曰く。そぼ降る

arai

1,434文字

まあたらしい手傘よまわれ。下膨れの視野がこの氾濫した存在を受け入れなくては。
アトリエが妊み出した消音、窒息した未開の地の存在を起立させる碧空に想う。

石造りの遊苑、方望の芝生は蒼青と風に揺れ、

そっと靴を脱ぎ花々と戯れる蝶々を焼き付けて。

 

すべて片方のしびれを齎す。ちいさく切り出された史の地面をのそのそと這うように、撫でるような慈雨と咳き込むような春の嵐もただ、辟易にへたり込む。きっとその夜の延滞に別途、はなひらに耳を傾ける。

 

例えるならば許嫁と作曲家と涙ぐましい蛍光脆弱を見るのも烏滸がましいもの。

 

だがこの五線譜を引かれた漆喰の黴を飲み込み、木漏れ日が唾を吐きここへ落花する、聞こえるだろうか鍵束の錆色が、パステルに粘着した四肢が思うように動かせやしないのに。しかし目の前には本当に玩具箱から、渇いた野次馬と梳きと狂った識者が華やぐほど平坦に殖え広がっていく。

 

まあたらしい手傘よまわれ。下膨れの視野がこの氾濫した存在を受け入れなくては。

アトリエが妊み出した消音、窒息した未開の地の存在を起立させる碧空に想う。

 

教場の袖を曲がると真珠の夜露に爛れた指紋がついてしまって、それは織りなして枕元にしゃがみ込む銀髪の紳士の巣窟と授かり、葉巻の先に火をつけたようなものが、また飛び出るほど重く、放たれるほど緩い、古時計は何回かまばたきとあくびを運んできた。

 

この傷だらけの下卑た指先が教本箱に置いていかれた。クソ浸けたような擬態燭が魂をそこら中に縫い付け、影を持ち出したようで。地に足はついているのだが、まるで雲の上でも歩いたような新鮮とした気持ちで、知らぬ相手を待っている手持ち無沙汰にきっとある。

 

半刻ほどの記憶が経験を採り上げ、擦り寄せ、思い起こせばもう自分の立ち位置で雄弁になるということ。教えの通り旗日で閉じられた食堂の、その奥にあるベランダの鉛板は磨き上げられ命乞いの雰囲気でやはり厭われており。烏や狸共が、生意気にもこの事実を捻じ曲げて用途必死に励んで見せていたが。

 

それで、バットエンドの月食の触りと檻の中では決して耳を貸さないで、

光合成をおさえる二重生活、お話しますから。とか細いだけの紐を手繰る。

 

一握りの記者の生意気な湧き水に筏を置いて、気丈な手燭と惨めな樺色の海に手が届きそうになる。並々と継がれたレトログラスの中身は何であろうか。覗き込んで深く堕ちることはわかっていて、一粒溢す、暗色に溶け込んだ、ちょんと撥ねたウタカタは限りなく啜り上げ舌を焼く。

 

とんだ生き恥だと、熱を入れ転めく眩く。光の足りない修道院は陸の孤島にある印画に伝染るのだ。もうすでに曇りの爪痕と涙の影そばかすだらけの女の子を訪れ、それで回想するまばらなままの迷宮の感覚は等しくなく、わからなくなった。

 

それでも晴天の吐息を注ぎ込み、屍の房の秩序に躍る、前科過半数の美声に値し、非常に大きい仰向きの悪い女がいる。劇壇に次のチャンスはないと知るわたくしと。戒めと銀糸の砂嵐の叫び影響にほころぶ、明晰に編まれたブロンズ像が、ひりりとうまれるような、夏。

 

斑常夏の見えざる踏切の腹に一物ありそうな、

粗雑な土を観測する花同士よってきたる。

 

眼下に犇めく向日葵と木漏れ日は、呱呱の声をともに上げ、飛び石にある水没した太陽に潤んで向かい合う。惨敗。キャラメルじみた恋愛感情は骨と皮で演奏され、胎動と弾力と前後ろの余暇、羽織と紙幣と翼はないけれど、ここは苑、ヒミツそぼ降る。

 

嗚呼 ご不承、くださいませ。

2022年6月9日公開

© 2022 arai

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