『元彼の遺言状』はタイトル通り主人公のバリキャリ女性弁護士である剣持麗子(この名前は『白鳥麗子でございます』という少女漫画を想起させる)の元彼が残した奇妙な遺言をめぐるミステリーである。ミステリーと一口に言っても、いわゆるパズルミステリーというよりサスペンススリラー&お仕事小説といった趣だ。
劇場型遺言から始まるミステリーはやや牧歌的な展開を見せるが、遺言の担当弁護士村山が毒殺されたあたりからきな臭い匂いを放ちはじめ、元彼である栄収の死が病死ではなく毒殺だったのではないかという点から連続殺人事件へと発展していく。その過程でひたすらに金を求める麗子の成長小説的な側面も浮かび上がってくるのだが、それはさておく。
さて、第五章までの争点では栄治の従兄弟である拓末が実は人殺しをしたのではないか、そしてなぜか叔父の銀治(Youtuber!)が失われた金庫を取り戻そうとしているという点で幕を閉じる。
残る二章の展開としては、まず第六章「親子の面子」で金庫を見張る暴力団と麗子のスリリングなバトルがあり、そして、その結果金庫の中の証拠(銀治が求めていたもの)の招待がわかる。それはおそらく下らないものなのだが、その結果、麗子はある事実を発見する。村山を殺してまで犯人が隠したかったものはなにか、ということだ。これはおそらく章題から栄治またはその兄富治の出生にまつわる秘密が暴露されるだろう。おそらく、栄治の実の父が銀治であることが露見する。そして第七章で回答編となる。
第七章で明かされる犯人は富治この証拠は以下の通り。
- 栄治と富治の声がまったく同じだという設定の意味がまだ明かされていない。「栄治の左利き」といった伏線は五章までですでに回収されているが、「兄弟で同じ声」という設定が明かされていない。
- 富治はその声を使って拓未を操り、いかにも犯人だという風に仕立てていることが明かされる。
- 最終章のタイトル「道化の目論見」は、この物語で道化を演じてきた富治の狙いが明かされることを暗示している。
- 繰り返し言及される風習「ポトラッチ」については、物語の最後で富治が自死することによって回収される。これは『金田一少年の事件簿』からつながる、ミステリーの大団円である。
Q.E.D.
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