めちゃくちゃ面白かった

名探偵破滅派「方舟」応募作品

我那覇キヨ

エセー

2,547文字

隔離した空間で推理を強いられるための数々の手管が素晴らしい。

最初に謎を整理する。
0.一連の犯行の動機の謎
 作中、何度も新興宗教の話が出て来る。「新興宗教ならばどのようなグロテスクな動機でもあり得る」という日本エンタメの不文律があるので、そのことを念頭において考える。
 彼らが方舟に閉じ込められたのは、犯人の計画通り。方舟は「外に出るために一人を犠牲にする」ための施設。水道もつながっているので、地下の水も浸水ではなく水道水と予想。
 新興宗教では「真の友となるために共に罪を背負う」とかそんな教義があるのではないか。生き残った他メンバーを絶対に言うことを聞いてくれる仲間にする、とかで。で、その儀式が組織内で一人前に認められるための通過儀礼なのではないかと予想。
上記を念頭に他の謎も考えることとする。
1 .裕哉が殺された理由
 方舟まで連れてくる役割を誰かに依頼され、その口封じに殺された。
2.さやかが殺された理由
 裕哉が半年前に送ったという写真は、裕哉の保険だったのではないか。文面、写真などから犯人につながる要素があると判断されたため殺された。または、写真の存在が表に出ると儀式の価値が下がるため殺された。(外部に儀式のことが漏れるとノーカンになる、とかのローカルルールがある、とか)
3.さやかが殺された時にウェスをわざわざ持ってきた理由。
 これは、ウェスを方舟の中で普段使いしていて、首を切ったあともうっかりウェスを使って掃除してしまった、でかんがえている。で、ウェスは千切れて残ることがよくあるので、ウェスから足がつくのを恐れて、首を始末したあと、こっそりウェスのカゴを下に落ろして一箱持っていって、数を減らした。つまり、犯行後わざわざウェスを持ってきた、ように偽装した。
 ウェスの在庫数をカウントされてたけど、最初にカウントする前に手荷物として持っていったので大丈夫だった、とか。……苦しいかな。降参です。
4.矢崎はなぜ待ち伏せできたか?
 矢崎さん死亡時の、水中に隠れて犯人を待って返り討ち、という点は待ち伏せ計画の時点で変。犯人が凶器を取りに戻る、という確信がなければ待ち伏せできないので、矢崎は何かを知っているのではないか。宗教が絡むので、生贄の血を吸った刃物を持ち帰るとランクアップとか? いずれにしても矢崎は方舟内の儀式について知っていたと思われる。
 殺害方法については誰でも可能だったので、そこから犯人を追うことはできない。
 邪道だが「各メンバーが犯人だったとしたらどんな物語になるか?」
 という視点で考えることにする。
・花が犯人だった場合
 一番怪しい。
 裕哉に方舟まで連れて来させる役を負わせるのは、色仕掛けでも使ったのだろう。
 方舟までの道すがら
「今日は別荘には帰れないってことでいいんだよね?」
と方舟に泊まるようにみなに自然と仕向けている。
 また、花、裕哉、さやかが外に出て矢崎一家と帰ってくる。この際に裕哉と二人になるのを嫌がる。裕哉に問い詰められるのを避けた? みんなに秘密で、方舟まで誘導したらご褒美、みたいな誘い方だったのだろうか。
 方舟の外で、花は転んでいることが描かれているがその理由はわからない。矢崎一家を巻き込んだのは花であると思われるため、巻き込むために転倒したのだと思われる。
 矢崎家を巻き込んだ理由は不明。
 また、さやかが裕哉から送られたメールに強く反応したのも花である。
 メールの件を聞いた直後に花とさやかは同室を解消しているが、これは殺す機会を伺うためだとすると少し変な気もする。
 その後もキーポイントで矢崎家と仲が悪くなるような一言を言っている。
 しかし、花が犯人だった場合、どんな物語になるかというと「昔馴染みの友だちが宗教にかぶれて別人なっていた」くらいの全員共通の物語にしか展開できない。
 それはそれで面白いがもっと面白い結末もあるのではないか。
 一旦次に行く。
・麻衣が犯人だった場合
 これも怪しい。
 夫の隆平への失望の仕方の言い回しが独特で、車とか買い直しができるものに対する言葉のようにさえ見える。「もっと頼れてもいいんだけど……とか「もっとハンドル軽い方がいいんだけど……」みたいじゃないですか。
 彼女が犯人だった場合「離婚できない宗教なので、夫を殉教させるために方舟に連れてきた」とかそんな話にはできそう。
 でも麻衣の行動のせいで喧嘩ばかりしてるため、このままでは夫が殉教しなそう。
 
 
・翔太郎が犯人だった場合
 スマホを見つけた時にすぐ回収せず、柊一と一緒に回収したり、死体の検分と状況確認を全員に強いたりと、「みんなで議論できる状況にすること」に力を尽くすマン。
 しかしこの旅行には偶然参加したので犯人ではないと思う。
 
 
・隆平が犯人だった場合
「DVする男は猟奇殺人もするし、宗教にもハマる」なんて話だと、矮小化がすごい。
 そのリスクを作者が負うとは思わないので犯人ではないと思う。
 
・矢崎妻、息子が犯人だった場合
 うーん。「もしもうまくいかなかったら、ママがあの岩を落とすからね」という発言の、うまくいくがなんなのか。何かしら儀式について理解があるように見受けられる。
 途中参加だったこともあり、儀式の見届け人的な参加をしていたのではないだろうか。
 見届け人は犯人の犯行を庇い、方舟から生還させることで地位を得るとか?
 そうなると矢崎夫の待ち伏せが説明つかない。矢崎妻は信徒で、夫は信徒ではなく、夫の目的は妻の儀式の見届け人を付き添うフリして儀式の失敗を狙っていた?とか?
 うーん……犯人自身では無さそう。
 息子もポテチ食おうとしたくらいしか目立った活躍がないので、息子だけが強烈な信徒で……の物語は読者が怒りそうなので作者もやらないのではないか。
・主人公が犯人の場合
 うーん。無さそう。
■我那覇キヨの結論
 犯人は花と麻衣の二人。花はカルト宗教の信徒。
 麻衣は夫婦問題を花に相談し、花は離婚してくれないなら……と方舟儀式の犠牲者にしてしまうことを計画。
 麻衣はその計画に乗る。
 この後の展開の予想。
 隆平との喧嘩になり、隆平と翔太郎が戦闘不能に。怪我をして自暴自棄になった隆平は自分が岩を落とすことを志願。隆平の恨み言を聞きながら一行は方舟を脱出する。
 数年後、麻衣とくっつき、花からの無茶な仕事を断れなくなる主人公。
 翔太郎と共に方舟儀式の見届け人として参加するため、山を登るのであった。
 

2022年12月7日公開

© 2022 我那覇キヨ

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