この物語の最後がどのようになるのかちょっと想像がつかない。史上最も有名なカルト教団をモデルにしているから、史実は動かせない。信徒900名以上の虐殺の前には密室殺人などどうてもいい気分になるのだけど、それでも謎は解かなねばならぬ。
犯人は一人か? 動機は? 教団が全滅したラストは犯人が本当に意図したことか? 成り行きでそうなったのか?
そもそも教団自体が行き詰まっていて一枚岩ではない。
・病気や身体欠損を抱えた人々の共同幻想体は存続の危機にあり、ソ連移住を考えているものの教父のジムは病身で目がほとんど見えず、内務長官のウェザースプーンや外部から来た弁護士に頼らざるを得ず、内心で不信感を抱いている。
・「襲撃者」により、ユートピアがたびたび脅かされていると被害妄想を募らせる人々がいる。特に保安部隊のすぐにライフルをぶっ放す小柄なラリー。
・子供たちを隔離して独自の教育を施している小柄な校長先生が独特の存在感だ。純粋培養された子供たちは教団再生の希望だったのだろう。それに謎の少年W。実は大人の身体になれない奇病で、小さいけれど成人男性である。「小柄な男性」や「大人になれない男」がやたらと活躍するのも気になるところだ。
・入信したことを後悔している人々がいる。ピーター・ウェザースプーンやルイズ。
チャールズ・クラークが黒幕というりり子の推理も案外当たっているのかもしれない。百津商事の社長なんかと友人関係にあるくらいだから、ソ連と後ろめたい取引があり、その発覚を恐れて教団のソ連移住を潰すつもりだった。また、共産主義思想は70年代では危険思想であり、国家的レベルの大きな意思が働いている可能性もある。
以上を踏まえて犯人の可能性がある人物またはグループを検討すると、
①暴走グループ ジョゼフ+ラリー
②後悔グループ ウェザースプーン
③再生グループ 校長先生+実行部隊のW
④チャールズ黒幕 デントが実行犯だがバレて殺されてしまう。
ところで実際に手を下したのは、最初の殺人事件で登場する108号と平仄を合わせ大人になれない病気のWだと思う。
デント殺人
元FBI捜査官でCIAでも活躍しているわりには間抜けな雰囲気の人物だ。だいたい虫が苦手な人間をジャングルのど真ん中に派遣するかな。
デントは教団から疑われていたので尾行がついていたのだろう。密談をルイズの他にも立ち聞きしている者がいた。それとなく目を付けるには子供を利用するのが便利で、WやQが目付け役だったと思う。便所に蜂の巣を仕込んでおいて驚かせ、逃げ帰ったところを殺害する。トリックについては分からないが、子供の体格をうまく利用したのではないか。
ジョディ殺人
狭心症で降圧剤を常用し緊急のニトロ錠も持っていた。事前の荷物検査でそれは教団側にも分かっていた。
緊急時のニトロ錠がない状態で強いストレスを与えて発作を起こさせるのが目的で、Wがペンダントを盗んだが、ジュディがニトロ錠を診療所で調達してしまった。そこでいつでもいいから教団内で死なせるため、ピルケースの中身を青酸カリ入りのカプセルにすり替えた。そしてお茶会の30分前、9時半頃に飲んだカプセルに青酸カリが入っていた。
それにしても当日、7:12に早めの朝食をと部屋を出て、その後、ピーターやジョゼフが部屋に来て、大塒、りり子、イが「父の家」に連れて行かれ、探偵劇が始まるのだが、その間、ずっとジュディが出てこない。どこで何をしていたのだろう? あるいは盗まれたペンダントについて捜索していたのだろうか。9:30にクリスティーナが来て医師を探しているが、それはニトロ錠があるかどうか確認しようとしたのだろうか? 疑問は残るがWが実行犯とする。
イ・ハンギョン殺人
Wの犯行。大塒とリリ子が同じ牢舎になり、イだけをわざと別にした。
Wが通気口から侵入し、「逃がしてやる」と甘言を弄し、イ自身が車いすに乗って牢舎から出た。その後、イはジャングルの中で吊るされた状態で切断された。牢舎内にハチの巣を置いたのは嫌がらせだろうか? 異様な遺体の置き方は何かの文字列を表したメッセージと思われる(が、分からない)。
りり子殺人
Wがおびき寄せて殺したと思われる。ジムとりり子の安易な和解は教団破滅を進める犯人には受け入れがたいことだった。
犯人はチャールズ・クラークの視察団やライランド議員とは敵対関係にある。かといって教団がマイルドな組織になって存続することも願っていない。
主犯は襲撃者妄想を募らせていたジョゼフ①グループと、生徒に純粋培養教育を施していた校長先生の③グループ、この二人がWを使って殺人を実行したと思う。暴走した原理主義は教父のジムにも止められなくなっていた。ジョゼフはライランド訪問団を攻撃すればどうなるか分かっていて、敢えて虐殺に走った。ひょっとしたらセスナ機をわざと逃がしたかもしれない。
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