健人と共に過ごす一瞬一瞬が限りなく貴重なものに思えてくる。
別に特別な瞬間でなくていい。並んで道を歩いていると何も言わずに指先を私の手にからませてきたとき。私が作った料理を「おいしいね」と言って笑顔で食べてくれたとき。テレビのお笑い番組を見て二人で涙が出るほど笑ったとき。若い筋肉のついた腕に抱かれ、甘酸っぱい汗のにおいを胸いっぱいに吸い込んだとき。彼の厚い胸板を一直線に縦断する手術痕を指でなぞりながら、私は彼がそばにいてくれた何でもない時間に感謝する。
年明けまでもてば奇跡、と手術のあとで医師は健人の両親に告げた。いつ鼓動を止めてもおかしくない彼の心臓に対し、病院はその場しのぎの処置しかできなかった。健人の両親は息子にありのままの事実を伝え、残された人生の時間を悔いを残さず自由に過ごすようにと言った。
「俺、どうしたらいい? なんかすごく怖いよ」
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