「名探偵破滅」、何だか課題図書の難易度がどんどん上がっているような気がする。こっちのアタマが劣化しているだけかもしれない(涙)
半藤優子の語りと佐古壮介の原稿に比べて、緋桜1の日記の位置付けがよく分からない。そんなに大事なものをどうして遊郭に残して行ったのか、書いてあることは事実と受け止めていいのか、本当に緋桜1が書いたものなのか。
とりあえず身投げ事件を整理する。
<金瓶梅楼>
昭和十二年三月~十一月
①通小町 死亡
②緋桜1 未遂
③月影 怪我
<梅遊記楼>
昭和十七年~昭和二十年
④登和 死亡
⑤雛雲 死亡
⑥緋桜2 未遂
<梅園楼>
昭和二十一年~
⑦漆田 死亡
⑧緋桜3 未遂
⑨佐古 死亡
三代の緋桜がいずれも未遂である。①~③には緋桜1が居合わせており、④~⑥には緋桜2が居合わせている。
緋桜1から3は同一人物ではないだろうか? 妙に年齢の辻褄が合う。最初に登場したのが十三歳、三年後の十六歳で花魁になり、七か月後に身請けされているので、金瓶梅楼を去ったのが十七歳。梅遊記楼時代には二十二歳、梅園楼時代には二十六歳となる。出戻りの遊女はいじめ抜かれるというから、顔を知っているはずの紅千鳥等が何の行動もしていないのは不思議だ。十七歳から二十二歳は人として精神的に成長を遂げるものだし、大店の若女将として経験値を積んでいたとすれば、遊郭に籠りっぱなしの人々が見破れなかったのもあながち無理とは言えないのかもしれない。少なくとも緋桜2は金瓶梅楼の内情を詳しく知っており、いじめられないように賢く立ち回ったように見える。緋桜3は二十八歳というが、年齢よりは老けて見えると書かれている。あの時代、食糧不足や空襲など戦争の労苦を経た人は多かれ少なかれ老けてしまったことだろう。それに身投げする直前、「これまでに身投げした方の供養ため」稲荷祠に線香を立てて、緋桜という存在が身投げの責任を負っていることを認めている。
遊郭の女将の息子・半藤周作は表立って出てこないが屈折した人物である。実家が遊郭であるため教師にもなれず、病弱のため兵隊にもなれず、廓内の花魁にだけはモテたので、その密男となったりしている。
周作の恋人
金瓶梅楼:緋桜1(と仮定する)
梅遊記楼:緋桜2
梅園楼 :浮牡丹
時代が下るにつれて緩やかになっているが、花魁に手を出すのは本来ご法度のはず。特に金瓶梅楼の時代ではリンチ沙汰になる恐れがあった。周作と緋桜1は深い仲になったが、通小町に感づかれており、遣手や女将の耳に入る前に口封じをする必要があった。これが一連の事件の発端となった。
遊郭には悲惨な死に方をした遊女が数えきれないほどおり、女将や遣手婆でも良心が咎める事態の一つや二つあったはず。実際に化けて出たことがあったかもしれない。そのうちのどれかを「幽女」に仕立てた。「幽女」は殺人事件をカモフラージュするための手段として使われた。
犯人と動機
①通小町 犯人:周作 共犯:緋桜1 口封じ。失恋の痛手を慰めるふりをして突き落とした。
②緋桜1 狂言 ①の事件が「幽女」の仕業と信じ込ませるため
③月影 犯人:緋桜1 「幽女」の仕業と信じ込ませるため、喜久枝や雪江が去った闇小屋で朦朧としていた月影に自殺教唆をした。
④登和 犯人:緋桜2 動機不明。喜久枝や雪江が去った闇小屋で自殺教唆をし、飛び降りる際には背中を押した。
⑤雛雲 犯人:周作 ③と④の事件を目撃していた。
⑥緋桜2 狂言 「幽女」の仕業と信じ込ませるため。
⑦漆田 犯人:周作 紅千鳥にそそのかされて①③④の事件の核心に迫る情報を掴んでいた。
⑧緋桜3 夫の死亡の知らせを聞いて本当に身投げしたが未遂。
⑨佐古 犯人:周作 事件を嗅ぎ回っていることを警戒された。
緋桜1や緋桜2の見た「幽女」は、一連の事件が「幽女」の仕業と信じ込ませるための嘘。
優子が見た「幽女」は一連の事件が「幽女」の仕業と信じ込ませるための芝居。
闇小屋の焼死体は、途中で急に出てきてすぐ退場する飛梅の死体。いじめ殺されて死体の処理に困ってとりあえず隠した。
他の遊女たちは事件の真相を薄々知っていた。
浮牡丹は周作を止めようとして、自ら周作の恋人となった。
紅千鳥は漆田を焚きつけて証拠を掴んで強請ろうと思っていた。
月影はただ怖くて黙っていた。
雪江はすっかり周作や緋桜の手先となっていて、事件の真相を知っているものの黙っていた。
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