アルティメットサミット6の考察

破滅派19号「サミット」応募作品

我那覇キヨ

評論

7,267文字

本稿は任天堂より発売されているゲーム[大乱闘スマッシュブラザーズスペシャル](以下スマブラと記載)を使用して2023年3月に行われた招待制大会【アルティメットサミット6】の考察である

本稿は任天堂より発売されているゲーム[大乱闘スマッシュブラザーズスペシャル](以下、スマブラと記載)を使用して2023年3月に行われた招待制大会【アルティメットサミット6】の考察である。

破滅派は文芸誌であるため、読者諸氏がたまたまスマブラに興味を持っていたという幸運がなければ、本稿は興味の埒外であろう。「どこか遠い国の知らない出来事」として読むのをやめてしまう方もいらっしゃることと思う。だが、せめてこのパラグラフが終わるまでは目を通して欲しい。そもそも物語とは、「どこか遠い国の知らない出来事」の断片を伝えることで、相手をその世界へといざなうことではなかったか?

SNS上で語られる「俺の上司がひどい」という話も、同僚が食事の席で語る「わたしの猫がかわいい」という話も、およそわたしたちがコミュニケーションと認識しているものは、断片の情報を語ることで、聞き手の中に物語が構築される、という構造を持つ。
1944年、心理学者のハイダーが助手のジンメルと共に、三角や丸が移動するだけの90秒程度の短い無声映画を作った。その映画を見ると「大きい三角が暴漢で、小さい三角と丸のカップルを襲うが、すんでのところで難を逃れる」といった具合の物語が、ついつい心の中に浮かんでくるのを感じる。事実として、三角や丸が移動した映像を見ていただけなのを認識した上でなお、人は心の中に物語を構築することを止めることができない。

ことほど左様に、人は何かを見るとそこに物語を見出す生き物なのだ。これは口伝や伝承により教訓を残した太古の時代から、人が物語を継承して生きてきたことと無関係ではないと思う。あえて極端な言い方をすれば「学ぶ」とか「理解する」といった言葉は、その物語が自分の中に構築されたという言葉の言い換えに過ぎないとさえ言えるだろう。

わたしはこの太古のやり方で断片を語り、あなたたちの中に物語が構築されることを試みようと思う。もちろん、このように語りの意図を語ることは、得策ではない。人は、相手が説得をしようとしていると感じると警戒を高め、説得されまいとするものなのだ。本来、物語はこうした警戒の壁をすり抜ける力を持つが、わたしは冒頭に意図を語ることで、せっかくのその力を放棄することにした。これは大変なディスアドバンテージだが、わたしはあえてそうせざるを得なかった。「スマブラの大会の名前がサミットなのだし、今号の破滅派のテーマ、サミットに合致するでしょ」というこじつけが筆者の中で済んでいたとしても、それを読者諸氏に納得していただき、受け取ってもらうためにはこの工程が必要だからだ。あらゆる物語は、語りを受け取り、聞き手が心の中で物語を構築することで初めて物語となる。つまり、本稿が物語足り得るには、読者諸氏の協力が不可欠なのだ。どうかわたしに力を貸して欲しい。

 

本稿はこのようにめんどくさい語り手が、一つのゲーム大会を見て心の中で湧き上がった感動を、まったくの他人に伝えようという試みである。大会を語るため、使用されるゲームの情報や、プレイヤーの情報など、前提となる事項についてもなるべくわかりやすく語るように心がけた。わたしの語りにより「どこか遠い国の知らない出来事」であったものの断片から、読者諸氏の心の中に物語が構築されることがあれば、それ以上の喜びはない。

 

ゲームの情報を語ろう。

まずは一般的な説明を。

スマブラはめちゃくちゃに売れている対戦ゲームだ。2022年12月時点で全世界で三千万本以上、日本だけでも七百万本近く売れている。なんと、対戦格闘ゲームのブームを作ったストリートファイターⅡより二倍近く売れている。

ゲームの内容は、任天堂のマリオやリンク、スプラトゥーンのイカが殴りあうゲームである。他にはセガのソニックに、ストⅡのリュウ、ドラゴンクエストの勇者に、ファイナルファンタジーのクラウド、さらにはマインクラフトのスティーブなど、ゲームの世界のオールスターキャラクターが登場する。それぞれが持ち味を活かし格闘アクションで戦い合うゲームだ。

もう少し踏み込んで説明をすると、実はスマブラは当時複雑化の一途を辿っていた格闘ゲームへのアンチテーゼとして生み出された。
・1体1以外のルールが存在する。
・複雑なコマンド入力は操作には不要。
・平らで平等なフィールドではなく、起伏のある不平等なフィールド。
・相手の体力をゼロにするのではなく、相手にダメージを溜めて吹っ飛ばすルール。
・攻撃を受けてやられている側にも選択肢を用意し、同じ展開になることを避ける。

これらは全て、その時存在する格闘ゲームのアンチとしてゲームデザインに組み込まれた。一作目の時点でこのコンセプトをまとめた開発者の才には舌を巻く。

そしてこのアンチ格闘ゲームとして生み出されたスマブラが、現在最も多くのプレイヤーに遊ばれているファイティングゲームとなっていることには多くの示唆がある。
(もっとも、大会で使用されるルールは1対1だし、フィールドも線対象の平等なステージのみ使用していて、アンチ格闘ゲームだったスマブラが格闘ゲーム化しているという皮肉も同時にあるのだが……)

 

さて、ゲームがすごいことはこれで語った。

だがゲームがすごいからといっても自分はゲームの大会の話なんて興味ないな、という方もおられるだろう。

だから次にわたしが語るのはゲームのプレイヤーのことだ。

対戦ゲームのプレイヤーにはストーリーがある。

それは概ね、こういう物語だ。
①一人で遊んでコンピュータに勝てるようになる。
②その後、兄弟や友人と遊んで、その中で勝てるようになる。
③友だちの兄など、普段あまり触れ合わないような人とゲームを通じて知り合い、勝てるようになる。
④インターネットを駆使し、大会など対戦できる場所へ行くようになる。

今ではネット対戦ができるため、②と③の工程がネット対戦になることも増えた。

身近なところで負けないようになったプレイヤーは、新たな強者を求めてインターネットの海を漂うこととなり、やがて大会などの競技シーンへと繋がるのだ。

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2023年4月18日公開

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