バイクで死んだ奴はいない

高橋文樹

596文字

僕の友達にバイクの事故で死んだ奴はいない。でも、そんな〝マブダチ〟がいたような気がしてならない。

ハニーローストビーナッツを食べながら

ウイスキーの水割りを 麦茶のように飲み

夜中に ぼくは音楽を聴く

Amazonが聞かせてくれるからだ

 

ぼくはヤンキーが作った歌をよく聴く

そういう時代だったからかもしれないし

そうした地域に生きたからかもしれない

 

チェッカーズはジムとジェーンの伝説について歌う

ジムもジェーンもたぶん日本人なのだ

仲間内のあだ名でそう呼ばれることを望んだのだ

 

ジムはおそらく走り屋で

バイクで事故って死んでしまった

語り手は残された恋人のジェーンのことを愛しながら

二度と追い抜くことのできない恋敵のことを思う

 

高速道路には追悼のテールランプが並ぶ

真っ暗な海の中を 赤い送り火が 爆音を響かせて

きっとジェーンは新しい恋を見つけるだろう

 

ぼくにはバイクの事故で死んだ友達はいない

誰もバイクで死んでいない

 

それでもそんな友達がいたような気がする

 

行き過ぎた喧嘩で 腹を刺されて死んだ友達はいない

音楽とバイクに明け暮れて トラックにはねられた友達はいない

憧れて背中を追い続けたのに もう届かなくなってしまった友達はいない

 

それでもそんな友達がいたような気がする

 

捨て猫みたいな女の子も知らない

赤い皮ジャンを着てゼファーに乗った先輩も知らない

ピリオドの向こう側も知らない

 

それでもそんな青春を送ったような気がする

2017年9月9日公開

© 2017 高橋文樹

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