう。
ラストでは、「あなたが誰かを殺した」というタイトルの意味を回収するエピソードが語られるはずで、犠牲者の中では唯一無辜であった鷲尾英輔の胸糞エピソードが明かされて終わる。
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