女ともだち

名探偵破滅派『虚魚』応募作品

大猫

エセー

1,581文字

怪談がそれぞれの人間の心が生み出す幻なのだとしたら、この作品は人の心のおぞましさ醜さ悲しさ美しさこそをテーマととらえているように思えてなりません。

今のところ誰も殺されていない。死んだ人はたくさんいるのだけど、明らかに殺された人はいない。これから先も殺人事件が起こるのかどうか分からない。何を予測すればいいのか分からなくて困った。でもこの物語のキーを握っているのはカナと昇のように思える。

カナは三咲よりは幾分若く設定されているようなので、年下の元カレの昇と同じかそれよりも若いくらいだろう。昇の不登校の妹が引っかかってくる。昇の妹はカナが考案したこっくりさん儀式の当事者だと思う。もしかしたら河合季里子が妹なのかもしれない。昇は妹を取り戻そうと少年の頃から調査をしており、こっくりさんネタを敢えて三咲に提供してまで情報を集めようとしている。カナのこともすでに調べ上げているようだ。

季里子が「自分には霊感がある」と言い出したのは目立つためだったのだけど、そのうちにそれを本当だと信じ込んでしまったのではないか。それを後ろで支えるカナ。カナと季里子は強い共依存関係にある。季里子のためにこっくりさんの予言を真実にしようと何らかの方法でクラスメートを殺害したのではないだろうか。カナはこっくりさんの儀式を考え付くなど、創造性が高い人物で、他にも呪いの儀式を思いついたり、手先が器用で釣りや将棋もする。その上、身のこなしが軽く度胸もある。実行犯としてはうってつけだ。でも誰かに精神的に依存する体質のようで、最初は殺そうと思っていた三咲の住まいに何となく居ついてしまったりする。三咲もまたいつの間にかカナに強く依存している。

 

さて、こっくりさん騒動の後のクラスメートの死、狭い町で広がる噂話に耐えかねて季里子一家は夜逃げし、さらには夫婦は離婚して兄と妹は別れて暮らすことになる。季里子は居場所を求めて縁者の和菓子屋万十党へ身を寄せる。そこは実は新興宗教万国八方友縁会の残党のアジトだった。洗脳され自らの宗教的使命に目覚めた季里子は、友縁会の再興のためカリスマ的能力を発揮する。新規入信者を獲得するためネットでオカルト情報を流して若者を集め誘拐する。最後まで入信拒否した者を殺害したかもしれない。川を泳いで逃げようとした若者を捉えてリンチをしてずたずたになった肉体を川に住む魚が食らう。その怨念だけが川を下って海に至り人々に怪談を見せたのだろうか。

それにしても川を下って海へ流れゆく河童、白いワニ、白いぶよぶよした肉塊、あるいは魚とは何だろうか。人語らしい音声を発するところを見るとイルカだろうか。自給自足生活をする友縁会のシンボル的ペットとして飼育していたイルカに、殺害した信者の死体を食わせたのかもしれない。死んだ者の無念怨念がイルカの胎内に棲みついてしまったのかも。川で池で暗渠でイルカが超音波で何事かを語り、それを聞きつけた人の心に何か作用したのではないだろうか。もっとも海でイルカが釣れるとは思えないが。浅沼ビレッジの名物はチーズだと言うが、白いぶよぶよした肉塊はもしかしてチーズ製造の過程での廃棄物だろうか。

 

物語は三咲や昇が友縁会の秘密のアジトへ乗り込んで、実情を暴露する方向に進むと思う。その過程で過去の殺人が露見しそうになったカナは三咲や昇の殺害を図るも果たせず、精神に異常をきたすのではと思う。逃げ道のなくなった季里子はカナと共に死を選ぶ他はないだろう。

あるいはもしかしたら誰も死なないのかも、とも思う。河童、白いワニ、白いぶよぶよした肉塊、あるいは魚は、オカルトブームに乗った人々の欲望が生み出した幻に過ぎず、隠れ家に潜む季里子を始めとする友縁会の人々がどんどん追い詰められて山の奥へ奥へと移動しなければならなかったのかもしれない。『虚魚』というタイトルの意味を最後に大きく問い直すことになるのかもしれない。

物語の展開が後者であることを願ってこの文章を投稿し続きを楽しもうと思う。

2021年12月19日公開

© 2021 大猫

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